表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの日に。  作者: 酒主
4/13

3.出会う

 自転車に乗って、風を感じるのが大好き。特に、春の風は気持ちいい。これから先、何回春が来るかしれないけど、この風の匂いは忘れない。おばあちゃんになったって、今吸った、私の胸の中にある空気の記憶はなくならないと思う。

 アパートを出て、自転車にまたがり、私は学校の前まで来ていた。学校を少し通り過ぎた交差点を右に曲がると、佐倉団地に続く道がある。そこは新しく整備された道で、学校で言えば新校舎につながる渡り廊下って感じ? 

 佐倉団地が遠くに見え、それら全体はピカピカに見えた。

 団地へと続く道は上り坂になっていて、ギアのついてない私の自転車は勢いを失い止まってしまった。そこから先は自転車を押しトボトボと歩いた。

 ヴォーーーーーーーン

 団地の方から、大きな音をたててバイクが下ってきた。

 バイクが通りすぎると、フーーーーッと後から風が舞い上がり、私の髪をくしゃくしゃにした。

 バイクに載っていた男の子は金髪で、顔はよく見なかった。どっからみても正真正銘の不良だ。慎也の様にまがいもんじゃない。

 それにしても、佐倉団地に続く坂道は急で、自転車を押しながら思った。美穂と弥生は、毎日この坂を上って帰るんだって。しんどいな。

 ヴォヴォヴォヴォ

 私が坂を上りきった頃、下っていったはずのバイクが戻ってきた。背面から聞こえてくるバイクの轟音は次第に失速し、私の後ろで止まった。

 何だか嫌な予感。

「おいっ」

 ヤンキーさんの声が背後でした。少しかすれた様な声……。

 関わっちゃダメだ。私は聞こえないふりをして自転車にまたがろうとした。

「シカトすんなよっ、中ボー」

 後ろにいたはずの不良は私の前に回りこんで、行く手を遮った。

 その時、ふわっと風が舞って、不良の金色の前髪が後ろへなびいた。日差しを受けたその顔はとても綺麗で涼しげだった。切れ長の目のせいかもしれない。男の人なのに綺麗だと思った。

「なぁ。お前、港南中だろ? 翔子の家知んない?」

 彼は苗字は言わなかったけど、多分翔子先輩のことだ。目の前にいる金髪の男の人は、翔子先輩のなんなんだろうか。

「知らない。私1年だから……」

 不良はしばらく私の顔を覗きこんでニヤッと笑った。やんちゃそうな顔ってそう思った。

「じゃっ、これあいつに渡しといてくれる?」

 彼はポケットから紙切れを取り出して私に握らせた。

 そんなん無理。無理、無理、無理。

 翔子先輩と話をしたこともないし、第一、私が渡すっておかしくない? 絶対おかしいよ。

「だめだめ、無理っ」

 私は紙切れを返そうとしたけど、彼はエンジンをかけ去って行った。

「ちょっとー! 無理だってー」

 バイクにまたがった彼の背中に呼びかけたけど、あっという間にいなくなってしまった。

 人の都合も考えず何て自分勝手な人なんだろう。

 そっか。自分勝手だから不良なんだ。

 それにしても、この紙切れ。何が書いてあるんだろう。それで、どうやって翔子先輩に渡したらいいんだろう……もう。何か変なことに巻き込まれなければいいんだけど。美穂と買い物するどころじゃなくなってきた。段々と気が重くなるのを感じた。


 団地に入ってすぐの角を右に曲がると、ブーケと書いた店がすぐに見えた。一軒屋くらいの大きさで、そんなに広くない店内は、他の女子中高生であふれていた。中でも、アイドルの写真やポスターの前に、みんな群がっていた。

 店の前で美穂が手を振っている。 

「ユウ! 茜は?」

「うん、電話も無かったし……来ないんじゃないかなぁ」

「ふーん。ま、いっか。中に入ろうか」

 しばらく、ごった返す店内に入っていって、他の女子中高生のようにアイドルの写真やらポスターに見入っていた。

「ユウ。いいの見つかった? 私、これ買うわっ」

 美穂は嬉しそうにきょんきょんのポスターを選んだ。他にもシャーペンや匂いのする消しゴムなんかを手に持っていた。結局私はというと、頭の中が買い物どころじゃなくて、どんどん気が重くなっていくばかり。

 でも、何も買わないと、誘ってくれた美穂に悪いし、適当に選んで買った。

 お金を払って、外へ出た。美穂はきゃっきゃと話ながらよく笑う。外見は男の子みたいだけど、話すととても可愛い女の子。私はそんな美穂が好き。

 美穂に出会って、覚えたこと。

 人は外見と違う。ってこと。

「どうする? これから」

「うん、帰るね」と美穂は言った。「もっと遊びたいんだけど、家、厳しいからやんなっちゃう。6時が門限だよ! あり得ないよね」

 美穂は口をとがらせて言った。

 門限か。私の家には無いこと。

 夜は誰もいないんだもん。帰りが遅いって叱る人もいない。

 普通の家の美穂がうらやましいよ。

「私も遅くなると怒られるから、帰るね」

 なぜだかわからないけど、美穂に嘘をついてしまった。怒られなんかしないのに。

「今度、休みの日にゆっくり遊びたいね。」

 美穂とはここで別れた。



 長く急な坂道をあっという間に下り、家へ向かった。車どおりの多い海岸沿いの道を進むと潮の香りがした。また、ふわっと風が舞って、自転車を止めた。

 預かった紙切れ。何が書いてあるんだろ。

 ふと、そんな気分になって自転車を降りた。

 カサカサカサ

 ポケットから紙切れを取り出してみた。

 大学ノートを切り取ったような感じ。4つ折になっている。

 思い切って開けてみた。



『To翔子

 今度集まりあるから、電話して

              byやす』


 手紙の下の方に、電話番号が書いてあって、その横には下をペロッと出した表情の男の子のイラストが書いてあった。イラストの男の子はピースをしていて、可愛く描いてあった。

 絵、上手なんだぁ。と感心したけど、次の瞬間驚いた。

 吹き出しの中に「一回させて」の文字。

 何だか大人な感じの手紙。

 私だって「させて」の意味くらいわかる。

「あーもう。こんな手紙、翔子先輩に渡せる訳ないじゃん〜」

 しばらく、金髪の彼と翔子先輩のことで頭がいっぱいになった。

 


  

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>現代シリアス部門>「あの日に。」に投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ