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いつか  作者: ryo
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始まり。

日記感覚かもしれません。

 俺は昔から小説ラノベを読むよりも、書くことが好きだった。

 理由は自分でもよく分かっていない。一つだけ即興で作り上げるとすれば、文字と文字の間が近すぎて、今どこを読んでいるか度々分からなくなることだろうか?

 ただ『書く』などと言ってみたが、設定なんてあやふやな物。簡単に言えば、他人にはとてもお見せ出来ないかなりの自己満足物、だ。

 それでも自分だけのストーリーを作るのが好きだった。

 一回だけ絵が得意な友達に頼んでキャラデザなども描いてもらったこともある。だが設定があやふなため文句を言われることが多かったので、感動もひとしおだったがやはり一人で書いているのが気楽なんだと気づいた。

「俺は彼女に向けて静かに言葉を発した、と」

 ここだけの話、俺はパソコンがあまり得意ではない。と言うよりも、パソコンのディスプレイが発する光が眩しくて好きになれないのだ。

 それでも俺がこうしてパソコンを使っている理由――――それはただ単に漢字変換が楽なことと、調べ物がすぐ出来るという点。

 ノートだと確実に消しカスが大量に出るし、シャーペンなり鉛筆なりにしても定期的に買わなければならないから。

 パソコンなら古い物でもワードくらいなら動いてくれるので、困ったことはほぼない。

宗谷そうやってまだ小説書いてたんだ」

「ラノベな。まぁ……これくらいしか俺にはやることないし」

 そういえば忘れてた。俺の部屋には現在幼馴染が来ていたことに。

「ねぇねぇ、私も作品のキャラクターとして出してよ」

「別にいいぞ。あまり多すぎても困るけど、多少多くてもラノベなら大丈夫だし」

 幼馴染の不知火文香しらぬいふみかがそんなことを言ってきたので、あっけなく了承する。だが、

「すまんね、俺のレベルだと世には出ないけどな」

「いいよいいよ。その変わり出来たら一番目に読ませて」

 そう、俺が作成したキャラクター達が周りの目に触れることはない。何作も書き上げていく内に少しずつ勿体無い、というかせっかくキャラクターを生み出したのにと寂しくなることもあるが、一度もネットとかにあげたことはなかった。

 設定がなってないとか、世界観どうなってんのとか、そんな自分でも分かってることを言われてもどうしようもないからだ。

 むしろ「じゃあお前に十万文字書く気力はあんのか?」と逆ギレしてしまう自身がある。

 だからいいんだ。今ではすっかり重くなってしまったパソコンのフォルダの片隅に存在さえしてくれてれば。

 自分で後から見直して「そういやこんな物語も書いたなー」と実感出来ればな。

 そう考えると、この文香に一番に読ませる行為ってのは酷く矛盾している感じもあるが、別にこれが初めてというわけではない。

 そして文香は毎回「よく分からなかったけど、笑えたよ」と言ってくれる。これも設定が云々《うんぬん》言われてるのとほぼ同等ととらえられるが、不思議と文香の感想だと「そっか」で終われるのだ。

 伊達に共に数十年過ごしている仲だからだろうか? だけど、その文香がいてくれるから今の俺がいるのだと思うと、やっぱり一人だけでも親しい存在がいるというのは、かなりのプラス効果らしい。

 ちなみに、文香に「どこが笑えた?」と聞くと、毎回よく分からないところで笑っていることにも気づいた今日この頃。

 まぁ美的センスだって人それぞれだから、笑う沸点も人それぞれだよな、と納得して気にしないようにしている。

「それより遊び相手が小説書くのに集中しちゃって私暇なんですけどー」

「悪い……何する?」

 確かにそれは申し訳ない。しかも俺の部屋に来るよう呼んだのは俺だった気がするし。

 一応それとなく聞いてみると、

「別にいいよ宗谷は小説書いてて」

「え、いいの?」

「うん」

 じゃあ何でわざわざさっきあんなこと言ったの? とは言わないでおく。文香に許可を貰ったので再びパソコンに向き直った。

「私にもみーせーてー」

「い、いいけど、多分つまんないぞ?」

 当然先程からずっと書いているだけあって、最初からというわけではないのだ。

「いいよ。もしかしたら宗谷が成功する可能性だってあるんだし」

「そんな可能性は一%も無いけどな」

 文香がいいと言うならいいけどさ。あ、でもこれで文香も「書きたい」となってさ、ラノベを書きはじめてくれたら嬉しいな。

「なぁ文香も書いてみないか?」

「えー私は無理だよーそれに、私は読む方が好きなんだ」

「そうか。……読む作品が俺のですまんな」

「そんなことないよ。実際作ってるところを見えるし、その出来た作品を読者として一番初めに読めるんだよ? これ以上幸せなことはないよ」

 そこまで言ってもらえるような作品ではないが……。でも、きっと作ってる俺と読む側の彼女とでは感じ方が違うのだろう。

 それにこうして良く言ってくれてる彼女にいちいち水を指す必要も無い。

「ありがと。ちなみに作中ではどんなキャラクターがいい?」

「うーん……魔法使い!」

「悪い……これはファンタジーではないんだ。現実で学園物……それでいてラブコメ、って感じかな」

「主人公は男の子?」

「うん。高校二年生」

「じゃあその彼女で!」

「メインヒロイン? いいけどさ」

 ラノベにはドリーム小説というジャンルがある。この作品はその小説郡のように、主人公の名前が自分の名前、ではないが、なんとなく一番参考になるのは自分のこれまでの体験となるため主人公は自分に似ていると言っても過言ではない。

 だからメインヒロインが文香となると、まるで俺が好きになったみたいで――――

「主人公には釣り合わないかな……」

 名前を変えるとはいえ、明らかに文香側に天秤てんびんが傾く結果となってしまいそうだ。

「ねぇ」

「ん?」

 今までパソコンで文章を書きながら話していたのだが改めて話しかけられたので振り返って見ると、少し真面目な表情の文香だった。

「人と人との関係に、釣り合いとかいるの?」

「そ、そりゃあ大事だろ。考えてみろよ。王女と一般庶民とかだったら絶対現実では無理だって無意識に思うだろ?」

「それはそうだけど……これは二次元だし学園物じゃん。さっき言った通り、もし私が作品のキャラクターになってメインヒロインをやったとしても、現実の私みたいに一般庶民なんでしょ?」

「あ、ああ……そりゃあ勿論」

「ならいいじゃん」

「別に駄目とは言ってないよ……」

 冷静になって考えてみてくれよ。と言うよりも、文香からすれば、主人公に自分を重ねているとは思ってないだけだろうか? ならここまでの無意識さも別におかしなことではない。てか、確かに釣り合いは自分で計算するものでもないのかもしれない。

 いつだって自分の評価よりも他人からの評価の方が世間に響くように、異性や親しい存在が出来た時に相手がするのだと憶測した。

「というか、いきなりメインヒロインとか少し厚かましいな文香も」

「だってさ、私のことだったらよく分かってるでしょ? 新しいキャラを作るのは大変だって言ってたじゃん」

「そうだな。その点で言えば……キャラを動かしやすいって言えるかもな」

 よく分かってるでしょ? と言われても、俺が知っているのは、優しくて面倒見がいいところぐらいだ。数十年一緒に過ごしていても、実際はそれくらいしか知り得ない。

 つまり、高校に入っていきなり友達を作るってのは不可能に近いってことだ。数十年経ってもこんな結果なのに、たった一年間か一年半共に過ごしたぐらいじゃ無駄だろう。

 ただ俺の場合だと、踏み込んでいかない点にとても問題があったが。

「なら明日私の友達も紹介するよ!」

「何が、なら、なのかは分からないけど、文香が知らないようだから言っておくけどな、友達の友達はもう友達とは呼べないんだぜ?」

 無理に文香が顔を効かせて明日その友達やらも呼んで集まったとしよう。何かがあって文香が少しでも席を外したら終わりだ。絶対に気まずくなって、俺達はどうすればいいのか分からなくなる。

 俺の場合はひたすら我慢すればいい話だが、そういう不満が意外とお互いの仲に亀裂きれつを生む可能性があるのだ。「どうしてあの時どこか行ったの!」「えぇ!? トイレだったし」「でも普通私とあの人だけ残していかないでしょ!」「べ、別にいいじゃん!」「良くないわよ!」

と押し問答になり、やがて「分かってくれないならもういい!」となり文香の元から離れていく。

 これはかなりの憶測だったが、人間は感情がある分面倒くさいのだ。

「じゃあ今から呼ぼうか?」

「はぁ!? 話聞いてた?!」

「ここだったら私もあの子がいる間はいてあげれるし、私が席を外して気まずくなることもないでしょ? 学校だと万が一ってこともあるしさ」

「まぁ……それを懸念してたけどさ」

「でしょ? ちょっと待ってね? ……あった、もしもし?」

 数コールもしない内に相手も出たみたいだった。「ふんふん」とか「でねー」とか、決して相手がここに来る理由にはならないようなことを言って、文香は「よろしくー」と言って電話を切ってしまったようだ。

「その子近いからすぐ来るって」

「ってこの部屋に入れるのか!?」

「そりゃそうでしょ。立ち話って微妙だし」

「いやいや汚すぎるって! 今からでも――――」

 綺麗にしよう、と無駄にあがこうとした時だった。ピンポーンとインターフォンがなり、俺は動けなくなってしまう。

「せ、せめて文香が出てくれ……」

「最初からそのつもりだよー」

 ルンルンと気楽にスキップなんかもしたりして玄関に文香は向かっていった。

 呼ぶならせめて文香の部屋の時にしようぜ、なんて言ってももう遅い。

「お邪魔します」

「ど、どうも」

 俺の緊張ぐらいとは真反対なくらいの落ち着いた態度で、その女の子は挨拶をしてくれた。

 文香とは違って背があまり大きくない。育っていないといけないところも小さくて、思わず小学生かと呟きたくなるのをグッと我慢した。

 だがその変わりに腰らへんまで伸びてる髪の毛が印象的だ。もしこの子が親しみのある子なら、その髪を触っていたかもしれない。

「文香、僕が呼ばれた理由は?」

「ここにいる宗谷くんが小説書いててさ、そのモデルとして?」

「お、おい馬鹿っ、言うな!」

 こいつの口はウニか何かみたいに柔らかすぎた。ただでさえ小説を書いているということはよく受け取られないことが多いってのに、こんな初対面の子に言うなんて……。

 俺は恐る恐る彼女を盗み見る。しかし、どうにも無表情すぎて、今どんな気持ちなのかが分からなかった。

「宗谷?」

「は、はい」

「了解。僕を好きに観察していいよ」

「な、何故でしょうか?」

「? モデルとしてって文香言ってた」

「な、なるほどねー」

 確かに彼女みたいな女の子がいたら作品はもっと面白くなるだろう。ここまで個性の強そうな子っていうのは初めて見たし、文香とはまた違った意味で可愛さもあった。

 けれど、モデル云々の前に知ることがあるはずだ。まず名前、とかな。

「な、名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「名前……名前はまだない」

「冗談はいいよ! ってごめん……思わず」

「いい。敬語使われると調子が狂う。僕の名前は神咲灯花かんざきとうか。灯花でいい」

「失礼だったらあれだけど、喋り方の割には凄い可愛い名前だね……」

 僕っ子の割にはかなりの可愛さを誇る名前だ。……偏見かもしれないが、もっと落ち着いた感じの名前かと思っていたので、軽く驚く。

「いい。名前については言われ慣れてる。それで宗谷はいつから小説を書いてたの?」

「いつから? えーと、中学生の最初の頃からかな」

 そう考えると、小説を書いてる年数もあまり多くないなと実感する。しかし、灯花の感じ方は俺とは違ったようだった。

「そこまで趣味が続いてるのは凄い。聞けば小説は誰でも書ける反面、世間からは認められにくいって聞いた」

「うん、そうだね。と言っても、俺はネットとかにあげたことないからよく分かってないんだけど……でも俺があげても他人に認めらたり面白いと言ってもらえるものじゃないってことは分かるかな」

 だからここ数年で一作ずつ完成させてはフォルダの片隅に保存して新たな作品を書き上げる、という行為をしているのだ。

 別に認められなくてもいい。ただ書いたんだと確認できさえすれば。

「じゃあ出来てる作品を見せて」

「えぇ? なんか恥ずかしいんだけど……灯花……さんが思ってるような作品じゃないよ?」

「そんなことはどうでもいい。完成してる作品はあるんでしょ? 僕に見せて」

「なら……これかな」

 今作のやつはまだ製作途中で見せられるものではないので、久々にフォルダの中を物色し決めた。

 タイトルは『気になるあいつはお嬢様』。

 諸々の事情で、近場のお嬢様じょうさまが通う学院に転入することになった主人公が三人のメインの女の子を始め、サブヒロインの女の子とも仲良くしていく話だ。

 ストーリーがあっちに行ったりこっちに行ったりで、読者が読みにくいことこの上ないだろう。だけど、書いてる俺が楽しかったので、俺は迷わずこの作品にしたのだ。

「これ、携帯に移して持って帰っていい?」

「別にいいけど……でも感想は灯花……さんの中だけに秘めといてくれな? それか俺に直接言ってください……」

「分かった。それじゃあ文香と宗谷、僕は帰る。明日までには読み終えるつもりだから、明日の昼休みに感想を宗谷に言う」

「わ、分かった。お、お手柔らかに頼むよ」

 こく、と小さく首を縦に振って、灯花は俺の家を後にした。その瞬間、

「はぁ~~~~~」

 緊張が一気にほぐれる。中々どうして、灯花は物怖ものおじしない性格のようだった。

「ごめんねー灯花ちんはいつもあんな感じでさ」

「いやいいよ。新鮮だったのは確実だし、文香以外に読んでもらうって初めてだから……」

 もしこれで灯花の感想が良いものだったら……。思わず「どうしてこれまで渋ってたんだろう」と、手のひら返しをしてしまうかもしれない。

 それに、高校に通う意味が見いだせなかった現状を打破出来るかもしれないのだ。

 こうして家で会うことの出来る幼馴染以外の人間と学校で親しそうに話す。それだけで、これまでとは全く違う時間を過ごせそうだと思う。

 他はどうかなんて知らなかったが、『俺』という人間はこんなにも単純なのだ。

「明日が楽しみだ」

 俺は新しい生活を迎えられるかもしれない。そのことに酷く期待してそんなことを呟いた。

ありがとうございます。

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