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あの日に。  作者: 酒主
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9.集会

「翔子さん、あの人だ。手紙渡してくれた人」

「あーそっか、あれはハルさん。やっちゃんの大親友だよね、やっちゃ」

「うっせー。あんな奴知っか」

 やすさんはさっきの事をまだ悔しがっていて、車を停めるなりハルさんのもとへ飛び掛って行った。私と翔子さんはしばらく車の中に居て、周りの人を窓越しで観察しながら、翔子さんが注意しなくちゃいけないことを事細かく教えてくれた。

「一応な不良は不良でも上下関係は厳しいからな、目上の人にはさんをつける事! それからあの棒を振り回してる赤い髪の奴、あいつには近づくなよ」

「なんで?」

「あいつは、手が早いんで有名だから。いいか?」

「あ、はい」

「そんで、あいつらは仲いいから後で紹介すっとして、あーいたいた、あいつ」

 翔子さんはもの凄く嫌な顔をして金髪のくるくるとパーマのかかった女を指さした。

「あれ、ゆかりババァ。一応年上だからゆかりさんって呼んであげてんだけどさ、あいつ気に食わなくてさァ。あんな奴、挨拶だけしたら相手する事ないからなっ」

「ゆかりさんって、やすさんの元彼女の?」

「お前〜喧嘩売ってんのか、ァン?」

「い、いや」

「とにかくな、あたしの傍にいねぇとお前みたいなネネは、すぐにやられちゃうからな。気ィつけろよ」

 翔子さんの表情がころころ変わるのが面白くて、ついつい顔を眺めていた。翔子さんは説明だけすると、車を降りようとしてたけど、1つだけ聞きたいことがあった。

「あの、ハルさんって人は?」

「何だ? ハルさんはさっきの金髪だって言っただろ」

「あ、うんそうじゃなくて」

「何だよ、周りくどいな」

「翔子さんとも友達なんですか?」

「友達? んーそんなんじゃないな。やっちゃんとは仲いいけど。っていうかさ、あたしとやっちゃんも最近付き合う事になったわけじゃん。それまでは集まりで顔を合わすだけだったから正直どんな奴かわかんないけど、すんごい硬派って話。ま、いわゆるやっちゃんは軟派な方なんだけどなっ」

「ふーん。彼女とかいるのかな?」

「何だよお前。好きなのか?」

「ううん、違う。気になっただけ」

「は〜ん、やめとけよ。ハルさんはいつも彼女いねぇ時ねぇもん。あの顔だろ、硬派ときたら誰もほっとかないよ。上の方の人らもハルさん好きな人いるから、もしユウがハルさんと付き合うことになったら、半殺しでは済まなくなるな」

 翔子さんは腕組みをしながら、上目使いで私の方を見た。

「ま、付き合うことなんかまず無いから安心しろよっ」って私の肩をポンってたたいた。

 

「お疲れっす」

 しばらく翔子さんの後ろをついて歩いた。会う人、会う人、挨拶をしながら通り過ぎた。ドラマで見たことがあるような格好をした人達の集団。何で、こんな所にいるのか自分でもわからなかった。バカ笑いをしている人、上目使いにこちらを見てくる人、いろいろだった。

「おい、翔子、挨拶なしかよ」

 歩いていると後ろから女の人の声がした。

「あー、ユカリ……さん。お疲れっす」

 翔子さんの眉間の皺が大変なことになっている。ユカリさんという人は少しぽっちゃりとしていて、金髪のくるくるパーマで真っ赤な口紅をしていた。目の上には青いシャドー。何ともいえない威圧感があった。

「お前、やすと付き合ってんだってな」

「……」

「ま、別にあんな男どうでもいいけど」

 ユカリさんははき捨てるように言って、翔子さんの肩がピクってなったのがわかった。

「どうでもいいんなら放っていてください」

 上の歯と下の歯がくっついた状態で翔子さんはそう言った。ユカリさんは翔子さんを挑発して楽しんでいるようだった。取り巻きの数からいって、ユカリさんの方がここでは身分が上なのかもしれない。翔子さんは思いっきり感情を押し殺しているような感じだった。

「お前の後ろにくっついてる中坊チューボー誰だよ? ってかお前も中坊チューボーだったよな。あははっ」

「っるせー」

 翔子さんは捨て台詞を残して、やすさんの方へ歩いて行った。

「くっそあいつ生意気だよな」

 そんな声が後ろからした。ドラマの世界がここに広がってるような気がしてワクワクした。翔子さんはそんな私の姿を見て「お前、怖くねーのかよ?」ってビックリしていた。

 1人で留守番してる時の方がよっぽど怖い。玄関のドアが開いて怪獣が入ってくるとか、殺人犯が逃げ込んでくるとか、小さい時からいろんな想像をして布団の中に逃げ込んだ。最近では慣れたけど、心霊特集なんかのテレビを見た後なんかの部屋は、薄紫色の煙が漂っているようで身震いがする。少なくても、それに比べたら、何も怖いことなんかない。

 だってここにいるのは人だから。

「おい、翔子、どうしたんだよ。そんな顔して」

 やすさんは4、5人で集まっていて翔子さんに声をかけた。その中にはハルさんもいた。

「やっちゃん、何であんなババァと付き合ってたんだよ?」

「ははーん? やきもち翔子ちゃん」

「バカッ」

 2人は付き合いはじめらしい。やすさんの仲間も面白そうに2人をからかう。私はふざけあう人たちを少し遠巻きから見ていた。

「んで、やっちゃったの?」

「のりっお前余計なことを」

 やすさんはのりって呼ばれている角刈りのでぶっちょの男の人の頭をげんこつでぐりぐりとした。

「ユウ、こっち来なよ」

 しばらくやすさんとじゃれ合っていた翔子さんは、離れたところにポツンといる私を呼んだ。

「誰? 小学生?」

「違うって。この子はユウ。ほんで、ユウ、こいつはヒロシ。ヒロシはあたしとタメだから」

「タメ?」

「そんなこともわかんねーのかよ。同じ学年っちゅうこと」

「ユウちゃんっていうんだ。翔子さんが連れてるってことは港南中か?」

 ヒロシさんはにきびがいっぱいあって、ちっちゃい目をしている。

「あ、はい」

「うわーかっわいい。普通の子久々に見た」

「何だよそれっ。あたしは宇宙人かっ」

 翔子さんはそう言うとあとの2人を紹介した。

「この人がマブさんで、えーっとハルさん」

 2人はこっちを見ると、少し会釈しただけだった。別に興味ないという風に、また違う話をみんなでし始めた。

 疎外感とまではいかないけど、仲間に入れないのが少し寂しかった。


 


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