第2話 一歩の先へ
N.W
改造した武器の名称の直前に数字を付けると、それは「過剰改造された武器」と表明する事になる。機兵器データバンクに登録をすれば、機兵器闘技祭でも使用可能。
「こいつは俺の本来の機体じゃねえんだがな。今回はお前の力の言わば査定みたいなもんだ。本気でやり合うわけじゃねえから安心しろ」
「は、はい!」
「それよりもまずは操縦に慣れるのが先だ。まあ、すぐに動かせるとは思うけどな」
(ふーん、新入り君……初めて操縦するにしては中々いい動きじゃん)
オペレータ室から戦況を観察する黄泉原はそれぞれの機体の情報をもう一度確認する。
零
70t/10m
左腕:20mmガトリング
右腕:チェーンブレイド
右肩部:索敵ビーコン×6
左肩部:ホーミングランチャー
脚部:スタンダードブースター
ナックル
70t/10m
左腕:50mmショットガン
右腕:45mmライフル
右肩部:サーモサーチャー
左肩部:直線ミサイル
脚部:スタンダードブースター
(だいたい互角の装備ってところかしら。ただ今回のフィールドは開けてるからビーコンもサーチャーも腐ってるかな)
「さてと、じゃあ戦闘に眼を戻しますか……おおっ?」
黄泉原がフィールドで見たのは、おおよそ初心者が操縦しているとは思えない動きをする零の姿だった。
「中々飲み込みが早いじゃねえか、葉隠!」
自分でもよくわからない。意識はしてはいるが、ほとんど考えずに動かすことができる。もっと言うと、まるで自分の体のように動かせる。
「なんかよくわかんないっスけど…結構すんなり動かせます!」
「……やっぱりな。お前にはあの才能があるみたいだな」
「さっきから言ってるその『才能』って…なんですか?」
「戦ってればわかるさ。そんじゃあ攻撃に移るが、衝撃に備えろよ?」
言うが早いか、右腕のライフルが零を直撃する。
「ッ!?」
とんでもない衝撃がコックピットにまで響いた。その瞬間、零の態勢が一瞬崩れたが、すぐさま立て直す。
(やっべえ…これが機兵器の戦いか。俄然燃えてきた!)
「ライフル直撃で速攻態勢立て直すか…初心者のする事じゃねえぞ」
考えろ、相手の武器は全て遠距離。近寄らせないまま勝負を終わらせる算段だろう。なら答えは1つ…
「近づいて斬るのみ!」
フットペダルを二回強く踏み、ブーストで先輩に向けて全速力で距離を詰める。
「ちっ、気づかれたか。なら…」
霧島の操るナックルの銃が火を噴き、零に向かって無数の弾丸が飛んでいく。対する零は多少被弾しながらも左右に躱し、致命的なダメージを避けていく。そうして徐々にナックルとの距離を詰め、チェーンブレイドの間合いに入った。
「俺の戦法にいち早く気づいたのは評価してやる、が」
ナックルの左肩部にあるミサイルが零を捉える。
「俺のが一枚上手だ」
ナックルのミサイルが零の右肩部を爆破する。幸い右肩部のビーコンが吹き飛ぶだけで済んだが、それはまた新たな障害が葉隠の前に立ち塞がった事も意味した。
「ちっ……やっぱりタダでやらせてくれねえよな」
「戦闘センスと着眼点は中々のもんだ。その調子でガンガン攻めてこい」
「…了解ッ!」
もう一度ブースターをかける。しかし今回は右に回りつつ発進した。ナックルは後退し、下がりつつも銃撃を続けた。今度はチェーンブレイドの表面積の広さを利用し、盾代わりにし距離を詰める。
「おいおい、それじゃあ俺を斬れねえぞ!どうするつもりだ?」
そして、間合いに入る直前に、右手のロックを外して……チェーンブレイドをナックル目掛けて投擲した。
「なっ!?」
ナックルはその場からブーストで離れ、チェーンブレイドを避ける。その回避地点を零のガトリングが襲いかかる。そしてナックルは、多数の被弾を負った。
「ちっ……やってくれるじゃねえか」
そこにホーミングランチャーの追い打ちがかけられる。ナックルは退避しつつ全てを撃ち落とす。
「…やりますね、先輩」
「こっちの台詞だ、ったく…」
葉隠は素早くチェーンブレイドを回収し、再装着する。
その一瞬は、霧島に次の展開を用意させるのには充分な時間だった。
「……だいぶ距離が離れたな」
「葉隠、良いものを見せてやるよ」
内部スピーカーから突然霧島先輩の音声が流れた。
「黄泉原、N.W『アルティマ』だ」
「はあ?アンタ初心者にアレ使うの!?冗談はよしてよね!」
「コイツなら平気さ。それに、こうでもしなきゃ覚醒しなさそうだ」
「……わかったわよ。じゃ、承認するわ」
黄泉原先輩の音声が流れた後、フィールドにどこからともなく1つのミサイル砲が落ちてきた。ナックルはそれを装備し、こちらへ構えた。
「さてと、トドメと行きますか」
アレはヤバい。脳が警鐘を鳴らし続けている。なのに雰囲気に圧倒されて動けなくなっている。ちくしょう、避けなきゃ、避けなきゃ避けなきゃ避けなきゃ避けなきゃ避けなきゃ避けなきゃ避けな
「射出」
ギリギリ視認できるかできないかぐらいの速さで『アルティマ』は零に向かう。基本的には止まっている的なら『アルティマ』は捉える。基本的には。
(マズいマズいマズいマズいマズいマズいマズい避けなきゃ避けなきゃ避けなきゃもう目の前に来そうだ、来ている)
「右に…」
「嘘…でしょ……」
「……マジかよ」
彼らが見たのは、ほぼ被弾直前で右への回避を成功させた零の姿であった。
(……あれ?)
「機体が…立ってる?」
あのミサイルが当たる直前まで手足がすくんでる状態だったのに、殆ど反射で避けることができた。まるで自分の身体のように。
「葉隠、それがお前の持つ才能だ」
霧島先輩の声が聞こえてくる。
「DCSって聞いたことあるか?Direct Control Sequenceって言うんだが、こいつは機兵器が作られた当初は注目されてたシステムだった」
「そのシステムはね、機兵器とパイロットの脳波をリンクさせて、パイロットに自分の身体のように操縦をさせるようにするシステムなの。でも……」
「適正者とそうでないやつってのがいるんだ。適正者が使えば普通のパイロットよりも自由自在に機兵器を操れるし、戦力も普通に操作するより数倍違う。だがそうでないやつが使うと酷い後遺症が残る。そこにマウスピースがあるだろ?」
マウスピースを自分が無意識に加えていた事に今更気づいた。しかし、マウスピースがなんだと言うのか。
「それが…どうかしたんですか」
「いやぁ、俺のところには無くてね。ウチのところだと零くらいしか付いてないんじゃねえかな」
「……まさか、これが脳波とリンクさせる機械だと?」
「感が良いな葉隠。その通りだ」
「待ってください、なんで俺にそのDCS適性があると思ったんですか!?もしかしたら後遺症が…」
「乗っただけで機体の不備やその部位に気付けたんだろ?立派な適正者さ」
「確かにやり方は少し強引だと思うわ。そこに関しては謝らせてもらうわね。でもね、葉隠くん。どこかで何かしらの予感はあったでしょ?」
……言われてみれば。
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「中々飲み込みが早いじゃねえか、葉隠!」
自分でもよくわからない。意識はしてはいるが、ほとんど考えずに動かすことができる。もっと言うと、まるで自分の体のように動かせる。
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「……確かに、初めて動かしたにしてはうまく行き過ぎだと」
「葉隠」
「は、はい!?」
突然霧島先輩に呼ばれ、思わず上ずった声で返事をしてしまった。
「合格だ。機兵器部への入部を歓迎する」
「いや合格って!あたし達の時はそんなの無かったでしょ、調子に乗らない!」
「あぁ!?たまにはカッコつけさせろって」
「あはは…」
なんだか力が抜けて、肩の荷が下りた感じがした。なんだか…眠く……
「おーい、葉隠?葉隠ー?寝ちまったか?」
「仕方ないわよ、初めてDCSを、しかもあんな急な使い方をしたんだから」
「ははっ、違いねえな。まあなんだ、期待のホープが見つかったって感じか」
零vsナックル
パイロット戦闘不能状態により、ナックルの勝利
第2話 了