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商業都市

アレク達は街の入口の検閲に並んでいると、前の方から怒鳴り合いが聞こえてきた。


「なんで入市税がこんなに高くなってるんだよ!」

「今年からこの金額になったんだ。入りたいならおとなしく払え!」

「冗談じゃねえよ!これじゃ足が出ちまうよ!」


どうやら、街に入る税金が上がったようだ。しばらくしてアレク達の順番が回ってきた。


「止まれ!入市税として一人銀貨3枚だ。何人だ?」

「・・4人ですが、3名は貴族の護衛です」

「何?貴族の護衛?貴族の名は?」

「エカテリーナ・ロマノフ辺境伯令嬢です」

「な、なんだと?」


衛兵は焦ったように、衛兵詰所に戻っていくと、隊長らしき人と話し始めた。しばらくして隊長らしき人と一緒に戻ってきた。


「エカテリーナ様、大変恐縮ですが何か身分を証明できるものをお持ちですか?」

「この短剣でよろしいかしら?」


エカテリーナは御者台に座りながら、準備していた短剣を隊長にみせると、隊長はバツが悪そうに話しだした。


「なぜ貴族門からお入りになりませんので?」

「ロマノフ家の館がこの街にはありませんので、普通に並ばせて頂いたのですが、問題ありまして?」

「いや、それはそうなのですが・・。恐縮ですがご来訪された理由をお聞きしても宜しいでしょうか?」

「観光です」

「・・ありがとうございます。入市税は結構ですのでお入りください」

「払わなくていいのかしら?」

「はい。どうぞお通りください」


なにやら隊長は困惑したような顔をしながら、通過を許可した。アレクは入市税の増税の事は他の貴族には秘密になっているのではないかと思っていた。馬車は門を通り、街に入る。


「皆さん。せっかくですから、1日宿に止まっていきませんか?」

「「「賛成!」」」


どうやら皆、野宿に疲れているようだった。アレクは通りの人に近くの宿の場所を聞くとそこに向かった。エカテリーナの話だとこの街の人口は15万人もいるらしく、商業都市だけあって多くのお店が所狭しと並んでいる。


遠方から商売に来ている人も多く、宿の数も多いらしい。アレク達は教えてもらったとおりの道を行くと、大きな看板の宿が見えてきた。大公都の宿にも負けないであろう大きな宿だ。アレクとマリーが2人で宿に入り受付で部屋が取れること確認すると、馬車に戻って馬車留めに入れた。


貴重品の荷物だけ持って、宿の受付に4人で向かうと、受付から4人部屋の鍵を受け取り1泊の料金である銀貨1枚を払って鍵を貰った。4人で部屋に入りそれぞれの寝台に座ると、皆で話しだした。


「銀貨1枚は高い。そんな部屋じゃないよな」

「確か灯台都市は大銅貨5枚でしたね」

「えー?そんなに悪い部屋じゃないけどなー?」


さすがに金銭感覚に長けたマルティーナの意見は辛辣だが、アレクもちょっと高いとは感じている。


「あの皆さん・・、同じ部屋で寝るのですか?」

「あれ?カーチャ恥ずかしいのー?」


エカテリーナは1人部屋に慣れているのか、皆で同じ部屋なのに恥ずかしさを感じたようだ。


「エカテリーナ様、野宿では天幕でみんな一緒に寝ていたと思いますが・・」

「あ・・」


どうも外で寝るのと、部屋では感覚が違うようだ。アレクはエカテリーナの荷物を寝台の下にいれると、今後の方針について話し始めた。


「僕はちょっと良い馬車が売っていないか、見に行ってみたいと思っています」

「あたいは、市場に行きたいね」

「私はカーチャと美味しいもの!」

「いいですねマリー。ぜひ一緒に行きましょう」


どうやら皆、目的は決まったようだ。夕飯には各自戻ってくるように約束し、それぞれの場所に向かっていった。アレクも宿の受付に馬車を売っている場所を聞くと、そこに向かった。



さすがに商業都市だけあって馬車専門のお店がある。基本は特注生産のようだが、駅馬車のように同じ型を複数作って売ってもいるらしく、お店の中に多彩な馬車が所狭しとならんでいる。アレクはまたワクワクした気持ちになってしまい、いろいろな馬車を見て扉を開けたり、乗ってみたりしていた。


「坊や、あまり遊んじゃだめよ?」


お店の人に怒られてしまった。

アレクは我に返って、今回買いたい馬車の要件を思い出していた。


  ・木か金属で囲われており、賊の侵入が困難な事。

  ・扉には中から鍵が閉められること。

  ・中で4人が寝れるほど大きいこと

  ・屋根の上に荷台がついていること。

  ・御者台は大きいこと


条件は厳しいが、どうせ買うのであれば意味のあるものを買いたい。アレクはいろいろ見て回ると、1つだけ条件に近いものを発見した。但しその馬車には、屋根に荷物置きがなく、扉に鍵がついていないようだった。しかし他の要件はすべて満たしている。


アレクは一応、値段を聞いてみようと考え、先程の店員に声を掛けた。店員はアレクが年に似合わずテキパキと質問するので、びっくりしながらも丁寧に答えてくれた。


「現状のままですと、金貨2枚になります」


た、高い。駅馬車なら新品でも銀貨50枚ぐらいが相場だ。この馬車はその4倍もする。


「扉への鍵と屋根の上の荷物置きを設置すると追加で銀貨30枚ですね。他にも劇的に乗り心地を改善するための、最新の金属弾機式の車台に変えると追加で金貨1枚です。他にも乗り降りが楽になる、乗降台を取り付けると銀貨15枚。御者台の上に雨天時用の折り畳める布製庇ひさしが銀貨5枚です」


アレクは話しを聞けば聞くほど、全部の装備を追加したくなっていた。もし全部の装備をつけると、合計金貨3枚と銀貨50枚だ。買えない金額ではない。アレクは駅馬車の下取りについて聞いてみた。


「馬の値段を含めなければ、買取は銀貨10枚ですね」


恐ろしい値段の差だ。最低限の馬車の機能は変わらないのに、片や銀貨10枚に、片や銀貨だと350枚だ。アレクは考えてみた。もしクロエを救出しても、僕とクロエには帰る国も家も無い。そうなれば自分たちで働いて生きていかなくてはならない。


そうなのだ、旅商は何も無い自分たちにも出来る仕事であり、安全な馬車は必要なのだ。そう必要なのだ!と、アレクは自分に言い訳するように独り言を言っていた。


「全装備付きなら値引きはありませんか?」

「うーん、基本はやってないけど多少買取の金額に色は付けられるかもね」

「それじゃ買います」

「ええ!?本当に?君まだ子供だよね?お父さんお母さんが買うの?」

「僕が買います。お金は今払いますし、ロマノフ家の後ろ盾もあります」


アレクはロマノフ辺境伯に貰った短剣を店員さんに見せると、店員は目が飛び出るように驚き、走って店の奥から店長らしき人を連れてきた。


「ご、ご来店ありがとうございます!こちらの馬車のお買い上げ頂き誠にありがとうごいます」

「いえ、こちらこそ、お時間を頂いて申し訳ありません」

「今回お知り合いになれた感謝として、古い馬車の買取も込で金貨3枚で勉強させて頂きます!」

「え?それですと銀貨40枚ぐらい安い事になりますが・・」

「もちろん構いません!」

「それはありがとうございます!」


アレクはロマノフ家の権勢の一端を思い知り本当に驚いた。素直に値引き後の金貨3枚を店長に渡し、受領証を貰った。のちほど下取りの馬車を持ってくると言うと、追加の装備品を取り付ける作業に3日ほどかかるというので、3日後に改めてくることを伝えると店を出た。


「か、買ってしまった・・・」


アレクは喜びながらも使ってしまったお金は稼がなければと思い、また魔石店を探し始めた。しかしあまりに広く、店も多いため見つけられず、結局はまた通りすがりの人に魔石店の場所を聞くことで、見つけることが出た。お店が多いのは良いがここまで多いと探すのも大変だ。


アレクは店が見つかるとすぐに魔石店に入っていった。早速、火石の値段をみると銀貨32枚に上がっている。一体どういうことなんだろうか?これではまるで、大陸全土で魔石の値が上がっていることになる。いくら戦争を始める国があるとはいえ、ここまで広範囲に影響するものなんだろうか。


さらに驚いたのが、治療石だ。なんと金貨1枚らしいが、売り切れの為在庫がないらしい。確かに戦争になったら、治療石の方が火石よりも価値は高そうだが、高すぎないだろうか・・。続けて原石を探してみた。見つけたものの、ここの原石も埃を被っている。買う人がいないのだろう。アレクは店員を呼んだ。


「いらっしゃいませ」

「原石は1ついくらですか?」

「銀貨1枚ですね。でも普通の方は使えませんよ?」

「あ、僕は旅商なので違う国で売ろうかと」

「なるほど、今なら在庫は7個ほどあります」

「それじゃ全部頂けますか?」

「ありがとうございます!」


アレクは銀貨7枚を払い原石7個を買った。また袋を無料で貰えた。不良在庫が減って、お店も嬉しかったのかもしれない。明日またマルティーナに治療石を10個売りに来てもらおう。アレクは魔石店を出た後は、のんびりと街を歩いて、どんなお店があるのか見て回っていた。


街を歩いていると、物々しい雰囲気で騎士団の人々が駆け足で通りを走り抜けていく。騎士達の面々には焦燥感が張り付いており、なにか大変な事が起きているようだ。アレクは近くの露天の人に何があったのかを聞いてみる。


「ああ、たぶん化物の討伐だろう。去年ぐらいから街の近くで化物がでているらしく、こうやって騎士団が毎回討伐に行っているのさ。詳しくはわからないが呪いじゃないかって噂もある」

「呪い?」

「詳しくは知らんが、領主の伯爵様が別荘を建てるのに、湖畔近くにあった竜泉を埋めてしまったらしい。竜泉を埋めたお陰で湖畔の霧は出なくなったらしいけど、化物が出るんじゃたまんないよ・・」


アレクは、入市税が上がったのはこの討伐隊の費用に回っているとすぐに理解した。確かに領主の失策によって、税金を上げる事になった事が大公に発覚したら、爵位を降格されかねない話だ。しかし聖泉にしても竜泉にしても、一度埋めてしまうと掘り返しても復活しないと聞いたことがある。


「シロチェンコ伯爵も大変ですね、ただでさえ伯爵にしては小さい領地なのに・・」


シロチェンコ伯爵の領地は、この商業都市を含めて他に小さい街が数箇ヶ所、あとは村々だけで面積も狭く総人口でも20万人しかいない。この商業都市に15万人住んでいるので、いかに小さいか想像できてしまう。たぶん領軍も少ないだろう。化物がどのくらいの強さか分からないが大変そうだ。


アレクは騎士団が通り過ぎてから、そろそろ夕食の時間のため宿に戻っていった。



「アレク様。シロチェンコ伯爵は自分の失態で呼び寄せた化物の、討伐費用として増税していた訳ですか?」

「ええ、そう考えるのが自然かと」

「なるほど、衛兵たちの不審な態度が良く分かりました」

「そもそもシロチェンコ伯爵の領地は伯爵領としては小さすぎるので、降格するべきなのではと、伯爵以上の貴族で構成される元老院でも議題になった事があったと聞いています」

「それでは彼らとしては、今回の失態は隠しておきたいところですね」


アレクとエカテリーナな面倒な時期に来てしまったと、難しい顔をしながら黙っていると、マリーが元気よく、とんでもない事を言い出した。


「アレクちゃん!化物見に行こうよ!」

「マリー。化物は危険だよ、観光気分で行くと大怪我をするよ?」

「ええ?アレクは化物が住んでる森で普通に開拓してたでしょ?」


マリーが常闇の森とアレクの話をすると、マルティーナもエカテリーナもびっくりした顔でアレクを見た。


「アレク、おまえ化物と戦ったことあるのか?」

「さすがアレク様!化物すら恐れぬその勇気、感服致しました!」


3人から問いただされ、アレクは常闇の森で戦った話と、どのような化物だったのかを説明した。岩山の光る石や、洞窟については話しをしなかった。石が体に埋め込まれたと聞いて、普通の人なら人間扱いしなくなるかもしれないからだ。


「それじゃ、怪物を見に行きたい人は立ってー!」

「「バタン」」


3人が立ち上がったのを見たアレクは、深く大きなため息をついて「危険そうだったらすぐに逃げるよ」と皆に釘を刺していた。4人はすっかり忘れていた夕食を1階の食堂で取ると、すぐに部屋に戻り、女の子3人は自分が聞いた化物話や、読んだ事のある化物話で盛り上がっていた。


翌朝、新しい馬車の購入報告を忘れていたアレクは、朝食を取っている時に皆に伝えたが、あまり驚いた反応が返ってこなかった。


「新品の馬車なんですよ?屋根付きなんですよ?」


逆にアレクの熱のこもった馬車の紹介を聞いて、3人は「すごいねー」と、答えると馬車の話はあっさり終ってしまった。アレクは新しい馬車の装備についても話したかったが、誰も聞いてくれないことが分かると、いじけながら朝食を食べ終えた。


アレクは馬車の受け取りには3日かかるため、皆にも滞在期間を延長することを伝えると、皆はそちらのほうが嬉しそうだった。宿にも2日延長することを伝えて、先に2日分の宿代も払っておいた。その時に、化物が出る場所も宿の受付嬢に聞いておいた。


『正直、気が重いです・・』


アレクは独りごちながら、化物が出ると教えてもらった湖畔の森に向けて馬車を走らせていた。その湖畔は商業都市から馬車で1時間くらいの所にあり、化物騒ぎがなければ良い保養地に見える。湖畔の森の入口あたりが騒がしい、どうやら他にも野次馬で来ている街の人達もおり、なぜか露店まで並んでいる。


「商魂たくましい街ですね・・」


どうやら化物が出るのは湖畔の横にある森の中かららしく、森の入り口には柵が設けられている。アレク達は馬車を近くに停めて、露店に行ってみると、化物焼きと書かれた普通の小麦のお菓子や、化物飴といった、どう見ても普通の飴が売られている。


マリーとエカテリーナが飴を買ってみたいというので、4個の飴を買って食べると本当に普通の飴だった。アレクは店の人に化物について聞いてみる。


「すでに結構倒したみたいだよ?今回も死人は出なかったけど、怪我人は多かったらしく、もう騎士団の20人くらいは怪我をしたらしい」

「化物は見ましたか?」

「いや、森の外まで出てきたのはいないね」


アレク達はもう少し森に近づいてみた。そこでは騎士団の人々が怪我人を馬車に乗せ、次の調査隊を編成し直しているようだ。なるほど治療石が売れるわけだ。10人単位で隊が編成されると、調査隊が森に入っていく。どうやらこれ以上先は一般人は入れないらしく、柵の近くまでいくと警備をしている騎士に怒られてしまった。


「おいこら!これ以上は入ってはならん!後ろに戻れ!」


アレク達は騎士にお辞儀をして謝ると、少し下がって森の中を見てみる。しかし何も見えない。


「アレクちゃん、何も見えないね」

「それの方が安全でいいと思うけど・・」


4人は飴を食べながら森を暫く見ていると、森の中から悲鳴が聞こえてきた。



聖泉も竜泉も昔の名前は違っていました。化物語という単語はまずそうだったので、化物話という単語を使っています。

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