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硝煙のノア  作者: 真白シグマ
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第16話 双黒の機人

目が()めると、白を基調とした部屋にいた。起き上がると、どうやら病室のベッドに寝ていたようで、横を見ると、両親や部活の仲間がいた。

「……おはよう」

俺の言葉にみんなほっとしたようだ。良かった、俺は生きてるのか。

「良く生きて帰って来たな」

「こんなにケガして……でも、良かった……」

両親が俺の身を案じてくれる事に、感謝は当然あるのだが、1つ疑問が生まれる。

「ケガ……したっけ……」

と、自分の全身を確認してみる。腕に包帯が巻かれていたので外してみると、両腕の肘から先が軽い火傷をしたような怪我をしていた。

「う、うわっ!?」

俺は驚き、勢い余って頭をベッドの端にぶつける。その時、頭に触れた際に頭に包帯が巻かれているのにも気づいた。

「俺、だいぶやらかしたみたいだな……」

黄泉原(よみはら)が通信を入れてすぐ暴走を始めたんだ。そこで聖坂(ひじりさか)に無理やり止めて貰った。その時のブレードの余熱でそんなになっちまった……まあ、そんなんで済んで良かったな。1週間で治るってよ」

霧島先輩が俺の症状についてざっと説明した。

「そうですか、なら……良かった…」

そうして、俺はまた眠くなって目を閉じた。


「この度は、息子さんに大怪我を負わせてしまい……申し訳ありませんでした」

霧島(きりしま)葉隠(はがくれ)の両親に頭を深く下げる。王並(きみなみ)多摩(たま)、そして黄泉原も続けて頭を下げた。

「……どうか顔を上げてください。悪いのはあなた達じゃなくて、攻め込んできたのが……」

「それでも、俺が機兵武闘祭(メカリア)を諦めきれずに葉隠の入部を認めてしまったから、こんな戦いに巻き込まれてしまって……」

謝罪と許容のいたちごっこが続く中、1人の少女が近づいて来た。

「あの、葉隠幹人(はがくれみきと)の病室ってここであってますか?」

少女は6人に対して空気も読まず尋ねる。

「あら、久しぶりね。幹人はここで合ってるよ」

葉隠の両親は顔なじみのようで、彼女に中に入るよう促した。


「……い、……さいってば!」

聞き覚えのある声がする。そして、できればこんな姿を見せたくはない人物のものであろう。

「いい加減起きなよ、今何時だと思ってんの?」

「……ったく、それが怪我人に対する態度か?」

身体を起こし、ベッドの横にいるじゃじゃ馬の姿を確認する。

「久しぶりだな、深咲(みさき)

「久しぶりじゃないわよ、ったく。留学から戻ってきたら石波がボロッボロだし、ついでに幹人もボロボロになってるし……」

2ヶ月ぶりに見る幼なじみは海外から帰って来ても、あまり変わってはいなくて、思わずおかしくなって笑いが込み上げてきた。

「ちょっと!何人の顔見て笑ってんのよ!?」

「い、いや……海外行ってきたのに全然変わんねえなってさ」

少しちゃかしたつもりだったが、何だか深咲の顔は笑ってはいなかった。

「な、何だよ……怖い顔すんなって」

「幹人はさ、変わったよね」

若干怒りの篭った言い方に、俺は戸惑う。

「……何のことだよ」

「今の幹人、すごく情けない顔してる」

「は?」

唐突に何を言うかと思えば、情けないだって?

「それ、どういう意味だよ」

「そのまんまの意味。機兵闘技祭で優勝してやる、って意気込んでた時のがいい顔してたよ」

「あの時とは状況が……!」

「部長さんから聞いたよ。誰も殺さずに勝ってやるって、覚悟したんじゃないの?みんなに約束したんじゃないの?」

「そ、それは……」


「1回死にかけただけで、揺らいじゃう決意だったの?」


その言葉を聞いた途端、俺は立ち上がって深咲の胸ぐらを掴んでいた。

「戦った事も無いくせに、分かったよう口効くなよ!!」

「幹人が決意した時はもう戦ってたの?」

深咲の指摘に俺は怯んだ。そう、学校で戦闘許可のマグネットを貰ったあの日、俺はまだ敵と戦ってはいなかった。

「戦ってすらいないのに、亡くなった人の分まで戦うって言ったんだよ!責任持つなら、最後まで持ちなよ!今回の戦いで、石波の人も大勢死んだんだよ!?」

「…………」

俺は、何も言い返せなかった。俺は、自分の言葉に、その甘さに、ここまで言われるまで気づけなかった。戦いの重さを、背中に負っていなかった事を、深咲に言われた今初めて意識した。

「……俺さ、怖かったのかもしれない」

俺は、足から力が抜けて膝をついていた。今まで恐怖を意識していなかった両腕が震えて止まらなくなった。

「敵と戦ってた時は全く怖くなかった。何とかなるって考えてたんだ。でも、人が死んでるのを見たり、親が心配して俺に連絡してきたんだ。それで、生きて帰らなきゃって感じたんだ」

「…………」

深咲は黙って俺の話を聞いてくれてる。

「それでさ。気づいていなかっただけで、殺し合いの中にいる事に怖くなってたんだ……」

「戦いが怖いってのは普通だよ。人間同士でも殴る殴られるってのは怖いし、銃なんて持ってんなら、尚更だと思う」

「……なあ、俺、戦えるのかな」

自分でもびっくりするくらい弱々しい声だった。敵であっても殺す事にすっかり怖気づいてしまったようだ。

「……もう、分かってるでしょ」

「…………だよな」

俺はゆっくりと立ち上がる。

「俺は、戦わなくちゃならねえ。ここで降りたら、死んだ人たちに顔向けできねえし、それに……何より機兵器(ノア)で人を殺すやつらを許すわけにはいかねえんだ」

一度戦うと決めたら、消えてった命の分まで戦い抜かなきゃいけない。今までの俺は、ただ機兵器を戦争の道具に使うのが許せないってだけで、個人的な思いだけで動いてた身勝手な野郎だった。これまで死んでった人の恐怖を知らずに戦ってきて、挙げ句の果てに戦うのが怖いと来たもんだ。俺はやっと、亡くなった人の目線に立ったんだ。

「……サンキューな、深咲。覚悟、できたよ」

「らしくなってきたじゃん」

深咲はもう怒っていなかった。そして、俺の手を思い切り握った。

「痛ってえ!何すんだよ!?」

(カツ)入れたんだよ!もう、大丈夫そうだね」

「……ああ。もう迷わねえよ」

「じゃあ、もう行こうかな」

「そっか。またな」

そうして、深咲は病室から出て行った。

「そうだよな……機兵器を持ってないで殺された人たちは、俺なんかより、もっと怖かったハズだもんな」

俺は、震える手をぐっと握りしめる。

「こんなとこで、立ち止まってるわけにはいかねえ」


病室から1人の少女が出て来る。霧島は少女に話しかけた。

「もう話は済んだのか?」

「ええ。しっかりお灸据えときましたから」

そちらの方は、とその少女ーー御堂(みどう)深咲ーーは尋ねたが、部の全員で葉隠をサポートする、という形に落ち着いたようだ。

「それでは、私はこれで」

深咲は一礼し、その場を去った。

「本当に……無事で良かった……」

少女は人知れず、静かに涙を流した。


3日前

「さて、お前ら。何故ここに集められたか分かってんスか?」

聖坂は石波の機兵器部と華間(はなま)士南(しなん)天堂(てんどう)を自らの部室に呼んだ。

「校門周りの弁償代か?それぐらい払うぞ」

華間がすかさず答えるが、聖坂の怒りのボルテージが止まらない。

「違うわボケ!それよりもうちょい前っス!!なんで口調でニセモノって分からないんスか!?」

「だって……」

「普段喋らないし……」

「うぐっ……!」

「大体、去年の機兵武闘祭の後の打ち上げであなた達直帰したじゃない」

「ぐふっ……!」

「士南さんの言ってた通り、あの状況下だから、みんな聖坂が敢えてその口調で喋らなかったと判断してたんだと思うが」

「がはっ……!」

その場にいたほぼ全員から痛いところを突かれ、聖坂は押し黙ってしまう。

「……まあ、ミスった事には変わりない」

霧島が重い口を開く。

「今回、俺はこの中で一番のミスを犯した」

「部長が……?」

霧島以外の面々が、一斉に彼の方向を向く。

「模擬戦、あっただろ?」

「ああ、黒い機兵器の」

「あの時、聖坂に変装してた野郎にうっかり話しちまったんだ」


非適合者であろうと、DCSは使えるという事実を。


「馬鹿な……そんな話、あり得るはずが……!」

「適合者でない者が使えば後遺症が残って、まともな生活ができなくなる、と俺は教わったが」

「ああ。確かに非適合者が乱用すれば生活に支障が出るレベルで後遺症が残る。ただ、『乱用』した場合の話だ」

華間と士南の指摘に対し、霧島は冷静に応答する。

「てことは、ほんのちょっと……2、3回なら全然平気って事か」

「そこは個人差だ。恐らくあのニセモノから情報が流されたんだろうが、俺と八重先輩がカチ合った傭兵がDCSに接続しやがった。いつ、誰がDCSを使ってくるか分からない。この辺を念頭に置いて戦ってく必要性ができちまった、申し訳ない」

「過ぎた事は仕方ない、そういう物だと割り切ろう……だが、その情報をどこで得た?」

「…………」

霧島は華間の問いに黙り込む。

「霧島?」

「……俺が昔、1回だけ試した」

彼の発言に、黄泉原以外の面々は驚愕の表情を浮かべた。

「こいつはそん時黄泉原に取らせたデータだ。ったく……あん時ゃ降りた後吐きっ放しでサイアクだったな」

霧島はレポートを全員に配った。

「さて、閑話休題だったな。このデータは全員読んだいてくれ。特にDCS使える4人は後でもいいから良く目を通しといてほしい。これからの戦いの参考になるはずだ」

「霧島部長、黄泉原さん、恩に着る」

天堂が霧島に礼を言い、華間、士南が続く。

「よせよ、照れるだろ?」

「……データ編集したの私なんだけど」

これからに備え、各々帰ろうとした頃にドアをノックする者が現れた。

「……こんな時間に誰でしょう?」

王並が聖坂に聞くが、分からないという素振りを見せる。

「さあな。先生かもしれないから開けるか」

と、ドアを開け、出てきたのは1人の学生であった。

「えーと……東雲(しののめ)科学技術高校の加賀美(かがみ)だけど……一応聞いとく、部長からお話は」

「無いな。それともお前はあの部長が連絡したとでも思ったのか?」

「やっぱりしてなかったのかあの人……信じた俺がアホだったわ」

加賀美が遠い目をしていると、聖坂は彼の肩にそっと手を置いた。

「安心しろ。今度会った時しっかり言っとくからな」

そう呟いた彼はとても純粋な笑顔をしていた。加賀美は自分の部長に降りかかる災難を予測したが……。

(まあ、いい薬になるだろ)

と、何食わぬ顔で部屋に入っていく。

「えーと、殆ど初めましてかな。俺は加賀美沙仁(かがみさじん)。東雲の2年で、DCSの適合者だ。よろしく」


現在

俺は入院中何もする事がなかったので、取り敢えずロビーまで降りてテレビのニュースを見ることにした。戦えない間、少しでも組織の動きを確認したい。そこで、俺は信じられない光景を目にする。

『__ただいま速報が入りました!石波町に所属不明機が2機現れました!!近隣の皆様はすぐさま避難してください!繰り返します__』

もう襲来だと?いくらなんでも早すぎる。しかし、周りを見ていると、みんなやけに落ち着いている。

「なあジイさん、なんでみんな落ち着いてんだ?機兵器が来てんだぞ?」

俺は偶然隣に居合わせたジイさんに話を聞いてみた。ジイさんは意外そうな顔をして答える。

「兄ちゃんテレビあんま見ないのかい?最近良く現れるんだよ、悪いやつをやっつける黒い機兵器が」

黒い……機兵器!?俺は嫌な予感がして、居ても立っても居られなくなった。

「そんなのがいるのか、教えてくれてサンキューな!」

俺はすぐエレベーターに向かい、屋上まで急ぐ。

「この辺なら見えるだろ……っと」

柵のギリギリまで身を乗り出し、機兵器の居所を探す。そして俺は見た。


あの時戦った、エンブレムもステッカーも無い、黒い機兵器『同士』が争っていた光景があった。


「どういう……ことだ?」

唖然としていると、片方が俺に気づく。そしてそいつが俺に銃口を向けた。

(マズい!)

頭では分かっているが、脚が動かない。1度意識した感覚は中々拭えないもので、機兵器の恐怖は完全に俺の身体を支配していた。

「くそっ、こんなところで……!」

俺は思わず目を瞑る。そして、発砲音が鳴り響いた。___次に目を開けた瞬間にあった光景は、俺を撃とうとした機兵器が、もう片方にぶった切られてるというものだった。

「なんなんだ……アイツは」

黒い機兵器を倒す黒い機兵器。コイツが俺たちとどう関わるのか、まだ誰も知る由は無かった。


第16話 了

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