2.私の友達
私が通う港南中学校は、港南小学校と佐倉小学校の2校の生徒が集まって来ている。港南地区は、古くからの団地の人が多くて、佐倉地区は最近できた住宅街なので、新しく越してきた人が多いってお母さんが言っていた。
私がよく遊ぶ友達は茜、美穂、弥生の3人。茜と私は港南地区で、あとの2人は佐倉地区に住んでいる。中学校にあがってから、まだ2ヶ月あまり。美穂と弥生は本当にこの先も友達でいるのかどうかは分からない。けど、今の所、一緒にいて楽しい。
「ユウ! 今日放課後遊ばない?」
ショートカットの美穂だ。2人でトイレにも行く仲になったのがちょっと嬉しい。
美穂は、小学校の頃からソフトボールをしていて、体もごついし、顔も真っ黒で、よく男の子と間違われている。
「珍しいね、美穂が誘うなんて」
「今日ね、監督が出張で、クラブ休みなんだぁ〜」
5月だというのにもう日焼けしている顔に、真っ白い歯がのぞく。
美穂があまりにも嬉しそうに笑うので、つい私もニコニコ笑う。
「ねぇ、茜と弥生も誘おうか」
「うんうん賛成!」
トイレから戻って教室を見渡すと、一番後ろの席の弥生の周りに女子が7,8人群がっていて、何やらキャーキャー騒いでいる。その中に茜もいた。
「茜っ」
「うわっビックリしたぁ」
「ねぇ、何見てるの?」
「明星よ、みょうじょう」
明星と言うとき、茜が思いっきり小声になったので、つい私も口をおさえてしまった。
弥生の手には「週刊 明星」と書かれた雑誌があって、表紙には最近流行ってるチェッカーズときょんきょんの写真が載っていた。
「ねぇ、マッチと俊ちゃんに結婚を申し込まれたら、どっちにする?」
「えー、究極の選択だねー。そんならさ、生まれ変わるなら、明菜ちゃんがいい? それとも聖子ちゃん?」
「んー。 きょんきょん」
「美穂ったら、もう〜! 答え違うじゃんっ」
私はみんなの輪の一番外から、弥生が持っている雑誌をのぞきこんだ。
いいなぁ。私も今度買ってもらおう。お母さんが買ってくる本って言ったら、学研のやつとか「中学1年生」ってやつ。あんまり買い物にも連れてってくれないから、最近の雑誌のことなんか全然分かんない。
それにしても弥生の持っているものは、他の子より上な感じ。しかも、弥生ん家は佐倉団地にあって、新築でピカピカらしい。本当にうらやましい。
神様お願いっ。1日だけでもいいから、私が明菜ちゃんになって、お母さんがあや子先生になって、ピカピカの家に住むってのはどう? 無理だよね……。
「おい、ブス! どけ」
格好つけの慎也だ。大っきらい。
「シカトすんな、どけよ」
最近、妙に私だけにつっかかる。いじめてるつもりなんだろうけど、全然怖くないし。知らん振りして、どいてやらなかった。
慎也は腹をたてて、私の机を蹴っ飛ばした。
雑誌を見てキャーキャー騒いでた他の子達も、机が倒れる音にビックリして慎也の方を見た。
「ちょっと、ひどいじゃないの! ちゃんと戻しなさいよ」
美穂が大きな声を出した。美穂の声につられて、弥生の周りにいた女子が皆、声をあげた。
「ひっどーい」「最悪ー」と口々に言うもんだから、慎也は頭から火がでそうに怒って。それを見てたら可笑しくなった。
みんなが味方になってくれて嬉しい。
だけど、とても気になる事があった。なんで茜は黙ってたんだろうな。
美穂も弥生も慎也を攻撃してくれてたのに……。すごく気になる。
もしかして、茜ったら慎也のこと好きなの? まさかね。
「ねぇ、弥生。 今日放課後あいてない? ユウとみんなで遊ぼうよ。ね、茜はどう?」
美穂が急に話題を変えた。
「うわー。ごめん。今日ピアノがあるんだぁ」
弥生は顔の前で手を合わせて、ごめんのポーズをとっている。「ピアノ休もうかなぁ」なんて、真剣に迷ってるみたいだった。
「弥生はピアノ習ってんの? お嬢様じゃん」
「ユウったら。やだ、そんなんじゃないってー」
「ね、そんで茜はどうなの?」
さっきから浮かない顔をしている茜に、声をかけてみた。小学校の頃から知ってるけど、茜の気分屋には慣れている。
「うん。行こうかな。だめだったら電話する」
茜の返事。
茜がこうやって眉間に皺を寄せながらも、作り笑いする時は気がのらない証拠だって事を知ってる。茜は2つに分けた髪の束の一方を指でくるくる絡めてはほどき、絡めてはほどきを繰り返している。
多分、茜は来ない。
何にも知らない美穂は「じゃぁ、いっぺん家に帰ってから4時30分に「ブーケ」の前に集合!」ってガッツポーズを決めた。
ブーケは佐倉地区に新しくできた雑貨屋さんで、弥生いわく、文房具や歌手の写真なんかも置いてるって聞いた。私はまだ行ったことがないので、すごくワクワクする。茜も来ればいいのに。
「ただいまー。お母さんいる?」
鍵が開いてるからいるんだろうけど、つい聞いてしまう。
「うん、おかえり」
お母さんが「おかえり」って言ってくれる時は大体機嫌がいい。機嫌が悪いと「おかえり」の代わりに「遅かったわね」とか「部屋の掃除しなさい」とか言うのでわかり易い。
運が良かったら、お小遣いをくれるかもなんて、少し期待をしてしまった。
「ね、お母さん」
「んん?」
お母さんは、食卓のテーブルに座って珈琲を飲んでいる。仕事に行く前の儀式みたいだ。昼間はもったいないからって、部屋の電気を消しているので、日当たりの悪いこの部屋は余計暗くなってじめじめして、なんかやだなぁ。弥生のピカピカの家を想像すると、益々この家がいやに思える。
「ね、ね、お母さん」
お母さんが振り向かないので、何度も呼びかけた。
「何? 頼みごと?」
「うん」
私がお母さんの事を分かり易く思うのと同じように、お母さんから見て私は分かり易いのかもしれない。お母さんの子供だから、当たり前か。
「何? はっきり言いなさい。グズグズしてんのは嫌いだからね」
お母さんの機嫌が悪くならないうちに、私は慌てて、美穂と買い物に行く事を話した。
「そ、珍しいわね。はいっ」
「え? 1000円もくれるの」
「いらなかったら、しまうよ」
「やだやだやだ」
あっさり1000円をもらった私は、制服のまま待ち合わせ場所に向かった。




