第7話 対の牙
「葉隠さん、用意はいいですか」
王並が巨大なライフルを担いだ機兵器に乗り込み、内部スピーカーを通しこちらに呼びかける。
「いつでも準備オーケーだ。なるべくお手柔らかに頼むぜ」
搭乗前に見せたあのオーラは本物だ。まともにやって勝てるかどうか……。
「はいはーい、悩める子羊にワンポイントアドバイスよー」
黄泉原先輩からの通信だ。
「相手はスナイパー、普通に一対一で戦えばこっちのが優勢よ。やれるだけやってみなさい」
そう言い残し通信が切れる。
「おーし、そんじゃあ一年ども!これより試合を開始する、用意はできてるか?」
「「はい!」」
互いの宣言により、試合が始まった。
零
70t/10m
左腕:20mmガトリング
右腕:チェーンブレイド
右肩部:索敵ビーコン×6
左肩部:ホーミングランチャー
脚部:スタンダードブースター
サーペンテスト
85t/10m
左腕:60mmライフル
右腕:ポートリックシールド
右肩部:???
左肩部:???
脚部:ハイブースター
「フィールドは擬似ビル街か……障害物が向こうに圧倒的有利だな」
「まあ零の機動力ならスナイパーにやすやすと捕まらないでしょ。DCSがあるなら尚更よ……まあ、あの子の実力に目を瞑ればだけど」
「しかし恐ろしい記録だな……」
黄泉原と霧島の目の前にあるモニターにはある記事が広がっていた。
「スナイパー機兵器、残り1機で敵機殲滅」
「正直イかれてる…相手がそこまで経験の無い中学だったという事を考慮に入れても…」
「スナイパーが殲滅だなんて普通では考えらんないわね。もしかして私たち、大当たり引いたんじゃない?」
「さて、話はここまでだ。そろそろあいつらの戦いを見ようじゃねえか」
戦況は膠着状態と言ったところか。まあスナイパー相手に容易に近づくわけにもいかないし、姿を表すわけにもいかない。要するにここは我慢比べだ。ただ…
「葉隠さん、いつまで隠れているつもりですか?このままでは時間切れで私の判定勝ちですよ」
そう、開幕早々1発食らってしまった。そして向こうは無傷のまま。いずれはこちらから動かなくてはならない。だが、今はその時じゃない。
「まあ待てって。試合をさっさと終わらせたらつまらねえだろ?」
あいつのスナイパーはそこそこ巨大な型だ。恐らく連射なんてもってのほかだろう……なら動き回りつつ接近し、ブレードでケリをつける。
「DCS、接続開始」
零と俺の脳波が同調し始める。そしてビーコンを四方に散らばせた。
「……そこか」
サーペンテストを発見し、一気にブーストをかける。だが、意外にも狙撃は来なかった。……この時点で怪しむべきだった。
「これで終わりだ!」
ブレードを敵機に振り下ろすその時、真横にブーストをかけられ、こちらの攻撃は回避される。そしてサーペンテストは待ってたが如く構えた。
「浅はかでしたね。スナイパー相手にそう来るのは定石、その程度読めないわけ無いじゃないですか」
そして1発食らわせて俺の体勢を崩す。さらに、両肩部の装備を展開させた。
「NW 11アークナイト」
王並の機兵器の手に巨大なライフルが形成された。と同時に弾が発射された。
「アークナイトねえ、近距離で使うのなんて初めて見たよ」
「静音性と長距離弾道という性質上、大抵遠距離から狙い撃つもんだが……まあ適材適所だな。あの状況下なら、零を仕留めるにはアレが1番手っ取り早い」
「ま、DCS持ってるならわりかし余裕で躱せるでしょ。ね、葉隠くん?」
「……結構簡単に言いますね。一瞬終わったかと思いましたよ」
黄泉原先輩からの急な通信は軽口から始まった。
「それより先輩、アークナイトってなんすか。やけに弾速遅かったすけど」
俺がアークナイトの凶弾を躱せたのは通常のライフルよりもやや遅い弾速であったからである。
「一撃必殺の弾を残弾0になるまでぶっ放す固定ライフルだ。残弾が切れるまではアークナイトは解除されないからその内に逃げるのが吉だ。それより左腕ぶっ壊れたな、どう戦うつもりだ?」
「躱しきれなかったのは痛いっすけど……まあまだ何とかなります。向こうがN.Wならこっちもやり返してやるまでです」
いまだにアークナイトでの周辺の破壊が続いている。身を隠してはいるが、大体の居場所は割れてしまっているみたいだ。しばらく経った後に砲撃音が止まる。アカシックの認証を得て、装備しようとしたその時である。足元に飛来したアカシックを狙い撃ちされた。
「ちっ……もうここまで来てんのかよ」
アークナイトを躱した後、結構距離を開けたつもりだったのだが……相手を甘く見積もりすぎた。
「葉隠、恐らくだが王並相手にアカシックは愚策だ。アカシックは確かに範囲も威力も桁違いに高いまさに逆転の一手だが、その代わり初動の隙がデカい。だが俺達の先輩はその弱点をある方法でカバーした」
「ある方法…?」
「まあ物は試しだ、使ってみろ」
霧島先輩がそう言い残すと、足元に新たなN.Wが飛来してきた。今度は素早くそれを拾い上げ、装備しようとした。しかし…
「あれ?アカシックにしてはこれ小さいような……てか2つ?」
「それが石波が作ったN.W、アカシックツヴァイだ。もう少し早めに教えてればよかったんだがな。なかなかタイミングが取れなくてね」
「いえ、大丈夫です。むしろ感謝っすよ」
勝ちの算段がついた。とは言ってもほぼほぼ賭けに近い。
「敵機は……近いな。むしろ好都合だ」
俺はツヴァイの片方を装備し、出力を全開にした。そしてそれを敵機のいるビルに投げつける。
「……足場を崩して反撃ですか?それも慣れてますよ」
王並は、それすらも予定通りと言わんばかりにビルから飛び移って行った。だが、俺の目に映ったが最後だ。
「アカシック、起動!」
地面に落ちていたアカシックを装備、展開し、出力を最大にする。王並の着地寸前を狙い、縦にその大剣を振るう。
「……甘い」
着地寸前にブースターで逃げられる。だが、それも想定済みだ。一旦アカシックを起動させればこっちのものだ。
「はぁあああああああっ!!」
アカシックを横方向に振り回し、回転しながらブーストをかける。回転が止まる頃には、周りのビルの全てが崩落していた。
「地の利を完全に潰されましたか。こうなるといよいよキツいですね…」
すでにアカシックの間合いだと言うのに、まだ余裕がある。何か秘策を秘めているのだろうか。
「アカシック、エネルギー0。解除するよ」
黄泉原先輩からの通信が届いた。この段階でこの解除は結構辛い…が
「さて、そろそろトドメと行きましょうか。ライフル、部分解除」
サーペンテストのライフルの一部装備が剥がれ、ショットガンへと変貌した。
「やけにデカいと思ったらそういう事かよ……」
「これで終わりです、葉隠さん!」
ハイブースターで急接近し、ショットガンを撃ち込んで来る。対する俺は防戦一方、さらにブースターは向こうのが速い。あっという間に追いつかれ……
「させるかよ」
チェーンブレイドを解除し、サーペンテストに投げつけた。見事に命中し、サーペンテストの体勢が崩れる。そして、もう片方のツヴァイを装備、展開する。
「ッ!?しまっ…」
「今度こそ、終わりだ!」
アカシックツヴァイがサーペンテストを斬り伏せる。何とかギリギリで勝利できたが……
「まだまだだな、俺は」
零に相応しいパイロットには、全然届いていない。そう実感した試合だった。
零vsサーペンテスト
零のアカシックツヴァイによるサーペンテストの大幅損傷により、零の勝利
「ありがとうごさいました。石波のエース機の力、しっかりと体験できました」
「こっちこそ、面白い試合ができた。ありがとな。あとタメ口でいいぞ?」
「いえ、この方が慣れているので。もしお気に召さないのなら直しますが…」
「いや、お前がやりやすいなら…」
「あいつら一回戦っただけで急に仲良くなったな」
「いいんじゃないですか、仲良きことはって言いますし」
「あれ、多摩どこ行ってたのさ?試合見れば良かったのに」
なぜか試合前まではいたのにいつの間にかいなかった多摩先輩が戻ってきた。
「城鐘の公開演習が開かれていたので少し見学に行っていました。ていうか行けって言ったの黄泉原さんじゃないですか」
「ははは、冗談だよ冗談…」
と目をそらす黄泉原先輩。あなた絶対こっちに集中してて忘れてましたよね?
「…まあいいです。それよりまずい事になりました。去年出てきた城鐘のエース、いましたよね」
「ああ、聖坂卿染か。あいつがどうかしたのか」
「……予想以上のバケモノでしたよ、彼」
第7話 了