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逮捕

 クレアはジョンが考えていたことを、カフスボタンから読み取った。記憶の再生が終わり、四人がクレアから手を離す。クレアは異能を使っている際、他者が体に触れていれば、読み取ったものを直接伝えることができるのだ。


「早く、レディ・エリザベスの家に行きましょう! ジョンが危ないわ!」


 ジョンが心配なエヴァは、セシルを急かした。どうやったら私に許してもらえるか、ですって? そんなの許すに決まってるじゃない。あなたが無事で帰ってきてくれたら、それでいいの。


 セシルは、ジョンがサムから見せてもらっていた屋敷の契約書に書いてあった住所を思い出す。セシルの脳には、ベルディア王国全ての地図がある。それを使い、念じるだけで、思った場所に移動できるのだ。


 移動は一瞬だ。小高い丘からレディ・エリザベスの屋敷に着いた。


 グレイはセシルの方をちらりと見やった。それだけでグレイの考えは、セシルに伝わる。セシルは頷き、服の乱れを直した。

 そしてグレイは、扉を叩いた。執事が扉を小さく開け、用事を尋ねる。


「私はティンバレン公爵の娘、ペルセポネ・ティンバレンです。この辺りで道に迷ってしまって……お家で休ませていただけます?」


 執事はすぐに背筋を直し、扉を大きく開けた。


「どうぞお入りください、お嬢様。お付きの方は、こちらに」


 明らかに態度が変わった執事に、四人は眉を上げた。


「いいえ、この人たちはお付きの者ではないのです。服からわかるとおり、彼らは同僚ですの」


 セシルは公爵令嬢らしい傲慢さを見せながら、自分の隊服を触った。


「ああ、すみません、お嬢様。すぐに奥様を呼んできますね」


 そして執事を連れて、とても美しい貴婦人が現れた。彼女は50代だが、30代にしか見えないほどシワがなく、嬉しそうな笑みを浮かべている顔は、まるで聖母画に書いてある微笑む聖母のようだった。しかし、そんな美しい彼女だが、上質なドレスだっただろう服の裾は薄汚れて汚かった。


「こんにちは、ペルセポネ様と同僚様方。みすぼらしい格好で、すみませんね。足が折れた馬を殺すところを見学していましたの」


 その言葉に、エヴァはゾッとした。足の折れた馬とは、ジョンのことではないだろうか? 人を殺そうとしているのに、嬉しそうに笑うなど、エヴァには信じられなかった。


 そしてエヴァが何か言おうと動いたとき、それを静止したのはグレイだった。


「こんにちは、奥様。あなたが美しすぎて、服など目に入りませんでしたよ」


 神話に登場する美青年のように微笑むグレイに、エリザベスは頬を染めた。


「まあ、お上手ですのね」


 嬉しそうなエリザベスがグレイに手を差し出し、挨拶を待つ。

しかしその手にグレイが触れることはなかった。セシルがクレアを押し、エリザベスの足元に転がしたのだ。


「まあ、大丈夫、クレア? 疲れていたのね」


 セシルの白々しい声に、クレアはうめき声で答えた。エリザベスはほんの一瞬嫌そうな顔を見せたが、すぐに笑顔を取り繕い、クレアに手を差し伸べる。


「ありがとうございます、奥様」


 クレアは家に入る前から手袋を外していた手で、エリザベスの手をとった。洪水のように、クレアの脳裏に情報が流れる。


「レディ・エリザベス・ルフェール、国から与えられた警察特殊権限により、殺人及び殺人未遂の罪で逮捕します」


 クレアはサイコメトリーの異能を持っているため、特別に逮捕権限を持っている。本来ならば軍人に与えられない逮捕権限を持っているということは、厳しい審査と心理テストを合格した証である。その逮捕権限を行使し、クレアはエリザベスの両手を後ろにやり、手錠で捕まえた。


「あなたには黙秘権があります。あなたの発言は不利な証拠になることがあります。そして、あなたには弁護士をつける権利が……」


 逮捕時に必要な口上を述べ終わったクレアに、エヴァは心配そうに尋ねた。


「ジョンはどこ!?」


「あいつはもう死ぬのよ! 放しなさい!」


 エリザベスは体を揺すって抵抗する。クレア一人では捕まえることができなくなりそうなとき、セシルが片手を横に振り、エリザベスをキングレイ邸の図書室に飛ばした。


「セシル、彼女をどこに飛ばした?」


 グレイが尋ねると、セシルはウインクといたずらな笑みを浮かべた。


「あなたがジョンの家の使用人に、私が人を飛ばすから用意するように命令していたのは知ってますの」


 その言葉に、グレイはにやりと笑い返した。セシルとグレイは、いつもお互いのことをわかっている。


「ねえ、クレア、ジョンはどこ!?」


 普段のエヴァなら、笑い合う二人を茶化したかも知れないが、今のエヴァの精神状態では無理だった。

 クレアはエヴァの剣幕に驚きながらも、見たものを話そうとした。


「小屋で縛られてます……あっ、エヴァさん、あのミュルディスのおじさんが見張りにいますから、気をつけてください!」


 居場所を伝えると、エヴァはクレアの注意を聞かずに走り出した。ああ、ジョン、無事でいて! エヴァは神に祈った。


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