第3話 危機
校内にある機兵器用闘技場から巨大な音が鳴り響く。多くの生徒がどよめく中、数人の生徒はその音のした方角に眼を向ける。
「今のは……まさか……!?」
その中の1人が闘技場へと足を運んだ。
「ここは……?」
いつの間にか眠っていたようで、見知らぬ部屋のベッドに横たわっていた。
あたりを見渡すと見慣れぬレポート用紙やモニターなどがあった。
「ようやく起きたか。ここは私の作業場兼部室よ」
声の方を見ると、黄泉原先輩がモニター前に座っていた。先輩はモニターの映像と何かの紙を交互に見ている。
「いやーすごいね。まさか本当にDCSを発動するなんて。それ以前の操縦センスもすごいよ」
「ど、どうもっス」
「謙遜しなくてもいいよ?初めてであそこまで戦えるのは中々だよ」
こちらとの会話を続けつつも先輩は何かしらのメモを取り続けている。
「あの、さっきから何のメモを…?」
「あぁ、さっきの戦闘データ。DCS適正者の戦闘なんて中々見れないし、君の動きのクセとか見つけないとね」
なんだか、部室に入る前のおちゃらけた雰囲気とは全然違う。
「真面目に話とかできたんスね」
「ちょっ、それどういう意味だオイ!」
「そう思われても仕方無えだろ」
黄泉原先輩と話をしてると霧島先輩も入ってきた。
「あっ霧島先輩、お疲れ様です!あと手合わせありがとうございます!!」
「……結構礼儀しっかりしてんのな、お前。あと疲れはお前のが酷いはずだ。もう少し休んどけ」
そう言うと、霧島先輩は黄泉原先輩のメモに手を伸ばした。
「いつもながらよくやってくれるわ。ある意味天性の才能だな」
そうして2人とも自分の作業に入ったので、自分も身体を休めるのに専念する事にした。
そしてまた十数分経ち、日が暮れてきた頃である。
「先輩、中に入れてもらえませんか」
扉越しに聞き慣れない声が聞こえてきたが、霧島先輩はすぐに扉に向かい声の主を部室に迎え入れた。
「多摩…?お前少しの間休部するって言ってなかったか?」
「アルティマの砲撃音を聞いたら来ないわけにはいかないじゃないすか。てか俺のナックル勝手に使ったんですか、一言くださいよ全く…」
制服のバッジからして2年だろうか。「俺のナックル」と言っていることから、さっき霧島先輩が乗ってた機体はこの人のか…。
「あ、あの…」
「ん?新入生の方ですか?」
「あ、はい、そうです……あっ、寝たままですみません」
「いいですよ、その様子だと初めて乗って疲弊したのでしょう」
私もそうでしたからね。そう言うと、多摩と呼ばれたその男子生徒は霧島先輩の持つメモを手に取り、そのメモを眺めた。数秒見た後に顔色を変えた。
「先輩……まさか」
「ああ、ついに見つけたのさ」
多摩先輩はメモから目を離し、こちらを向いた。
「まさか……本当にいたなんて……」
「……その、DCSの話……ですか?」
俺の問いに軽く頷き、そして霧島先輩の方を向いた。
「すみません、事情が変わりました。休部を取り消してください」
「ください、つったって……お前親になんて言うつもりなんだよ」
「その辺寛容なんでなんとでもなります。それに俺がいないとパイロット、足りませんよね」
「まあ、そうだな……」
「おー多摩っち、おひさー」
気がつくと、黄泉原先輩が戦闘の観察を終えていた。
「黄泉原さん……あなたほどの頭を持っていながらなぜ留年するんですか」
「なはは、興味ない事に関してはダメダメなんだよねー」
「さて、パイロットが揃ったところで、そろそろアレやるか」
霧島先輩がおもむろに立ち上がり、部員皆に宣言した。
「石波、仮復活記念として、他校との練習試合を組もうと思うんだが、どうだ?」
一瞬の静寂の後、先輩の提案は満場一致で可決された。
練習試合。その言葉を聞いて武者震いがする。と、同時に一種の不安がよぎる。
「俺まだ全然戦い慣れてないっスけど、大丈夫なんですか?」
「あー、それに関してだが……黄泉原、スカーレットの整備って完璧だよな?」
「げっ、あんたまさか葉隠くんにアイツ使うつもりなの?」
「先輩も大人げないですね……まあ、スカーレットのようなタイプの対策も必須ですし、いいんじゃないですか?」
話から察するに、スカーレットというのは霧島先輩の本来の機体だろう。そして、さっき戦ったナックルとはまた別のタイプ。
「今度は……いつ戦うんですか」
「そうだな、今日の感覚を忘れないうちに……明日だな」
そして、先輩との手合わせの予定を組み、今日はその場で解散となった。
帰り際、多摩先輩から一言アドバイスを貰った。
「霧島先輩のスカーレットには気をつけた方が良いです。ナックルの時のように、無闇に殴りかかると痛い目に遭います」
それでは、と先輩は帰って行った。
俺の記念すべき高校生活初日は、たぶん一生忘れない一日になった。
「へえ、石波の機兵器部……復活したんだ」
「霧島すげえテンション上がってたな。なんでも期待のホープが入ったって話らしいぞ」
「早速そのホープってのと手合わせを放課後にやるって噂があるぜ。久々に見てみないか?」
「よっし、見に行くか」
機兵器部の部員数が増え再興しつつある事、今日俺が霧島先輩の機体と戦う事、その他諸々がなぜか学校中に知れ渡ってた。
「ふっふっふ、私の広報力……舐めてもらっちゃあ困るぜよ?ふふふふ……」
黄泉原先輩も異常にテンションが高い。まあ、機兵器バカとして再び機兵器と共に動けるというのはそれだけで楽しくなる。俺も昨日初めて動かした時、とんでもなく楽しかった。確かに少し恐怖感もあったけど、それ以上に機兵器と一緒に戦っているという実感が楽しいという感情の方がデカかった。
先輩との手合わせのためにガレージに向かおうとすると、霧島先輩が先生と話をしていた。
霧島先輩の指示で一旦部員は部室に集められた。そして、先輩の第一声は……
「このままだと、機兵器部は廃部だ」
第3話 了