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硝煙のノア  作者: 真白シグマ
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第18話 目覚める真実

病院の地下は、陰鬱な雰囲気の研究所のように見えた。八重は、廃墟であるはずのこの場にある違和感を覚えた。あらゆる所に電源が付き、辺りが光に当てられているのである。


(__間違いない。電気が通ってるという事は、ここはまだ使われていて……誰かがいる)


先ほどの気配は勘違いでは無い事を確認した彼女は、身を隠しながら奥へと歩みを進める。その際、万が一の時に備え、腰の銃に手を添える。


「こんなぶっそうな物、使いたくなかったんだけどね……」



「八重先輩、今日の訓練……ってあれ?」


王並が部室を訪れると、いつもいるはずの八重の姿が無かった。そこにいたのは、何かをものすごい速度で書いている黄泉原のみであった。


「あの、黄泉原先輩。八重先輩は……」

「……仕事だ」

「……危険な仕事、ですか?」


王並が尋ねると、数秒間を空けて黄泉原は答える。


「何でそう思う?」

「……顔に出てますよ」

「そんな分かりやすいかな、私って」


彼女は乾いた笑いを上げ、ペンを置いた。


「だっていつもなら、あいつなら大丈夫って言うじゃないですか。葉隠さんの時は最後まで諦めなかった」

「そうかもね……あの時の部長の言葉が刺さってんのかな」

「……生きて帰ってこれたのは奇跡だ、ってやつですか?」


黄泉原はその指摘に頷き、身体を彼女の方向に向ける。


「私たちは所詮ガキんちょだ。なのにDCSが使えることに浮かれて、本物に出会うまで戦いの恐怖なんか知る術も無かった」

「……いまいち要領を得ないですね。普段の先輩なら論点をズバって話すのに、今日はどうも話題を逸らしてるように聞こえますよ」

「ハハッ、相当こたえてるみたいだね。まあ……王並ちゃんにはいずれ話そうと思ってた事だし、丁度いいや」


彼女は、そう言いながら王並の目の前まで歩く。


「あの、一体……」

「落ち着いて聞いてくれる?……これから話す事は、君の過去に関する話だ」



病院の屋上で、俺はただぼんやりとコーヒーを飲みながら町を眺めていた。今にも雨が降りそうな空に、若干憂鬱になっている。……あれからしばらく黒い機兵器は出現していなかった。俺は未だに、あの日俺を助けた機兵器の事が気がかりだった。


「何辛気臭い顔してんのよ」

「深咲か。何しに来たんだよ」


深咲が俺の横に座り込み、コーヒーを横取りして一滴残らず飲み干した。


「ごちそうさま」

「おいてめえ!」

「あはは!!」


俺は逃げる深咲を暫く追いかけ、互いに疲れ果てて座り込んだ。息も整った頃に、深咲から話しかけてきた。


「ハァ……ハァ……今は難しい事考えないでいいんじゃない?」

「そういう……ワケにもいかねえだろ……ハァ……明らかに町が変わっちまってる。こんな所でのんびりしてられねえのに、俺は動けねえ」

「それでまた無茶したらしょうがないじゃない」


ある程度話の区切りがついたところで、ぽつぽつと雨が降り始めた。


「……丁度いい、頭を冷やせそうだな」

「幹人のクセに、やけにポエミーな事言うじゃん」

「うっせえ、風邪ひかねえうちに戻るぞ」


俺が深咲を連れて行こうと立ち上がった際、爆発が町の遠くで発生した。


「……幹人、今のって」

「ッ……!」


俺は即座に霧島部長に電話をかける。3コール待ったのちに連絡が繋がった。


「葉隠、どうした?」

「襲撃です!屋上から爆発が見えました」

「ちっ……俺たちは今城鐘に集まってて手が離せねえ、八重先輩に任せて……」


「それは無理だ。残念だけど」


部長と話してる俺の後ろから、声が聞こえた。その声の主は、黄泉原先輩だった。


「黄泉原……先輩?」

「おい黄泉原、それはどういう事だ」

「八重さんは単独任務に出た。今は帰ってこれない」

「間が悪ぃな……こうなったら政府軍を待つしか……」

「俺がやります」


俺は、部長の言葉を遮って戦う事を告げた。深咲は心配そうな眼で俺を見ていたが、黄泉原先輩は、諌める様な視線で俺を見た。そして、口を開いた。


「ダメだ。零の出動許可はできない」

「……何でだよ、今すぐに戦えるのは俺だけだ!」

「これ以上の戦力を空けることはできない。特に葉隠君はDCSの使い手だ。無駄死にさせるわけにはいかない」

「俺1人の為に町のみんなを見殺しにしろってのかよ!?」


俺が黄泉原先輩に摑みかかろうと前に踏み出す俺を、深咲は抑えつける。


「今は待とうよ!政府が来るまで、みんなを避難させて……!」

「んな事してる内に追いつかれてまとめて殺されるのがオチだ!なら俺が足止めするしかねえだろ!!」

「君はまだ万全じゃない。そんな身体で動かれるとこっちも困る」

「黄泉原……お前、何か隠してるな?」


口論の中部長が、黄泉原先輩に尋ねた。先輩は、それを聞いて明らかに動揺してるように見えた。


「さっき、()()()()()()()()()、つったよな?」

「……それが何だっていうの?」

「まるで、八重先輩が死ぬ前提みたいじゃねえか」

「……」


黄泉原先輩は__言葉を返さなかった。


「どういう事だよそれ。死ぬのを分かってて、それで送り出したってのかよ!?」

「……八重さんが望んだ事だ。私も何度も止めたよ」

「……埒があかねえな。お前らは一旦避難しろ。俺が城鐘から緊急避難命令を出しとく。詳しい話はそれが終わってからだ」


部長が電話を切り、辺りには静寂が広がった。俺は、耐えきれず院内に駆け込んだ。



エスカ特別隊、通称"特攻隊"隊長『ネイル・グランページ』は、同じく特攻隊研究室長『マクス・ディーラン』の下を訪ねた。


「よう博士、アイツ見なかったか?」

「出会い頭にアイツでは分からんよ、ネイル。代名詞は長く続く文脈でこそ意味をなすもので……」

「悪い悪い、俺が悪かった。アルだよ、あの坊やはどこ行った?」


マクスはお手上げのジェスチャーを見せ、さっさとモニターに顔を移す。


「んだよつれねえなぁ。博士でも知らねえとなると、出撃でもしてんのか?」


ネイルが冗談半分に言い、出撃記録を見たところ、そこには『アルフレッド・シーザー 23分前』と出ていた。


「あのバトルジャンキーが、疲れ知らずかよ」

「やはりお前の勘はよく当たる……悪い方向ばっかにな」


彼らは、部下のアクティブさにため息しか出てこなかった。



地下の研究所を進んで行くと、八重の目にはガラス製の大きなカプセルが並ぶ光景が入ってきた。その中には、青白く光る粒子が浮かんでいた。


「これは……NOAA!?なんで病院の地下に……」


NOAAの入ったカプセルは、パイプに繋がれている。彼女がそのパイプの行く先を追うと、大きなガラス窓が広がっていた。そして、その先に巨大な機械が鎮座していた。


「何なの……あの機械は……。機兵器とはまるで違う」

「ほう……国連軍の差し金か。良くここが分かったな」


後ろからの声に彼女は振り返る。そこにいたのは、一目で強者と分かる雰囲気の青年であった。その男の外見は、王並から送られたデータにあった、城鐘を襲撃した男そのものであった。


「エスカ……!」

「"管理者"の施設にエスカである俺がいる事に疑問を持ってるようだな」

「さっきの物音はお前か」

「いや、俺が来た時には既にお前の機兵器が置かれていた。それに、お前が地下に行くのを見かけた」

「……なら」

「ああ、近くに管理者がいるのだろうな……露雨様の意思を継ぐ者がな」

「露……雨?」


エスカの男の口から、思いも寄らない人物の名前が飛び出した。


「そう、葉隠露雨の事だ。この施設はかつてNOAA放出事件で、汚染の恐れから立ち入り禁止となった。まあ、当然これは表向きの理由だ」

「……つまりこの研究が外に漏れるのがマズイって事でしょ?」

「半分正解で、半分違う」


男は、八重に向かって歩みを進める。そして、言葉を続けていく。


「"管理者"の最初にして最後の犠牲者、そして『エスカ元隊長』、葉隠露雨の存在を隠すためだ」

「今、何て言った?葉隠露雨が……エスカ?」


八重が疑問を投げると同時に、窓ガラスが割れる。その先から、青い光が心臓の如く胎動する獣の様な機械が立ち上がっていた。


「やるぞ」

「えっ……?」


男の言葉に、八重は頭に疑問符を浮かべた。まさか、この男はアレに立ち向かおうとしているのか?そう顔に表している彼女に対して、彼はこう言い放った。


「管理者は人類の敵だ。そして、我々エスカはあくまでも"人類の味方"だ」

「味方……だと?」

「機兵器に乗れ。続きはヤツを倒してからだ」


そう言い残し、彼は外へと駆け出した。残された八重は、眼前の兵器を一瞥し、立ち上がる。そして、彼女もまた来た道を走る。


共闘の準備は、整った。


第18話 了

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