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あの日に。  作者: 酒主
12/13

11.香里さん

私たちが戻ってくると、やすさんがツカツカとやってきた。

「おいっ。何してたんだよ、お前ら」

「何って、ポリに追っかけられてよ」

 周りがざわめきたつ。

「ハル! お前アホか」

「ぁん?」

「ポリがけつにひっついてたらどうすんだよ。集会してんのバレるやないかっ」

 ハルさんは一瞬いたずらな笑顔を浮かべた。

「ポリやっ! バッくれろ」

 みんな逃げる時は早い。遠くの方に居た人たちも、こちらの動きを察知してか、瞬時にバイクにまたがった。やすさんは慌てて車の方へ走って行くところだった。

「〜んちゃって。うっそだもーん」

「んのやろーてめぇ」

 やすさんは走って戻ってきて、また、ハルさんと喧嘩がはじまった。

 私はまだ、バイクに乗っかったまんまでその様子を見ていた。

「いつまで乗ってんだよ!」

 後ろから、翔子さんとは違う声がした。かすれた女の人の声。ゆかりさんっていう人とも違う。威圧感のあるその声に、私はバイクを慌てて降りて振り返った。

 茶髪のパーマが多い中、その女の人は真っ直ぐな黒髪のワンレングスで、髪の毛は胸の当たりまで伸びていた。その強い眼差しに私は目をそらした。

「香里さん、すいません」

 慌てて翔子さんが駆け寄り謝った。

 香里さんと呼ばれる人は、ふんっと髪の毛をかきあげると私には背を向けてハルさんの方へ体を向けた。

「久しぶり」

「あぁ」

 呆然と二人を見ていた私に、翔子さんが「ジロジロ見なさんなっ」っておばちゃん口調で言って、私の服の裾を引っ張って離れたところへ連れていかれた。

「綺麗な人……」

 ついつい見とれてしまうような黒髪に華奢な体。遠くから香里さんとハルさんの姿をボーっとみつめた。

「だから、ユウ、ジロジロ見んなって」

「だって凄い綺麗」

「香里さんは別格や」

 ハルさんと香里さんが何か話している。似合いの2人。やっぱり気になる。何だろうこの気持ち。私の気持ちに気付いているのかいないのか、翔子さんは香里さんについて話しはじめた。

「港南連合に本部と支部ってのがあるのは話しただろ? 香里さんの彼氏は涼さんっていうんだけど、もともとは本部の偉いさんだったらしくって。独立みたいな形であたし達のいる支部を作ったってわけ」

「ふーん」

「本部は喧嘩上等な人らが多いんだけど、こっちは走り命って感じ」

「涼さんって、じゃぁここでは一番偉い人なの? ね、誰? 誰?」

「涼さんって軽々しく呼ぶんじゃねぇって。それにな、支部長は滅多に来ねぇよ」

 長い間、ハルさんと香里さんは話している。それも真剣に。何話してるんだろう?

「何で香里さんはハルさんと喋ってんの?」

「知るかっ。つーかさ、おめぇいつからタメ語きくようになったんだよ!」

 翔子さんはどうでもいい所でキレる。

「あ、えーっと、香里さんがハルさんと一緒にいるのは、どうしてなんでしょうか?」

「そりゃ友達だからだろ。同じ中学校だったって話。でもなぁ、なーんかその敬語ムカつく」

「……」

 怒った翔子さんの顔はやっぱり怖い。でも、香里さんの迫力には負ける。

「ユウさ、もしかしてハルさんに惚れちゃったか?」

「ううん」

 わかんない。今はただ気になる。それだけ。

 私が翔子さんと話している間、前や後ろをいろんな人が通りすぎた。翔子さんは中学生ってこともあって、ここでは下の方みたいだけど、やすさんと付き合ってるって事で、上の人らにも声をかけられていた。

「翔子さん」

「ん?」

「気になったんだけど、集会って何するの?」

「おめぇまた、タメ語かよっ」

 翔子さんは呆れたようにため息をつくと「集会ってよ、仲間に会いに来るっつう感じかな」と呟いた。私はてっきり、ドラマで見たようにバイクで走り回ったり、何か話し合ったりするもんだと思ってたので、少々拍子抜けをした。

「まぁ、うちん所は割りとフレンドリーだけどな。本部なんかは女は集会に入れてくれねぇし、あたしら中坊なんかも入れてくんない。厳しいんだぜ」

「不良も大変なんだ」

「何だよユウ、お前変わってんな」

 翔子さんは何本目かのタバコに火をつけてふかしはじめた。

 私の視線の先にはハルさんと、香里さんの姿がある。もっともっとハルさんについて知りたい。もう一度、彼の後ろに乗りたい。そう思った。

 香里さんと話すハルさんは、少し重たい表情でふざけた様子は全然みられなかった。

 何を話してるの?

 香里さんはハルさんから離れて、ゆかりさんのいるグループの方へ歩いていった。私は香里さんの姿を目で追った。ゆかりさんは頭を下げてコチコチに固まっている。

「あっはは、ばばぁの野郎。ガッチガチになってやんの」

 翔子さんはその様子をみて大笑いしていたけど、香里さんがこちらに向かってくるのがわかると、翔子さんは慌てて吸っていたタバコの火を消すと直立の姿勢をとっていた。

「翔子、久しぶりだね」

「は、はい久しぶりっす」

 間近で見る香里さんは、やはり綺麗すぎるくらい綺麗で、人形を見ているようだった。かすかに漂う甘い香水の匂いが香里さんを包んでいた。

 香里さんは私の事など眼中にないという感じで、翔子さんだけを見て話した。

「あんた、これからは集会には来ない方がいい」

 翔子さんの顔色が変わった。

「んで……? あ、あたし何か悪いこと……」

「そんなに驚くなって。あんただけじゃなくてさ、ゆかり達にも言っといたから」

「でも、なんで?」

「本部の総長あたまが変わっただろ、そいつ涼と仲が悪くて、支部のことも最初っから認めてなくってさ」

「はい」

「ぶっ潰すって言ってる連中もいて……あんたらがいる時に、本部の奴らが乗り込んできたら、確実に足でまといになるだろ」

「はい」

「ハルにも伝えた。涼が本部と話をつけるまでは、集会は控えてって。わかったか」

「は、はい」

 翔子さんは香里さんの姿が遠ざかるまで、ずっと硬直していた。

「ふーーーっ。緊張するぜっ。なっユウ」

「格好いいー!」

「おい? ユウ?」

 私は一日で夜の街に溺れてしまった様だ。

 

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