取り引き(ハケン契約)
魔王の話は以下の通りだった。
戦争が始まったのはおよそ二年前。
世界に5つある大国の一つが、第六大陸、通称『魔界』へと攻め込んできたそうだ。
大国の名前は『エスメチル帝国』と言うそうで、今年で建国1000年を超える国。その上、5大国の中では最強の軍隊を保有している、との事。
帝国は世界に6つある大陸の内の1つをほぼ完全に支配下に置いている。ただ、その大陸には主だった資源もなく、農業をするにはあまり向いていない土地らしい。
そのため、帝国は幾度となく海を渡って他の大陸を支配下に置こうとした過去がある。
帝国の軍事力は強力だ。一時期は6大陸の内、3大陸を制覇した時代もあったそうだ。
だが、繁栄は長続きする物ではない。他国の台頭によって帝国はその規模を小さくしていった。
だが、ここへ来て帝国は再び世界を取ろうと躍起になり始めたらしい。
理由は一切不明。ただ、数年前に革命があったらしい。
分かっているのはそれだけとのことだ。
「それで、俺にどうしろと?」
話を聞いておいてなんだが、ぶっちゃけ半分も耳に入ってこなかった。
まともな資源も持たずに一度は世界の半分を取ったというのが嘘っぽいし、第一目の前の自称魔王がたかが大国1つに攻められたくらいで泣き言をいうのかとも思った。
魔王ってあれだろ? めっちゃ強い魔法とか使って人々を苦しめる、言わば悪党役じゃん。なんで人間ごときに攻められてんですかね? それともなんですかね、その帝国には勇者的な、魔王を倒せる謎パワーを持った人間でもいるんでるかね?
「いいえ、特にそう言う強い人間がいるとは聞いていません。あと魔法は使えますが、まあそこまで強くないんですよ」
さらっと心を読まれただと!
「チョット! 心を読むのは反則ですよ! そう言うのは敵にする物であって、決して味方に向けてやってはダメです。部下からの信用を失ってしまいますよ」
「いえ、読むも何も、途中から声に出してたじゃないですか」
「……まじでか!」
まあいい。本題に入ろう。
「話を戻す。それで、一体俺は何をすればいいんだ?」
「はい。あなたには、私の相談役として色々と教えていただきたいのです。……具体的には帝国を追い出したいので、その力をお借りできないかと考えております」
「人間の俺に魔王の手伝いをしろと?」
「はい。……あのう、やはりダメですかね」
……正直な所、人でありながら魔王の見方をすることについて、抵抗があると言えばウソになる。
え? 間違えてないかって? いや、とくに間違えた所はないと思うが。
何? 人の心はないのかって? あるぞ、もちろんある。
俺は間違いなく人間だし、誰かが死ぬのはとても悲しい事だと思う。
ただそれも、場合によっては、だがね。
「条件によるかな」
俺は口を開けてそう言った。今度はひとり言ではない。
「条件ですか?」
「俺があんたらを助けた場合、俺に一体なんの得があるんだ?」
「それでしたら問題ありません。我々魔王軍はあなたが望む物を絶対に差し上げます。これは『取り引き』です。必ずや、あなたの望む物を持ってきますので、どうぞ我々に力をお貸しください」
魔王はまたも、俺に頭を下げてきた。
「簡単に頭を下げるな。相手に安く見られるぞ。相手に何かを頼むときは相手の欲しがるものを渡すもんんだ。頭なんか下げた程度であっさりOKだすような奴に碌な奴がいない。いるとすれば、そいつはよっぽどの馬鹿かお人好し、そのどちらかだ」
そう言って俺は自分の欲しい物を口にした。
「てことで俺を元の世界に生き返らしてください」
俺は頭を下げた。
「それだけでいいんですか?」
魔王は言った。取引は成立したようだ。