建国
時刻は放課後、教室は騒ついていて誰も帰っていなかった。
「今からみんなには、私と戦って貰います」
立花さんが教壇に立ち、突然そう言ったからだ。
…何処のバトルロワイヤルだよ。
教室の後ろの扉には宮園さんがいる。
見張りってわけか。
「なんでこんな事をするんですか?」
学級委員長の佐藤さんが言うと答えが返ってきた。
「人を探しているの、シールドナイトよ、誰か知らない?」
みんな顔を見合わせる。
キャラクターネームで本人なんて分からないのに、職業だけで特定なんて出来る訳がない。
まさか、見つからなかったら全クラスこの調子で回るつもりなのかな。
埒があかない、みんなに迷惑だし、このままじゃクラスの立花さんの立場も悪くなる。
しょうがない。
「それじゃ、僕から戦闘を申し込むよ。勝ったら帰れるんだよね?」
「そうよ、それじゃ…」
「ちょっと待った。戦闘は二人対戦の練習用フリー・バトルでいい?」
「いいわ、それじゃ設定して…開始!」
接続開始、僕らは味気ない練習用ステージに立っている。
ここなら二人きり、立花さん以外に知られる事はないはず。
「あなただったのね!」
ツインテールの双剣使い『アリサ』が目の前にいる。
「取り敢えず宮園さんに連絡して、みんなを解放してもらえるかな」
「な、なによ、人を悪者みたいに…」
なにかブツブツ言いながら、メールしている。
「それじゃ、お待たせ。はじめましょ!」
「そうだね、それじゃ降伏します」
システムが僕の敗北を告げたのでログアウトした。
「ま、待ちなさい!?」
「いやだよ!」
走って教室から出る。
今日は僕の大好物のコロッケだ。
これだけは、譲れない。
そのまま家に速攻で帰った。
次の日。
「なんで昨日は逃げたのよぅ!」
僕の机を両手でバンバン叩く立花さん。
同じ学校の同じクラスなんだしこうなるか。
「大事な用事があったんだよ」
「今日は?」
僕らの会話に宮園さんがはいってきた。
「今日は別に…」
「なら放課後付き合って」
「いい?約束だからねっ!」
返事する間もなく、約束が決まった。
午前の授業も終わり昼休み、お弁当を出して村を起動、働く獣人と畑仕事をする。
ガタガタン。
立花さんと宮園さんが机を近づけてきた。
「一緒にいい?」
「いいけど…」
「勘違いしないでよ?あんたがまた逃げないようによ」
そんなことを言って、二人はお弁当を取り出した。
「遅くなったけど、あの時はありがとう。助かったわ」
「いや、たいしたことじゃないよ」
宮園さんの眼鏡の奥、何か含みのある光を感じた。
「なによ、二人で見つめ合って!」
「い、いや、そんなつもりはないよ」
「そんな事より、あんたのあの回避なんなの?」
「スキル…じゃないわね。武器かな」
二人ともよく見てる、さて、どう誤魔化したものか。
チャイムが鳴る、助かった。
「あ、ほら昼休み終わるよ」
「じゃ、放課後ね」
「逃げんじゃないわよ!」
なんだかなぁ、まぁ取って食われるわけじゃなさそうだしいいか。
僕は少し帰りが遅くなるかもしれないと母にメールした。
そして放課後。
「さぁ、いくわよ!」
「あ、うん」
「こっちよ」
両手に華…じゃないか、拉致される宇宙人みたく両脇を固められた。
学校を出て商店街の裏路地、人通りも少ない地元の人ぐらいしか通らない道。
「ここよ」
「おばちゃん、奥借りるね」
はいよ、と姿は見えないが声が聞こえた。
昔ながらの駄菓子屋。
学園都市の近未来的な中に、昭和を感じる佇まい。
僕達は、店の奥に入った。
「さて、本題にはいりましょう」
「な、なに?」
「私達と契約して欲しいの」
「本気?」
「本気よ」
騎士契約は、このゲームの要だ。
僕が契約を受け入れれば、彼女達は僕の騎士になり、僕は王になる。
「意味は分かって言っているのかい?」
「勿論、だからここに連れてきたのよ」
「どう言うこと?」
「ここはホール・アウトなのよ、おばちゃんが電化製品苦手なせいで、携帯電波の届かない場所よ」
携帯を見ると圏外になっている、そういえば店に入る時、ダイヤル式の電話があったのを思い出した。
「それは、分かったけど…」
騎士契約、騎士は王に全てを捧げる。
ゲーム内は勿論、ゲーム外でも影響する。
騎士は自分の大事な秘密を王に差し出す。
入学時の試験と検査、その項目の一つに『あなたの秘密はなんですか?』と言うのがある。
それが騎士契約のパスワードだ。
王様に自分の秘密を教えると言う事は、余程の信頼関係が必要になる。
「それじゃ亜里抄、終わったら呼んで」
「う、うん…」
宮園さんが部屋を出ると立花さんは、おもむろにスカートを捲って見せた。
「あ、あの、か、可愛いパンツだね!」
「う、うるさぃ!ちゃんと見て、あと、10秒!!」
耳まで真っ赤にして睨んでくる。
「いい?みた?あとで騎士契約メールするから、パスワードちゃんと解読しなさいよ!」
「あ、うん。えっと、キュアなんとかだよね?日朝アニメの」
「柄を言うなっ!?」
続けて弾けたように捲し立てくる立花さん。
「そうよ!わたしはもっと可愛いのが欲しいの!けど、ママはこんなのしか買ってくれないのっ!」
「立花さんは、落ち着いて、外にきこえちゃうよ」
慌てて口を両手で抑える立花さん、僕は何となく周りを見回した。
「兎に角、そう言うことだから、あと、誰にも言わないでよ?」
「分かってる」
「それから立花さんはやめて…アリサでいいわ」
「亜里抄、終わった?」
立花さん、亜里抄と代わりに宮園さんが入って来た。
アリサは、入れ違いに出て行く。
「二人きりね、それじゃこれ見て」
宮園さんは、写真を一枚見せてきた。
つい最近、やめることになった地元の祭りの写真だ。
「これが私の騎士契約パスワードのヒント。あとは、あなた次第」
「けど、珍しいねデジタルプリントじゃないのは」
「いまなんて?」
「ほら、この都市でこんな昔ながらの写真なんて珍しいよ、ネガから焼き回しでしょ?」
いきなり四つん這いなる宮園さん。
「盲点だったわ…こうなったら言うけど、この祭り嫌いなの、恥ずかしく。だってそうでしょ?みんなで褌よ?男も女も子供も大人も…何考えてるのって感じよ」
「それが問題でやめる事になったんだよね。けどもうないし、問題なくなったんじゃ…」
「大アリよ!写真恥ずかしいから全部燃やしたのに、いつのまにかあるの。パパとママのパソコンの中も全部消したわ!でもまだあるの、何時の間にかそこにあるの!だから、パソコン覚えたの。そしてパパとママの会社のパソコンをハッキングして、データを消去した。怒られたけど私は満足だった。だけど!」
まだあったと言うのがことか。
「たぶん屋根裏にでも暗室があって、そこで現像してるんじゃない?」
冗談半分で言って見た。
「ありがとう、参考にさせて貰うわ…」
宮園さんは、力無く笑った。
そんなこんなで帰宅。
「ただいまぁ〜」
「聞いたわよ、優!おかえりなさい、まずお風呂ね、母さんと一緒に入りましょう!」
「な、ちょっと!?まず宿題しないと!」
「後にしなさい!麗華、優が来たわよ!」
「うぃー」
姉さんと母さんに、引き摺られて脱衣所にきた。
「父さん、助けて!」
「やれやれ…僕も一緒に入っていいかい?」
「駄目」「やだ」
「すまない、優…力になれなくて」
父さん、もう少し頑張ろうよ。
事情聴取のお風呂で文字通り、洗いざらい吐かされた上、洗われてしまった。
何か大事なものをなくした気がしながらも、自室で宿題を終え、メールを確認する。
二人から騎士契約メールが来ていた。
騎士契約メール。
立花亜里抄、宮園茉莉。
パスワード…。
少し考え入力する。
立花亜里抄『プ◯キュアのパンツ』パスワード承認、騎士契約完了。
<アリサ>
剣士 双剣
武器:スティール・ブレード
HP(耐久値):C
MP(精神値):D
OF(命中値):A+
DF(回避値):B
AP(威力値):C
AC(防御値):D
宮園茉莉『褌祭りの写真』パスワード承認、騎士契約完了。
<漆黒の翼>
狙撃手 突撃銃
武器:アサルトライフル
HP(耐久値):D
MP(精神値):D
OF(命中値):B
DF(回避値):C
AP(威力値):C
AC(防御値):D
そして、就寝した。
NPC
人族は妖精に強く、獣人に弱い
獣人は人間に強く、妖精に弱い
妖精は獣人に強く、人間に弱い
人族
HP:10
OF:2
DF:3
AP:2
AC:3
・種族能力『商売』
獣人
HP:20
OF:3
DF:2
AP:10
AC:5
・種族能力『狩猟』
妖精
HP:2
OF:10
DF:8
AP:2
AC:2
・種族能力『魔力の泉』