第10話 希望
「他愛もないな。では、そろそろ……始めようか」
柊女学園の華間はここまで無傷で黒の機体と渡って来た。彼女は敵機のすべての攻撃を回避している、まるで見えているかのように。
「これが彼女の能力。彼女は「予知」と呼んでる」
「予知……」
「NOAAが彼女の視神経を通して、「一度見た攻撃」の予備動作を察知し、確実に回避できる能力だね。もっともDCSの副作用は関係者以外には知られてないから、試合だと彼女の操縦性能が恐ろしく高く見えるだろうね」
実際操縦性能は高いんだけれども、と天堂は付け足した。
「じゃあもう片方は……」
「士南くんか。彼の能力は硬化だね。NOAAを機体の表面に張り巡らせて物理ダメージを軽減する、シンプルで且つ強力な能力だ。デメリットとしては表面に張り巡らせるから自分から攻撃する時には解除しなくてはいけないところかな」
と、すらすら言ってのけた。なんでこの人はここまで知って……
「って顔してるね。簡単さ。どちらとも一回戦ったことあるし、それで知っただけだよ」
なおも飄々とした様子で話を続けていく。どうにも掴めない人だ。
「ふん、この程度か……」
黒き機体の猛攻の跡に、悠然と立つ一機の二脚機。士南堅は消耗しきった敵機を見据え、右腕の槍を構える。
「はぁああっ!!」
その槍が敵を貫き、戦い……いや、最早一方的とも言える暴力の終結には槍を持った戦士と黒き鉄屑だけが残っていた。
白と赤を基調とした機体が、敵機の凶弾の嵐を掻い潜る。まるで、相手の攻撃が筒抜けであるかのように。
「遅い!!」
白と赤の機体に乗る華間は、自らの能力を駆使して敵を翻弄する。
(使用武器はレーザーブレード08nG型とライフルdO42型。その武器の特徴は飽きるほど演習で「見て」来た……私の視界に入らない限り、)
「当たることなどない!散るがいい!!」
その手に握る一振りの太刀が黒き鉄塊を2つに切り裂く。結局、黒い機体は傷1つ与えることができずに終わった。
……かに思えた。
黒い機体が自らの構造を崩し、再構築していく様を俺たちはモニターで確認した。
「再起動、だと?」
「へえ、面白い事になってるじゃん」
「……その口ぶりだと、俺たちは再起動なんてしなかったわけか」
「そうなるね……もしかすると、城鐘の部長もこれにやられたかもしれない」
再起動。そんな事予想もしなかった。今までの常識をぶち破る敵……俺は改めてこれから始まる戦いの過酷さに気づかされた。
「ちっ、完全に貫いたハズだ!聖坂、これはどうなってるんだ!」
「俺たちが戦った状況をそのまま再現しただけだ。なぜか天堂と葉隠の機体は再起動しなかったがな……」
士南の問いに聖坂が冷静に答える。
「取り敢えず私たちがする事はもう一回叩き潰す、そうでしょ?」
華間はそう言って再び敵機に突っ込む。二機とも敵機の不意打ちで大幅に損傷している。が、それは向こうも同じ。再構築といっても不恰好な不完全体だ。
「再び跪け!!」
「やぁああっ!!」
2人の咆哮と共に放たれた強大な一撃の前に、2体のくず鉄は為すすべもなかった。
「ご苦労だった。これから機体の整備を始めるから待機室に戻ってくれ」
聖坂の戦闘終了のアナウンスで緊張の糸が解ける。
「全く、不意打ちとはデリカシーの無いやつだ。だが……」
「あの再起動でも無い限り、あの男が死ぬとは思えないな」
「やあ2人とも、お疲れさん」
戦闘を行なった4人がこれで揃った。これから聖坂が戻ってくるまで各自待機となる。
「葉隠、と言ったか。君は"コイツ"を発現してどれぐらい経つ?」
華間が沈黙を最初に破り、言葉の先は俺に向かっていた。
「"副産物"の話なら、俺はまだ発現していないみたいです」
「ふむ……成る程。何でもない、気にするな」
「はあ……」
なんか釈然としないが、変に気まずくするよりマシだと思い、追求するのはやめておこうとした……が、
「となると、奇妙だな。君のところの機体は再起動しなかったんだろう?」
「確かにね。僕も気になってたんだ」
天堂もこの話に便乗してくる。だが、俺にも原因がよく分からないと伝えたところで聖坂が入ってきた。
「待たせたな。改めて、今日はご苦労だった」
「おう、葉隠。また派手にやったな」
と、共に部長も入ってきた。
「あんな戦略もクソも無い戦い方じゃ、零のパイロットとしてはまだまだっす」
「ハッ、一端の口きくようになったじゃねえか」
そこまで言って部長が俺の隣まで来る。どうやら面識があるようで、他の面子に軽い挨拶を交わしていた。
「まだ乗り始めて1ヶ月だ。倒せただけ良しとしようぜ」
と、部長と聖坂が席についた時だった。
「そういやさ、葉隠って名字……もしかして、あの『葉隠露雨』と関係あったりするのか?」
天堂が唐突に話題を切り出した。その名を聞いた華間と士南は驚いたように目を見開いた。
「……知ってんだな、姉さんのこと」
そう、葉隠露雨は俺の実の姉「だった」人だ。
「知ってるも何も、俺らの世代にとってあの人はスター同然!」
「女性にして優秀なパイロット。プロの中でもトップクラスの腕だったと聞いている。私の憧れだ」
「右に同じく。彼女の戦いは見る者の目を引く圧倒的な、いわば舞だ」
「ははっ、そこまで褒められると俺まで照れちまうな。姉さんも喜ぶよ」
俺の姉さんは、数年前に機兵器のマシントラブルに巻き込まれ死亡した。俺たちの世代じゃ知らない人はいない名パイロットとして有名だった。俺にとっても一番の憧れで、誇りでもあった。
「だから俺は戦うんです。機兵器は姉さんが俺に遺してくれた、希望だから」
俺の言葉を、みんなが静かに聞いてくれた。
「ったく、そういう事はもっと早く言ってくれねえか」
「いやいや、部長俺がモールで乗ってた事知ってたじゃないですか!」
「あの後留学したからよく分かんなかったんだよ。それに苗字が同じだからって姉弟とは限らねえだろ」
確かに、と納得したところで黄泉原先輩と多摩先輩、そして王並が戻ってきた。
「いっやー、満足満足!良いデータ取らせて貰ったよ」
「お疲れ様でした。NWをうまく使いこなし始めてますね」
「そのために機体ボロボロにしてちゃ世話ないっすよ、へへっ」
いつものメンバーが揃ったところで、ここからの作戦のブリーフィングが始まる___はずだった。
≪Emargency. Unknown object has striked. Emargency…≫
突然の警報が鳴り響いた。日本語じゃないって事は……
「世界政府公式の警報だ。お偉いさん方が機兵器を所持する機関に『エスカ』や、それに相当する機体が襲来した時にこれが鳴るようになる……だが、こんな早く聞くことになるとはな」
「聖坂、今動ける機体は!?」
「俺の機体は修理機関に預けてる。ここの機体はさっきの演習で……ん?」
ガレージを映すディスプレイにはほぼ修復が完了している零の姿があった。
「どういう……ことだ」
「機体がこんなに早く修復するなんて……」
士南と華間は唖然としている。対して石波の面々は零の超速回復に見慣れている為、あまり驚いていなかった。
「俺が行きます。修復済んでから援護お願いします」
「ま、待て!死にに行くつもりか!?」
俺が立ち上がると同時に、士南が俺を呼び止めた。
「さっきの演習で、お前は殆ど相討ちに近い形で終わったじゃないか……それにあれはたかが『演習』でしかない!これは本番だぞ!!」
「……だとしても、今誰が動けるんですか」
そう言って、俺は部屋を駆け出した。警報と共にディスプレイに表示された襲撃予測地点、そこは__俺たちが住む、石波町だった。
「させねえ、もう2度と、俺の目の前で誰か殺させるかよ…!」
「部長、どうするよあの阿呆」
「俺が後についていく。スカーレットなら援護にぴったしだ。黄泉原、多摩、王並は石波に避難するよう報告しとけ」
「「「了解!!」」」
石波組がそれぞれ動き出す中、聖坂も動き出した。
「俺は3機のメンテを進める。終わり次第出撃の準備を済ませておけ」
「分かった」
「了解した」
「はいよっと」
こうして、俺たちにとっての最初の戦争が始まろうとしていた。
第10話 了




