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いつか  作者: ryo
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13/24

文香と俺の家3

続き。

「お兄ちゃん……」

 気がつけば莉子が俺の部屋の入口に立っていたみたいだ。

 だが、俺を呼ぶ声はいつものテンションとは全く違って小さい。

「……文香はどうした?」

「今日はお家に帰ってもらったの……その、文香ちゃんもいずらそうだったから……」

「そうか……それで莉子はどうして来たんだ?」

「あの……ごめんなさいっ! わ、私無神経だったっ、けどまさかああいう空気になると思わなくて……」

 自分が対象じゃないから軽はずみでそういうことを言ってしまう――――それは俺もよくやってることだった。だから俺が責める権利なんかない。もしここで一方的に弱い立場の莉子に怒鳴り散らすなどしたら終わりである。

「気にすんなよ莉子。莉子なりに考えて動いてくれたんだろ? なら問題ないさ」

 それに今回のこれはそんなに重いことではないと俺は思っていた。

 楽観的すぎだと言われそうだったが、色々考えたところで結局同じことをグルグル考えるしか出来ない。ならば直感的に動くことが正しいはずだ。

「ご、ごめん……お兄ちゃん……」

「大丈夫だから落ち込まないでくれ莉子。それより文香はまだ走れば間に合うよな?」

「……そうだね、すぐ会えるよ」

「よし、じゃあ行ってくる! こんな馬鹿なことでいちいち喧嘩してる場合じゃないからな」

 携帯と少しの小銭だけを持って俺は家を飛び出した。

 通学路を走っていると目の前に見知った後ろ姿を発見する。後ろから呼びかけてもよかったが、俺はわざと文香を追い越して目の前で止まった。

「文香、話がしたい」

「……うん」

 思いの外言うことを聞いてくれた文香を先導し、俺達は小さな公園のブランコにそれぞれ腰をおろした。

「…………」

 しかし文香は喋らない。だが、当然俺から話すつもりだったので変に遮られるよりも断然よかった。

「あのな……さっきの話だけど、そんなに深い意味はないからな?」

「……どういうこと?」

「だ、だからさ、今はまだそういう状態だけど、いずれはなくもないかもって話だよ」

「メインヒロインみたいな可能性があるってこと?」

「そ、そうだよ! って、文香は今自分で言ってることの意味分かってるのか?」

 それじゃまるで俺を好きなのに応えてくれないから落ち込んでる、そんな感じだと勘違いしそうになるじゃないか。

 女ってのはそういう部分でずるいところがある。男子を弄ばないで欲しいです。

「というか、持ってきた荷物はどうしたんだよ?」

「あ! 莉子ちゃんの部屋に忘れてきた……」

「も、もうそのまま泊まってけよ! わざわざ面倒くさいだろ!」

 またそそくさと荷物を取りに行って、それから自分の家に帰られるんじゃ、こっちの方が複雑な気分になる。

 俺がそう言うと少しだけ文香が笑った。その笑顔を曇らせた原因は俺だったけど、その笑顔でいて欲しいと何より思う。

「分かった。それに宗谷の卵焼きも食べてないしね! 帰るに帰れないよっ」

「そういえばそんなもんもあったな……俺も自分の分焼いて食べよ……腹減ったわ」

 仲良く家に帰宅すると莉子がご飯の準備をしてくれていた。

 とは言っても文香の分の卵焼きをチンしたり、冷凍庫に入ってた物をチンチンと電子レンジを活用しまくっているだけだ。

「ただいま」

「お、おかえり! 改めてごめんね……お兄ちゃんも、また文香ちゃんも……」

「ううん、気にしないで! 私も変ね空気出しちゃってたし、どっこいどっこいだったもん!」

「気持ちだけでありがたいよ。それ俺達のために準備してくれてたんだろ? 温かいうちに食べちゃおうぜ」

「うん!」

 三人で「いただきます」を言ってから、それぞれが箸を伸ばしていく。

「なんか俺の卵焼きも捨てたもんじゃないって思うよ、今日は」

「そうだね~美味しいよこれっ」

「私、お兄ちゃんの卵焼き好き!」

 この和やかな空気である。先程あんな事があったなんて嘘みたいだ。

 俺は笑顔で食べ物を頬張る二人を見て、これも作品に活かそうと決めた。本当に何でもかんでも糧になるんだなぁ、と俺は思う。

 主人公はこうも魅力的な人物達と関係があるのだ。その中で日々を暮らしているということを考えると、たったそれだけで贅沢ぜいたくな生活なんだと感じた。

 しかし、莉子の笑顔に少しだけいつもとは違う感じだと気づく。

 きっと俺達が「気にしないで」と言えば言うほど純粋な莉子は傷ついていたに違いない。私が言わなければ、と自問自答しているであろう莉子に何とか満面な笑みをを浮かべてもらおうと俺は、

「莉子、明日どっか出かけようか」

 そう切り出した。

「どっかって明日は平日だよ?」

「そうだな、でも近場なら行けるだろ? どこが行きたい?」

 放課後からになるだろうからあまりゆっくり出来そうにはなかった。それでも、少しでも埋め合わせがしておきたい。

「……もしかして、お兄ちゃん私のこと気にしてるの?」

 鋭い妹だ。普段からその鋭さで助けられている部分は確かにある。けど、その鋭さもたまには困りものだなぁ……、と内心呟かざるを得なかった。

「違う違う。最近二人でどっか行くってしてなかっただろ? 俺も莉子とゆっくりしたいなって思っただけだよ」

 少しアホな部分があってもそれは年相応だからと言える。そもそも、兄の俺も含めて年上と一緒にいる時間が多い莉子のことだ。笑顔を振りまいていたとしても内心で疲労している場合があった。

「じゃあ……アイスが食べたい」

「了解。じゃあ明日の放課後に、近くの公園で集合しようか」

「うんっ、なるべく急いで行くね!」

「ははは、ゆっくり来てくれればいいさ」

 何というか、莉子は走ったら転んでしまうんじゃないかと気になっているのだ。「お兄ちゃん!」と何度も俺を呼びながら前を見ずに走っていたら知らない人に突っ込んでしまった時のことを思い出すと、兄である俺は気が気でなくなってしまう。

 元々見た目とか少し大人びてるところもあって「男子と付き合ってないよな?」とか常に気になるくらいなので、純粋すぎる妹の存在は少しだけ危なかっしい。

「あのー……」

「どうしたの文香ちゃん?」

「えっと……私も仲直りの記念にアイスを食べに行きたいな~とか思ってたりするんですけどぉ……それに私が空気を悪くしちゃったところもあるから莉子ちゃんに謝罪したいな~って思ってるんですけど~もしかして私が行くのってまずいかな~? いや、無理って言うなら行かないけどさ~?」

 チラチラとこちらの様子を伺いながら「別に私はどっちでもいいんだけどさ」と言う文香さん。

「俺は別に構わないけど……今回は莉子と二人って言っちゃったからなぁ……莉子本人からお許しが出ないことには何とも言えん……」

「そ、そうだよね! じゃあ今回は私諦める――――」

「ちょっと待って!」

 少しやつれた笑顔で引き下がろうとした文香を莉子が止める。文香だけでなく一応俺も聞く体制に入ると、わざとらしく咳払いをしてから莉子は言った。

「今回のメインは私ではなく文香ちゃんです! その文香ちゃんがいなかったら私の計算もおかしく――――ご、ごほんっ、文香ちゃんがいなくちゃ困るの! お願いだから来て!」

「り、莉子ちゃんがいいなら私も行くけど……莉子ちゃんに何かあげたいし、宗谷にも迷惑かけたから……」

「俺は別に気にしてないよ。だから気楽に行こうよ。莉子がこう言ってるんだからさ」

 計算という話はよく分からないけどね……。まぁ何にせよ、莉子なりに考えてくれているのだろう。

「じゃあ明日の放課後だな。俺達もなるべく急いで向かうけど、遅れたらごめんな」

「大丈夫! 例え次の日になったとしても、私はそこでずっと待ってるから!」

 それはきちんと帰ってください。



ありがとうございます。

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