表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

女主人公まとめ相手一人他

非凡で優秀な王女と従者

作者: 滝革患

古くから女王が統治するファイス王国は孤立している。

何処の派閥にも属さない。

私は第一王女のキャヴェナとして生きていた。


他国と完全に遮断されたこの国で、私の結婚相手に選ばれるのは自国の者だ。


公爵家から夫となる相手が選ばれた。


条件に見合うものは彼だろうと、初めから予想はついていた。

この国に生まれたもの、高い身分であることが望まれるからだ。


けれども滑稽なことに、私は身分の低い前夫の子。

女王になるべきは妹である。


私は6年前までは平民に混じって生活していた。

王城に住むようになったのは今のヴィヴィアンと同じ14の頃。


それまで同い年程度の遊び相手はたくさんいた。

その中にいたのが二つ下のシャルムだった。


私が8才のとき彼は2才の妹の話相手になった。

小さな頃は気にならなかったのに、いつからか、ヴィヴィアンに仕えているシャルムの姿を見ていると六歳も下の妹に嫉妬のような感情を抱く自分がいた。


私はシャルムを思慕しているが、彼はきっと私を好きにならない。


彼はヴィヴィアンのことが好きなのだろう。

あの子を見ているシャルムはとても、優しい顔をしている。


私が一番愛されたい人に想われて、人好きの良い愛らしい可憐な雰囲気を持つヴィヴィアン。

柔らかそうな金の髪や青い目が私は羨ましかった。


父譲りの黒髪、深い紫の瞳は私が女王に遠いことを表していた。


せめて、私があの子に優ることを見つけなければ。


それが学ぶこと。ヴィヴィアンは読み書きが好きではなかった。

私は人について考えることはできなくても、文字を学ぶことが出来た。


皆は私を優秀な姉姫と評した。

それは嬉しかった。


けれど、私が何を学んでもシャルムの気持ちも手に入らない。


女王になりたかったけど、女王なるのは妹がふさわしい。


そして女王になればシャルムとは永遠に離れてしまう。


そんなのは嫌だ。

優秀でなくていい、私にヴィヴィアンより優れたところなんていらない。


シャルムに想いを告げたい。

しかし彼の立場を考えれば迷惑になることは目に見えていた。


もうじき戴冠式がくる。

女王の座、シャルム。

どちらも手に入らないならせめて自由を。


そう思って私は城から逃げ出した。


後のことも何もかもどうでもよかった。


私はただの馬鹿でいい。

何にもとらわれたくない。

――――


貴族と平民の母の間に生まれた僕は、母と二人で暮らしていた。


小さなころ、仕事で忙しい母は、いつも家を開けていて、一人になった僕は同じくらいの友達と遊んでいた。


その中に年長者のキャヴェーナはいた。


『ねーシャルム』

『どうしたんですかキャヴェーナ姉さん』

『私のママは女王様なのよ』

自慢げに言う黒髪の少女。


面白半分に聞き流していたけど、後に本物の第一王女だと知る。


『どうして王女様なのに、お城に住まないんですか?』

『パパが“へいみん”だから14才になるまで住めないの』

恐れ多くも、彼女は僕と一緒だと思った。


ヴィヴィアン様の下で働くようになってから、キャヴェーナ様は僕から距離をとるようになった。


キャヴェーナ様は城にも近づかない、手紙も届かない。


寂しいときにいつも一緒にいてくれた彼女がいなくなって、ヴィヴィアン様といる時間のほうが長くなった。


キャヴェーナ様が14才になって、城へ訪れたとき、気安く声をかけられる相手ではないから、じっと話しかけられるのを待っていた。

だけど一言も口を聞いてはもらえなかった。


昔は自分から話していたのに、何もかも希望が持てない。

あの頃の楽しかった思い出だけ憶えていよう。


そう過ごして六年間が過ぎ、女王は崩御なさった。


女王の生前の言葉を大臣は語る。


次代女王がキャヴェーナ様で、夫となるのが公爵家の次男、ルシウス。

――――――僕の弟だ。


父に捨てられ苦労したこと、身分の低い僕は不遇の扱いをされ、弟は恵まれている。

そんなことはどうでもよかった。


キャヴェーナ様の婚約者になり、王族となるなら公爵家はどうなるのだろう。

そう思っていたところ、僕に公爵位を継ぐ話が持ち上がった。


爵位なんていらなかった。

僕はただ、あの方の傍にいたかった。


戴冠式が控えている頃、キャヴェーナ様は突然姿を消した。


何処に行ってしまったのだろう。とても心配だ。


城内を探しても姿は見えない。


戴冠式が嫌であるいは何者かが連れ去った。

そのどちらかだろうか。


とにかく探そう。

僕は城の外にある人通りの多い場所を探した。


しかし、彼女の長く綺麗な黒髪は目立つ。

それにこんなに人が多く、貧しい民のいる場を、身なりの良い女性が歩いていたら、騒ぎが起きてもおかしくない。


彼女が故意に拐われたなら城の地下などにいるはずだろう。

しかし、城を確認しても彼女はいなかった。

となれば、キャヴェーナ様の行き先はきっと、彼女が思い入れのある場所に自らの意思で居る筈。


『キャヴェーナ様!』

やっぱりここにいた。

ここは、むかし皆で遊んだ場所だ。


『…シャルム』

久しぶりに、彼女に名前を呼ばれた。


『どうして、なんて聞きませんから

ですから、一人で城を出るなんて、危ないことはしないでください』

本心を言えば、ここは王族にとって危険な場所なので、戻ってきてほしい。


『キャヴェーナ様は、女王になるために勉学を頑張っていましたね』

書庫で国についてや、国の防衛戦略など、学者が読むような難しいものを進んで選ばれていた。


キャヴェーナ様は女王に相応しい、間違いなくそうだろう。


『私は女王になりたかった…』

キャヴェーナ様は頭を膝に抱え、声を圧し殺して泣いている。


『な…泣かないでください…!』

僕はキャヴェーナ様を悲しませてしまった。


『嬉しかった、でも、女王になったら

好きな人は手に入らないもの』


キャヴェーナ様には他に好きな相手がいたのか―――。


『…僕はどうすれば』

その男はいつの間に、この方の心を得られたのだろう。


『私がいなくなれば戴冠式はヴィヴィアンが変わりに受けるはず』

キャヴェーナ様はヴィヴィアン様が女王になってから戻ると言った。


複雑な気持ちのまま、僕はその日を待った。


しかし、戴冠式は延期となる。

ヴィヴィアン様が女王となる前に、キャヴェーナ様は見つけられてしまった。

――――


「シャルムのことが好きなの!」

私はせめてもの報いで、シャルムに抱きついた。


周りのことなど、恥ということも、頭に浮かぶのはシャルムのことだけだった。


「…!」

シャルムは固まっている。


「そんなに嫌?」

放心して、真っ白といったように。


「キャヴェーナ様!」

「ぐ…くるしい」

シャルムはとてつもなく強い力で抱き締め返した。


「すっすみません!!」

「…返事は?」

「え?」

「私のことは好きなの?」

「はい…!大好きです!!」

「ヴィヴィアンより?」

「はい!」


女王の件は、私が国内を管理して、今まで閉鎖的だった外交を社交性のあるヴィヴィアンが担う。

そういうことで、周囲を納得させた。

私達は姉妹で国を納めることにしたのだ。


このあと半ば強引に、私とヴィヴィアンのダブル結婚式の話は進んだ。


ヴィヴィアンがルシウスを夫として城に、私はシャルムの実家、公爵家で暮らすことになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ