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あの日に。  作者: 酒主
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12.対決

 香里さんが待たせている車に乗り込み去って行くと、ハルさんの所へ人が集まりだした。

 みんな、ハルさんが口を開くのを待っていたけど、角刈りで太ったのりさんは、少し急いたように口火を切った。

「涼さんは?」

「しばらく、本部が忙しいってよ」

 ハルさんは少し面倒くさそうに言った。片手をズボンのポケットにつっこんで、首を傾けている。

「それにしてもよ、最近涼さん俺らのことなんか、どうでも良くなったんじゃねぇの? 本部、本部ってよ」

 赤い髪の人が言う。かなり挑発的な態度だと思った。

海藤かいどう! てめぇ、涼さんのことそんな風に思ってんのかよ」

 やすさんが海藤と呼ばれている赤い髪の男を睨むと、髭のマブさんも参戦した。

「誰がこの支部を作ったんか、もう忘れたんかっ! あほ」

「んだと? お前ら涼さんに気に入られてるからって偉そうにすんじゃねぇ 俺は涼さんについてきただけで、お前らに指図される覚えは無いんじゃ」

 海藤さんの後ろにいる背の高い男の人2人が前に出てきた。顔がよく似ていて初対面でも双子というのが私にも分かった。その、海藤さんの周りには双子のほかに5、6人がいて、何やらものものしい雰囲気でハルさんのグループを睨みつけていた。

「やんのか? こらっ」

 やすさんは一歩前へ出て、戦闘姿勢をとると、海藤さんも待ってましたとばかりに前へ出る。手につかまれた鉄の棒……。

 あんな棒で殴られたらどうなっちゃうんだろう? 私はゾッとした。

「仲間割れしてる場合じゃねーだろ」

 マブさんが、やすさんと海藤さんの間に入り込む。

 ハルさんはやはり何もしなくて、面倒くさそうに体を傾けたままでいる。

「仲間割れ? は? 仲間なんて思ってなんかねぇよ。集会つってもガキがチャラチャラつるんで走ってるってだけで面白くねぇんだよっ」

 海藤さんはカッとつばを吐き捨てた。

「んだとこらぁ!」

 下顎を突き出して睨むやすさんの額には、血管が浮き出している。でぶっちょののりさんやら、ヒロシさんもやすさんの後ろに立ち参戦する。

 海藤さんに握られた鉄の棒があがる。

「ユウ、ユウ、やばいよ。やっちゃんあんなんで殴られたら」

 横の翔子さんの声は震えている。

 私は意外と冷静だった。まるでドラマを見ているような感覚で。現実が現実に感じられないのは今に始まった事じゃない。よくある事。それは、時には都合が良い。自分が体験してるはずの嫌なこと、怖いことが現実では無くなるから。嫌なこと、辛いことは全部ブラウン管の中で起きていることで、私には関係ないと思うようにしてきた。

 ずるいかもしれないけど、そうやって生きてきた。だって楽なんだもん。

 だから、何も感じたりしないし、冷静でいられる。でも。言い返せば、私は何かに強く心を揺さぶられたりした事が無い。そう、感動ってゆうやつ。

 感動の無い毎日は淡々と過ぎて、時々だけど、生きてる意味あんのかなって思う。時々? ううん……多分違う。

 私の生きてる意味って何?


「喧嘩やりてぇなら、よそに行けよ」

 今まで面倒くさそうに構えていたハルさんは、海藤さんの鉄の棒が振り落とされるかという一瞬の隙をぬって、やすさんとの間に入った。

 人だかりでよく見えない。

 カンカラカンカンカン

 鉄の棒が転がる音がした。

「なっ……」

 双子の男の片方が素っ頓狂な声をあげた。

 そこにはおなかを押さえて地面にうずくまる海藤さんの姿。

「すきだらけだな」

 ハルさんはやんちゃな顔で笑って、驚いてるやすさん達に向かってピースサインをした。

「お、おい。ハル……血、血」

 やすさんの言うとおり、ハルさんの額からは血が伝っている。

 ハルさんは全く気にもとめずバイクの方へゆっくり歩いて行った。

「走ってくる」

 ハルさんは手をあげてバイバイをすると、猛スピードで大通りを駆け抜けた。

 真っ直ぐに、真っ直ぐに。

 その後ろを、慌ててのりさんヒロシさんマブさんって感じで、皆がハルさんの後ろに続いた。

「ユウ、何眺めてんだよ。早く、車に乗れよ」

 翔子さんがやすさんの車の助手席から身を乗り出して私を呼ぶ。

 私はボーっと突っ立っていて、翔子さんがやすさんの車に乗ったこともわからなかった位、ただあっけにとられていた。

 車に乗ったあとも、こちらを睨む大男2人と鉄棒男、悔しがる数人の男をみつめた。

「ハルさんって強いんですね」

 とっさに思っていることが口に出た。

「あいつにいいとこ全部もってかれたな」

 やすさんは呟いた。

「ハルにはかなわねぇよ」

 フロントガラスの向う側を、身を乗り出すように見入ったけど、もうすでにハルさんの背中はみえなくなっていた。

 もう一度会いたい。

 それが、集会の感想。



「なぁ、こっからどうする?」

 やすさんは翔子さんの肩に手をおいて、意味ありげにささやいた。

「っんだよ。突然触んじゃねぇよ」 

 翔子さんはビクッとしたので、やすさんはケラケラ笑った。

「可愛いんだ、翔子ちゃん」

「うるせぇっ。バカにすんじゃねぇよ」

「てれてる?」

「バカッ」

 そんなわけで2人には後部座席の私という存在は無いらしい。きゃっきゃとじゃれ合う二人を少しうらやましく思った。

「あ、そうだ。マブさんとこは? あそこ落ち着くんだよなぁ」

 やすさんが思い出したように言った。

「そっか、そうしよっか」

「ねぇ、ユウさ。どうする? お前も行く?」

 翔子さんが、やっと私の存在を思い出してくれたようだ。

「今、何時?」

「えっとな、0時40分」

 そんなに時間が経ってたなんて思いもよらなかった。何て楽しくて、スリルがあって、そして寂しく無い夜。

「お母さんが2時頃帰ってくるから、私もう帰る」

「お母さんだってよ。お前可愛いな」

 翔子さんは変なところで褒める。

 結局、家に着いたのは午前1時だった。


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