第18話 目覚める真実
病院の地下は、陰鬱な雰囲気の研究所のように見えた。八重は、廃墟であるはずのこの場にある違和感を覚えた。あらゆる所に電源が付き、辺りが光に当てられているのである。
(__間違いない。電気が通ってるという事は、ここはまだ使われていて……誰かがいる)
先ほどの気配は勘違いでは無い事を確認した彼女は、身を隠しながら奥へと歩みを進める。その際、万が一の時に備え、腰の銃に手を添える。
「こんなぶっそうな物、使いたくなかったんだけどね……」
◆
「八重先輩、今日の訓練……ってあれ?」
王並が部室を訪れると、いつもいるはずの八重の姿が無かった。そこにいたのは、何かをものすごい速度で書いている黄泉原のみであった。
「あの、黄泉原先輩。八重先輩は……」
「……仕事だ」
「……危険な仕事、ですか?」
王並が尋ねると、数秒間を空けて黄泉原は答える。
「何でそう思う?」
「……顔に出てますよ」
「そんな分かりやすいかな、私って」
彼女は乾いた笑いを上げ、ペンを置いた。
「だっていつもなら、あいつなら大丈夫って言うじゃないですか。葉隠さんの時は最後まで諦めなかった」
「そうかもね……あの時の部長の言葉が刺さってんのかな」
「……生きて帰ってこれたのは奇跡だ、ってやつですか?」
黄泉原はその指摘に頷き、身体を彼女の方向に向ける。
「私たちは所詮ガキんちょだ。なのにDCSが使えることに浮かれて、本物に出会うまで戦いの恐怖なんか知る術も無かった」
「……いまいち要領を得ないですね。普段の先輩なら論点をズバって話すのに、今日はどうも話題を逸らしてるように聞こえますよ」
「ハハッ、相当こたえてるみたいだね。まあ……王並ちゃんにはいずれ話そうと思ってた事だし、丁度いいや」
彼女は、そう言いながら王並の目の前まで歩く。
「あの、一体……」
「落ち着いて聞いてくれる?……これから話す事は、君の過去に関する話だ」
◆
病院の屋上で、俺はただぼんやりとコーヒーを飲みながら町を眺めていた。今にも雨が降りそうな空に、若干憂鬱になっている。……あれからしばらく黒い機兵器は出現していなかった。俺は未だに、あの日俺を助けた機兵器の事が気がかりだった。
「何辛気臭い顔してんのよ」
「深咲か。何しに来たんだよ」
深咲が俺の横に座り込み、コーヒーを横取りして一滴残らず飲み干した。
「ごちそうさま」
「おいてめえ!」
「あはは!!」
俺は逃げる深咲を暫く追いかけ、互いに疲れ果てて座り込んだ。息も整った頃に、深咲から話しかけてきた。
「ハァ……ハァ……今は難しい事考えないでいいんじゃない?」
「そういう……ワケにもいかねえだろ……ハァ……明らかに町が変わっちまってる。こんな所でのんびりしてられねえのに、俺は動けねえ」
「それでまた無茶したらしょうがないじゃない」
ある程度話の区切りがついたところで、ぽつぽつと雨が降り始めた。
「……丁度いい、頭を冷やせそうだな」
「幹人のクセに、やけにポエミーな事言うじゃん」
「うっせえ、風邪ひかねえうちに戻るぞ」
俺が深咲を連れて行こうと立ち上がった際、爆発が町の遠くで発生した。
「……幹人、今のって」
「ッ……!」
俺は即座に霧島部長に電話をかける。3コール待ったのちに連絡が繋がった。
「葉隠、どうした?」
「襲撃です!屋上から爆発が見えました」
「ちっ……俺たちは今城鐘に集まってて手が離せねえ、八重先輩に任せて……」
「それは無理だ。残念だけど」
部長と話してる俺の後ろから、声が聞こえた。その声の主は、黄泉原先輩だった。
「黄泉原……先輩?」
「おい黄泉原、それはどういう事だ」
「八重さんは単独任務に出た。今は帰ってこれない」
「間が悪ぃな……こうなったら政府軍を待つしか……」
「俺がやります」
俺は、部長の言葉を遮って戦う事を告げた。深咲は心配そうな眼で俺を見ていたが、黄泉原先輩は、諌める様な視線で俺を見た。そして、口を開いた。
「ダメだ。零の出動許可はできない」
「……何でだよ、今すぐに戦えるのは俺だけだ!」
「これ以上の戦力を空けることはできない。特に葉隠君はDCSの使い手だ。無駄死にさせるわけにはいかない」
「俺1人の為に町のみんなを見殺しにしろってのかよ!?」
俺が黄泉原先輩に摑みかかろうと前に踏み出す俺を、深咲は抑えつける。
「今は待とうよ!政府が来るまで、みんなを避難させて……!」
「んな事してる内に追いつかれてまとめて殺されるのがオチだ!なら俺が足止めするしかねえだろ!!」
「君はまだ万全じゃない。そんな身体で動かれるとこっちも困る」
「黄泉原……お前、何か隠してるな?」
口論の中部長が、黄泉原先輩に尋ねた。先輩は、それを聞いて明らかに動揺してるように見えた。
「さっき、戦力を空けられない、つったよな?」
「……それが何だっていうの?」
「まるで、八重先輩が死ぬ前提みたいじゃねえか」
「……」
黄泉原先輩は__言葉を返さなかった。
「どういう事だよそれ。死ぬのを分かってて、それで送り出したってのかよ!?」
「……八重さんが望んだ事だ。私も何度も止めたよ」
「……埒があかねえな。お前らは一旦避難しろ。俺が城鐘から緊急避難命令を出しとく。詳しい話はそれが終わってからだ」
部長が電話を切り、辺りには静寂が広がった。俺は、耐えきれず院内に駆け込んだ。
◆
エスカ特別隊、通称"特攻隊"隊長『ネイル・グランページ』は、同じく特攻隊研究室長『マクス・ディーラン』の下を訪ねた。
「よう博士、アイツ見なかったか?」
「出会い頭にアイツでは分からんよ、ネイル。代名詞は長く続く文脈でこそ意味をなすもので……」
「悪い悪い、俺が悪かった。アルだよ、あの坊やはどこ行った?」
マクスはお手上げのジェスチャーを見せ、さっさとモニターに顔を移す。
「んだよつれねえなぁ。博士でも知らねえとなると、出撃でもしてんのか?」
ネイルが冗談半分に言い、出撃記録を見たところ、そこには『アルフレッド・シーザー 23分前』と出ていた。
「あのバトルジャンキーが、疲れ知らずかよ」
「やはりお前の勘はよく当たる……悪い方向ばっかにな」
彼らは、部下のアクティブさにため息しか出てこなかった。
◆
地下の研究所を進んで行くと、八重の目にはガラス製の大きなカプセルが並ぶ光景が入ってきた。その中には、青白く光る粒子が浮かんでいた。
「これは……NOAA!?なんで病院の地下に……」
NOAAの入ったカプセルは、パイプに繋がれている。彼女がそのパイプの行く先を追うと、大きなガラス窓が広がっていた。そして、その先に巨大な機械が鎮座していた。
「何なの……あの機械は……。機兵器とはまるで違う」
「ほう……国連軍の差し金か。良くここが分かったな」
後ろからの声に彼女は振り返る。そこにいたのは、一目で強者と分かる雰囲気の青年であった。その男の外見は、王並から送られたデータにあった、城鐘を襲撃した男そのものであった。
「エスカ……!」
「"管理者"の施設にエスカである俺がいる事に疑問を持ってるようだな」
「さっきの物音はお前か」
「いや、俺が来た時には既にお前の機兵器が置かれていた。それに、お前が地下に行くのを見かけた」
「……なら」
「ああ、近くに管理者がいるのだろうな……露雨様の意思を継ぐ者がな」
「露……雨?」
エスカの男の口から、思いも寄らない人物の名前が飛び出した。
「そう、葉隠露雨の事だ。この施設はかつてNOAA放出事件で、汚染の恐れから立ち入り禁止となった。まあ、当然これは表向きの理由だ」
「……つまりこの研究が外に漏れるのがマズイって事でしょ?」
「半分正解で、半分違う」
男は、八重に向かって歩みを進める。そして、言葉を続けていく。
「"管理者"の最初にして最後の犠牲者、そして『エスカ元隊長』、葉隠露雨の存在を隠すためだ」
「今、何て言った?葉隠露雨が……エスカ?」
八重が疑問を投げると同時に、窓ガラスが割れる。その先から、青い光が心臓の如く胎動する獣の様な機械が立ち上がっていた。
「やるぞ」
「えっ……?」
男の言葉に、八重は頭に疑問符を浮かべた。まさか、この男はアレに立ち向かおうとしているのか?そう顔に表している彼女に対して、彼はこう言い放った。
「管理者は人類の敵だ。そして、我々エスカはあくまでも"人類の味方"だ」
「味方……だと?」
「機兵器に乗れ。続きはヤツを倒してからだ」
そう言い残し、彼は外へと駆け出した。残された八重は、眼前の兵器を一瞥し、立ち上がる。そして、彼女もまた来た道を走る。
共闘の準備は、整った。
第18話 了




