アレクシス・スノーク
初めての小説です。
楽しんでもらえるようにがんばります。
質素な王宮に悲鳴や怒号が折り重なるように響いている。
一体何が起きたのか?8歳になったばかりの王子アレクシスは部屋の寝台の下で怯えていた。
「王族は皆殺しだ!ひとり残らず探し出せ!」
聞いたこともない恐ろしい言葉が聞こえてくる。
大勢の足音に、乱暴に開けられたであろうドアが開く音。
そしてそれに続く悲鳴と懇願の叫び。
最初に聞こえた悲鳴があまりにも恐ろしくアレクシスはすぐに飛び起きて寝台の下に逃げ込んでいた。
アレクシスにとっての寝台の下は、怖いことや嫌なことがあると逃げ込むいつもの場所だった。
『父上・・・、母上・・・、怖いよ・・』
言葉には出さず心の中で両親に助けを求めるものの、手足は恐怖によってすくみ上がっており、まるでおもちゃのように震えている。
実際にはまだ20分程度しか経っていないはずのこの時間が、アレクシスにとっては永遠とも思える時間に感じられていた。
「バタン!」
突然、力強く部屋のドアが開かれた。誰かが入ってきたのだ。
アレクシスの体はさらに硬直し、呼吸すら困難になってしまった。
『い、息が・・・、く、苦しい・・』
あまりの恐怖に、過呼吸のような呼吸困難な状態になっていた。
まるで心と身体が別々になってしまった感覚。
死とはこのような感覚なのだろうか。アレクシスは自分はこれで死んでしまうのだろうと思っていた。
「(王子!どちらですか?)」
突然部屋に侵入してきた者は、小さな声で王子に呼びかけた。しかし部屋から何の返事も無い。
アレクシスは聞き慣れた声に小さく安堵したものの、声も体も全く反応しない。
気がついて貰う方法がない。
しかし、侵入者はいつものように寝台の下を覗き込みアレクシスに安堵の顔を向けた。
「(やはり、ここでしたか。時間がありません。すぐに城を脱出します!)」
侵入者はアレクシスの様子が尋常でないことを悟ると、手を伸ばし引きずるようにアレクシスを寝台の下から引きずり出した。
「(ご無礼失礼致します。緊張されているようなので引きずり出させて頂きました)」
続けて過呼吸のような状態を、無理矢理にアレクシスの背を伸ばさせ、胸に手を当てたあと強い衝撃が体に響く。
切り離された体の感覚が戻り始め、逞しくも見慣れた顔を見た安心感によって、少し呼吸も戻ってきていた。
侵入者はアレクシスの呼吸を確認すると、素早く脇に抱え部屋を出た。
「(王の書斎にある秘密の通路で城外に出ます。すでに我が娘が妹君を救出に向かっています)」
アレクシスは侵入者に抱きかかえられながら、妹の事を考えていた。
自分より2つ下の妹は元気がありアレクシスによく懐いていた。
妹の顔を思い出すと、自分が兄としてしっかりしなければと考えた。
しかし現実は未だ手足の震えは収まらず、喉が焼け付くように乾いて声も上手く出せない。
「(ド、ドミニク、父上と母上は?)」
絞り出すように出した声に、アレクシスを脇に抱えたドミニク騎士団長は、少しの逡巡のあと、口を開いた。
「(・・わかりません・・)」
ドミニクの顔は何かに耐えているような苦しそうな表情に変わっていた。
短い会話の間に2人は書斎に到着していた。
そこにはドミニクの娘ソフィと、アレクシスの妹のクロエが真っ暗な部屋の中で待っていた。
ソフィは、アレクシスとドミニクを見ると泣きそうな顔で安堵の表情を浮かべると、2人に飛びつくよう抱きしめた。
「(父さんも、アレクも無事で良かった・・)」
ソフィが父親に抱きつき呟いているとき、ドミニクは抱きかかえたアレクをゆっくり下ろしていた。
「(時間がない。ソフィ、急いで2人を連れて城を出ろ。この通路は誰も知らない。)」
もちろんこの秘密の通路は王族の緊急避難用の為、彼以外、王と妃だけは知っている。
ドミニクは真剣な顔でソフィに次の行動の指示をした。
ソフィは強い視線と顔を縦に振ることで父親に返事をすると、机の下に隠されていた急な階段を降りだした。
「(アレク、クロエ行くわよ。私の後ろに付いてきて。父さんは隠し通路を机で閉じたあと、別行動になるから)」
2人はソフィの後について隠し階段を降りていった。ソフィが小さな光る石を取り出すと、狭くジメジメした通路にうっすらと光が広がる。
降りてきた階段の上の方からゴトゴトという音が聞こえる。
ドミニクによって書斎の机が移動され入口は閉じられたようだ。
たぶん隠蔽工作もしているのだろう。
その後十秒ほどで静かになり薄暗い隠し通路はソフィ・アレク・クロエの3人だけになった。
恐ろしかった悲鳴や絶叫が聞こえなくなり、あたりに静寂が満ち始める。
「大丈夫、怖がらなくても、すぐに外に出れるから・・」
ソフィは2人に気丈に話しかけていたが、このソフィとて未だ子供である。
壁を照らす小さな光は小刻みに震えている。
ドミニク騎士団長の娘として、小さいうちから騎士として訓練や心構えなど英才教育されてきてはいるが、彼女はまだ騎士見習いの10歳だ。成人する15歳までは、まだ5年もある。
子供の時は女子の方が成長が早いとはいえ、まだまだ150cm程度の身長の子供に、王族2人の責任まで背負わされることになったのだ。
「この隠し通路は城近くの森の小屋あたりに出られるはずよ。近くの川には小舟がおいてあるから、それで脱出する。それと王家の宝剣をアレクに渡しておくね。これは身分を証明する大事なものだから。大きくて重いけど持てる?」
「・・大丈夫だと思います。」
大人びた言い方でソフィは今後の説明をすると、大きな剣をアレクに渡した。
ずしりと剣の重さがアレクの手に感じられる。
するとアレクの服の裾を掴んでいたクロエがじっとアレクを見つめてくる。
「大丈夫だよクロエ。僕も剣術を習ってきたんだ。これでクロエを守るよ」
クロエはアレクの宣言を聞くと歩きながらしがみついてきた。
アレクは空いている手で、やさしくクロエの頭を撫でると前を向いた。
すでにかなりの時間歩いている。すると遠くが見えるようにソフィが魔石を上に上げた。
前には巨大なレバーと小さな石のドアが見える。
「出口だわ。レバーを下げている間しか開かないから、開けたら2人はすぐに外に出て」
ソフィは巨大なレバーを、体いっぱい使って引き下げ始めた。
するとレバーの下がる速度に合わせて小さな石の扉は、ゆっくりと下から上に開き出した。
ある程度の隙間ができたところで、アレクが外に転がり出ると、続いてクロエが中腰の姿勢で外にでた。
扉が十分に開いたところで、ソフィも外に転がりだしてきた。
するとドアがまたゆっくり下がり締まりだした。
どうやら、扉はレバーを引いている間だけ開き、また外からは開けられないようになっているようだ。
「・・何かおかしいわ・・、人の気配がする・・」
ソフィは扉から出てきた途端、胡乱な気配を感じたようだ。
ソフィは腰にある剣の安全紐を外しながら周りを警戒し始めた。
普段からこの場所には人は来ない。森と川以外に何も無く、何より皇族の私有地のためだ。
警戒しながら小屋の近くまで来ると、バサッという風切り音と共に薄暗い森の中から突然2人の男が飛び出してきた。
「誰も来ないのかと思ったぜ!待たせやが・・」
2人のうち体格の良い男の方が、前を歩きながら3人の子供に言葉を投げかけていた。
どうやら待ち伏せされていたらしい。
しかし男の言葉が終わるよりも先にソフィが男に向かって走り出しだす。
男との距離が残り3歩程度の距離に近づくと、ソフィの剣は居合の如く鞘の抵抗を使い高速に相手の足を切り裂いていた。
「って・・うげえっ!?あ、足が!?」
ソフィは自分の身長を考え、自分の剣が相手の急所に届かないことを瞬時に判断すると、男の左腿の部分をバッサリと切り裂いていたのだ。
切られた腿からは大量の血が吹き出し、大きな男は叫び声を上げながら、地面に崩れ落ちた。しかしソフィの動きは止まらなかった。
低い姿勢のまま、倒れた男を隠れ蓑に、もうひとりの痩せた男の後ろに素早く回り込む。
その時、痩せた男の顔が瞬時に振り向かれ、視線がソフィの目と交差する。
『まずい!こいつはやり手だわ!』
痩せた男は振り向きながら体全体の捻りを使い、恐ろしいほどの速度で上段から袈裟斬りを仕掛けてきた。
ソフィは剣で受けてはそのまま切られると瞬時に判断し、体を軋ませながら男の更に後ろに飛び込んだ。
しかし男の剣先はまるで吸い付くようにソフィの方に流れていく。
刹那、剣先はソフィの靴の先をかすり、地面に爆音と共に吸い込まれた。
「ほほう、子供にしてはやるものだ。待ったかいがあったな。」
「いてえ!いてえ!!兄ちゃん!早くその糞ガキを殺してくれ!」
「解っている。少し待て」
切られて蹲っている男は大きな体を使って叫びまくっている。
ソフィは起き上がり低い姿勢のまま剣を持ち直す。
ヤンと呼ばれる痩せた男もソフィの方に向くと剣を構え直した。
2人はまるで仕切り直しを申し合わせたように対峙すると、お互いに距離を取り始め、相手の隙を狙い始めた。
その2人の少し離れたところにいた、アレクは男達の会話を聞いて、やっと我に戻っていた。
ソフィのあまりに早い行動と目の前で起きた惨劇に呆けてしまっていたのだ。
しかし気を取り直してみると、この状況はかなり危険な状態である。
「(クロエ、走るよ。まっすぐ前を見て走るんだよ)」
アレクは自分の実力では、ソフィの邪魔になると考えクロエと一緒にここから離れることを決心する。
自分の服の裾を持っていたクロエの手を自分の手でしっかりと繋ぎ、2人は一斉に走り出した。
クロエの手を握った手から、まるで勇気が流れ込むようにアレクの心は自分の役割を理解していた。
「む!?」
ヤンが一瞬2人に気を取られた瞬間。ソフィの鋭い突きがヤンの左腿に突き刺さる。
しかし瞬時に剣は引き戻されソフィは後ろに下がった。
「おいおい、油断も隙も無いな・・、しかも小さい上に低い姿勢だと本当に遣りづらい。」
確かにソフィの姿勢も戦術も習った騎士のそれとはかけ離れている。
しかしソフィは大人相手に普段の騎士の剣術では通用しないとの直感を得ていた。
そのため彼女の動きも姿勢も、まるで獣のような剣術になっている。
しかし急所ではない部分になんど刺し傷を与えても、とても倒せない事も解っていた。
「2人とも!先に逃げて!私は2人を倒したら別に逃げるから!」
「・・随分と自信があるようだな。相手の実力もわからない小童が!」
ヤンは逃げ出している2人よりも、ソフィの言い方に腹が立っていた。
明らかにこの少女はヤンを舐めている。
堂々と自分を倒すと言っているのだ。
ヤンが纏っていた雰囲気が重くなる。表情にも強い怒りがにじみ出てきた。
しかしソフィは、そんなヤンの様子を見て安堵していた。これで2人に時間ができると。
その時、アレクはソフィの声を後ろから聞きながら、クロエと走り続けていた。
ソフィの言葉の「別に逃げるから!」というのは待っていたら危険だという事だ。
できるだけこの場から離れないとならない。
小屋から川まではすぐだった。突然森が開け川が現れた。川の畔には杭に結ばれた小舟がある。
アレクは宝剣を小舟に投げ入れると杭の縄を解きだしながらクロエに叫ぶ。。
「クロエ!急いで乗って!」
長い間使われなかった縄は解ける気配が無い。
アレクは近場の石を掴み、縄をガリガリ削り出した。しかし中々切れない。
しかしこれでは時間がかかると感じたアレクは、敵がすぐに来るのではと不安になり始めた。
不安と焦りの中、ふとアレクは杭の根本が腐っていることに気づき、何度も杭を蹴って倒した。
「やった!これで舟を出せる!」
アレクは舟を押しながら川に入る。
舟が浮いて流れ始めたことを確認すると、川の中から更に強く舟を押す。
そして素早く舟の中に這い上がった。
「もう大丈夫だよ、クロエ。ソフィは別に逃げると言ってたから、後で会えるよ」
「うん・・」
アレクは舟に乗って流れて始めると、段々とソフィの事が心配になってきた。
本当に先に逃げてよかったのだろうか。
しかしソフィは年は2つしか違わないが剣の腕はアレクよりも圧倒的に強く、すごく大人びていた。
アレクにとってはまるで姉のように頼りにしていた存在である。彼女の言うことはいつも正しい。
きっと後で会えるはずと、アレクは思い込むことで舟の中で横になった。
「ところで兄様、さっきの縄は宝剣で切ればよかったのでは?」
「・・・・」
クロエは縄をほどこうとして難儀していたアレクの対応について、素朴な感想を述べていた。
<お読み頂く際の問題点>
※徒に晦渋な文章や、普段の生活に登場しない単語は極力使わないようにしています。もし難しい単語や言い回しに期待されている方がいらっしゃいましたら、ご期待には全く添えないと思います。
※すぐに読み進められる、スピーディーな展開に向けて努力していますが、色々力が及んでいません。その弊害として必要な状況説明に言葉が足りない場合もあります。ご指摘頂けると助かります。
※小説初心者なため稚拙な文章が散見されます。何卒その点をご了承賜りたくお願い申し上げます。
※世界観を壊すためカタカナ英語は極力使わないようにしています。ただ説明に長文が必要でその文章が回りくどくなってしまう場合には利用しています。特に固有名詞に多くなっています
※同じ時、別の場所での説明をするようなシーンを切り替えは、極力行わないようにしています。目的は、読者を主人公視点のみにすることで没入感を出そうというものです。これによる弊害の方が大きかった場合、変更するかもしれません。