第11話 想定外
「……石波に着陸した」
「よし、破壊工作を開始しろ。高い金で雇ったんだ、それなりの活躍はしてもらうぞ」
「あそこにはいつも世話になってるんでね。報酬もらうまでは裏切らんさ」
「では、頼んだ」
石波に一機の機兵器が降り立った。辺りを見回し、住民の避難が始まっていることを確認した。
(随分早い対応だ……民衆に頼り始めるとは、世界政府め、プライドを捨てたか)
「住民がいない、どうする?」
「そこには『葉隠露雨』のレポートが残っているとの事だ。意地でも探し出せ。破壊は邪魔者をあぶり出すための釣り針に過ぎん」
「へえ、あの天才パイロットの?それじゃ、手始めに……」
機体は、その銃口を鉄塔に向け……
「こっからだ」
撃ち放った。鉄塔は崩れ、街に炎が巻き上がる。
「さあ来な、雑魚ども。追加報酬ごとさらってやる」
「急げ葉隠!石波の破壊活動が始まった!!」
聖坂から切羽詰まった連絡が入った。
「ちっ、もうかよ!?」
「安心しろ。俺たちが住民の避難を促しといた。街の人の被害は最小限以下で済むはずだ」
部長から心強い通信が入る。だが、俺は1つ見逃していた。確かに、その時街にいた人たちには避難勧告が通ってる。
なら、その時街にいない人たちには?
「ハッ、避難勧告が甘いな……そこんところは所詮民間ってとこか」
エスカの傭兵は、この5分間で124人を殺害した。通達が届かず家内に残っていた者、外から帰ってきた者、交戦した者。それらを無慈悲に、機械的に排除した。
「葉隠露雨の家はこの街にあったんだな?」
「ああ、今もあるはずだ」
「なら、そこを漁るのが手っ取り早いな」
黒い機体は、一軒の家に向かって行った。
「ねえ、幹人……大丈夫かしら」
幹人の母、葉隠穂薇は避難の中、息子の身を案じている。
「きっと無事さ。また会える」
そして幹人の父、根元は家族の再会を信じていた……彼らが中継のディスプレイを見るまでは。
「あれは……何だ?」
「零……何でここに?まさか!」
「……零か。こりゃデカい獲物が釣れたな」
「その機体は危険だ。最優先で排除しろ」
「おいおい、中身はガキだろ?そこまで警戒しなくてもいいだろ」
「俺が言っているのはあの機体そのものだ。アレだけは残すべきではない」
「それはお前の意見か?それとも上からか?」
「……それに何の意味がある」
「自身の意思のない言葉に興味はねえ。俺は俺でやらせてもらう」
傭兵が機体から降りようとしたその瞬間、白い機体がその前に降り立った。
「おい」
俺は目の前にいる黒い機体に問いかける。
「ここに何の用だ、答えろ」
「……答えると思うか?」
「なら質問を変える。何が目的だ?」
「馬鹿にしてるのか?それもノーコメントだ」
「ならここを通すわけにはいかねえな」
俺はDCSに接続する。
「はっ、結局やんのか」
2機は互いに構え、衝突する。
「零が標的と接触!メンテナンスはまだか!?」
聖坂が技術部に進捗を確認する。
「70%です!排熱機関と動力の復元が済んでいません!」
「急げ!……くそっ、時間を削るために4機同時に試験をしたのが裏目に出たか。霧島部長、スカーレットの用意は?」
「ああ」
霧島が窓の外にヘリコプターを確認した。
「たった今できたところだ」
「葉隠くん聞こえる?」
「黄泉原さん!そっちの仕事は済んだんですか!?」
「だいたい片付けたから、あとは多摩と王並に任せてサポートに回る事にした」
「へへっ、これほど頼もしい援軍も無いっすよ」
「褒めてもなんも出ないぞ?……さて、作戦を練ろうか」
「最優先はここから離す事ですかね……あいつの目的は俺ん家にあるみたいですし」
「なら、十中八九露雨さん絡みだろうね。家に保管というと、なんかしらのデータを奪いにきたとかかな」
「まずは様子見だ」
零は傭兵にマシンガンを撃ち放った。当然避けられるが想定内。退路を一本に絞るように誘導する。
「ガキの分際で姑息な……」
「青い発光……零はDCSを起動している。このままでは目標との距離が離れる。多少強引に攻めろ」
「おたく、人使い荒いねえ。恨み買っても知らねえぞ」
「子供相手に尻込みするのか?」
「ハッ、冗談!」
「こっちに来た、もう読まれたのか!?」
「曲がりなりにもプロってやつだ。予定より離せなかったけど、葉隠くんなら十分な距離だ」
実際俺の家から3kmは離した。ここで留めれば被害は少なくなるはずだ。
「目標変更。目の前の零を排除する」
「了解。……あー、あー、聞こえるか?」
「何の用だ」
「なぁに、これから殺す相手でも挨拶くらいはしとかないとな?」
「もう十分だ」
零は右腕のブレードを振りかざす。
「隙だらけだ」
傭兵は散弾をブレードの持ち手に放つが、その前には既にブレードは無かった。
「NW.0-アカシック!」
散弾が通り過ぎた後に、零の手には巨大なレーザーブレードが握られた。そして、その一太刀を構える。
「……まずいな」
そう言い、傭兵はすべての装備を外した。
「?……何のつもりだ」
「装備を外したならそのまま斬っちゃいなよ」
「いや、不用意に手を出すのは……」
「余計な警戒ありがとうよ」
傭兵の機体から唐突に音声が届いた。
「こうすると大体警戒して手を出さねえんだ。そのおかげでこいつの起動時間が稼げる」
そう言い、傭兵は巨大な鉄塊を肩部より現出させた。
「何を……」
「ッ…距離を取れ葉隠!そのNWは……!」
「じゃあな小僧……NW.14-パンドラ」
鉄塊から大量のミサイルが飛び交った。そして、その全てが俺を追跡しようとしている。
「クソッ……まだだ!」
俺は部長から借りたレーダーを活用してミサイルの位置を確認した。俺を誘導してるなら話は早い。
「……なーんか、また無茶な作戦立ててる?」
「まあそんなところですね」
俺はこれからやる事を黄泉原先輩に伝える。先輩は呆れたようなため息をあげたが、
「良いね、敵の意表を突けるし……何よりそういう作戦は大好物さ」
そうして俺は、ブーストの準備をした。
「追っかけてやるよ、地の果てまで」
「あのガキ、こっちを追って来やがる!まさか俺を巻き込むつもりか!?」
「セミリヴァイアサンを起動しろ。装備を立て直せ」
「……やり辛ぇ相手だ」
黒い機体が磁力を纏い、周囲の金属が震えだした。
「N.Wの併用だって!?お相手さん無茶しすぎじゃないか?」
「そうでもないさ」
磁力を纏いながら、悠然と黒い機体は直立している。
「この機体はリヴァイアサンをベースに作られてる。オンオフ変えられる便利仕様だ。その代わり磁力は弱いがな」
「得意げにしてるとこ悪いが、アンタ……俺の作戦を履き違えてないか?」
「何の話だ?」
「こんなミサイル程度……」
そう言って俺は後ろを振り向き、アカシックを一文字に振った。
「こいつで全部処理できる」
「馬鹿な、てめえ諸共爆発するんじゃねえのかよ」
「そうするように見せたからな。確かに戦術や基本的な地力じゃ俺はアンタに負ける。だから俺は、賭けに出た」
俺が一歩ずつ近づくたびに、傭兵は警戒するように少しずつ後退する。
「一つ質問したい。俺はこいつを装備するために右腕のブレードを解いた」
「……それが何だ」
「じゃあ、そのブレードは今どこだ?」
「!!」
傭兵はやっと地上に零が捨てたブレードが見当たらない事に気づく。そして。
「こんな事、計算してできるもんじゃねえぞ」
傭兵が場所を悟った瞬間、「上空から落ちてきた」ブレードが機体を裂く。
「やったな、葉隠」
「よくこんな作戦了承しましたね。この大事な局面だというのに」
「だからこそだよ。盤石な攻めじゃ、プロで殺しをやってる連中には敵わない。実力が追いついてない時は想定外を狙ってかなきゃ」
「取り敢えず、確保しましょう」
と、俺が倒れた機体に近づいた時だった。
零の右肩が撃ち抜かれた。
「……え?」
「レーダー反応……無し?どっからだ!?」
まさに『想定外』の一撃だった。俺は弾道を辿り、振り向いた。
「なるほど、確かに『想定外』ってのはよく効くらしい」
そこには「緑色」の機体が銃を構えていた。
「お前は……何者だ?」
「俺はエスカから雇われた、ただの傭兵さ。そんでもって」
そこまで言って、倒れている黒い機体を指した。
「そこのはエスカの『無人機』だ」
第11話 了




