グレイとクレア
エヴァとジョンの二人が、愛を確かめるような、何度目かのキスをしているとき、扉が叩かれた。
「気にしないで、エヴァ。ドアの外で待たせればいい」
一度固まった二人だが、すぐにキスを再開させた。しかし彼らの思い通りにはいかなかった。
「待たないぞ」
大きな音をたてて、扉が開けられた。
そこには《戦乙女》の隊長であるグレイと、《戦乙女》の隊員であるクレア・コープランドがいた。
198センチメートルほどある大柄なグレイと、150センチメートルない小柄なクレアが並んでいると、父子のようにしか見えなかった。
クレアは伸ばしていれば腰まで届く、黒の髪を二つのおさげに結び、輪郭に沿っているふわふわの毛は彼女をより幼く見せている。夕暮れどきの空のような紫の瞳は、生命力に溢れ、きらきらと輝いていた。
「エヴァさん、会いたかったです。エヴァさんがわたしの力を必要してるって聞きました。わたし、頑張っちゃいますよ!」
エヴァの元に大股で進むクレア、グレイは邪魔をしてしまったと苦虫を噛み潰した顔で入口で立ち尽くしていた。
二人の視線を気にしたエヴァはベッドの上から元いた椅子に戻った。そして乱れている長い髪を、さりげなく直す。
「ありがとう、クレア……隊長、その顔やめてください」
16歳にしては幼いクレアは、ジョンとエヴァの間にある濃密な雰囲気を読み取ることができていなかった。そのため、エヴァはこちらが悪いことをしていた気分になってしまい、バツの悪い気分になった。
「あー、その、ジョン、撃たれたと聞いたが、元気そうでよかった」
グレイは自分が扉を開けたせいで、二人のラブシーンを邪魔してしまったことを後悔していた。ジョンの怒りに満ちた視線が、グレイを射抜こうとしている。勘弁してくれ。
「来てくれてよかったよ、グレイ。お前がここにいるってことは、私は三日も寝ていたのか」
ジョンは王都からグリーンウッドの距離を計算し、意識がなかった時間を悟った。そして馬車の部品を思い出し、尋ねた。
「三週間と四日前の殺人事件の証拠品を調べてもらいたんだ。出来るか?」
全員の視線が、クレアに集まった。クレアは自信に満ちた笑みを浮かべ、元気よく答える。
「はい、できます! 銃弾を貸していただければ、それも残留思念を読み取って犯人を見つけられますよ」
クレアの異能は、サイコメトリーである。物体や人体に残っている残留思念を読み取り、過去に起こった事象や場面、そのとき周りにあった強い思念を感じることができるのだ。
「それは心強いな。えーと、君の名前は?」
ジョンはにやりと笑った。犯人を追い詰めることができると思うと、ジョンの胸はすくようだった。
「クレア・コープランドです。大船に乗った気持ちで、わたしに任せてください、キングレイ侯爵」
そう言ってクレアは左胸を叩いた。彼女の明るさは《戦乙女》の中でもピカイチだ。
「ありがとう、クレア。船頭は、私に任せてくれると嬉しいな」
グレイはジョンの悪どい笑みを見ていると、胃が痛くなってきていた。
「頼むから、穏便に物事を進めてくれ」
グレイの懇願に、返事をする者はいなかった。
9/20にクレアの瞳についての描写を変えました




