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硝煙のノア  作者: 真白シグマ
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第9話 セカンドギフト

5月14日。

俺はDCSを扱える者の1人として城鐘高校に向かっている。同じチームの面々には知っておいた方が良いという判断で、霧島(きりしま)先輩を始めとする部員全員を連れてきた。

あの事件から例の組織……"エスカ"は動きを見せていない。しかし、強豪校のパイロットの死は世間を警戒と恐怖に陥れるには十分すぎた。世間での機兵器(ノア)へのイメージは、華やかなものから一気に殺伐とした兵器というものに様変わりした。

俺の親もそうだった。俺はエスカと闘う決意を親に伝えた。全面的に否定された。親なら子を死地に送るなど馬鹿げた話で、当然の話のはずだ。でも俺はエスカを許すことができない、機兵器を戦争の道具にする事を許さないといった事を伝えて、結局同意を得ずにここまで来た。


城鐘(しろがね)高校、機兵器部・部室

「今日はよく集まってくれた。来てくれたのは……石波、橋鷺(はしざき)嶺上(れいかみ)(ひいらぎ)か。今年はDCS適正者がなぜか多いと聞いたが、ここまでとはな」

先日の事件でエスカの機体と交戦した聖坂(ひじりさか)が会合の指揮を執った。彼自身もDCSを起動できる1人だ。

「御託は良い、とっとと始めろ。なぜわざわざこんな夜分に呼び出した。昼間からやれば焦らずに済んだものを」

開口一番催促をしたのは柊女学院1年の華間哀架(はなま あいか)だ。柊女学院からは彼女1人のみが来ており、恐らくは彼女がDCS適正者なのだろう。

「ごもっともだ。せっかく時間を割いてここまで来たんだ、無駄にはしたくない」

次に口を開いたのは橋鷺高校部長の士南堅(しなん けん)だ。他にも3人ほど後ろについているので、俺と同じく部員には情報を伝えておこうと思ったのだろう。

「まあ、そう焦るな。肩の力抜いてこうぜ、互いにな」

この場において最も緊張感からかけ離れた発言をしたのは嶺上高校2年の天堂紫(てんどうむらさき)だ。

「今回わざわざDCS持ちを集めたのにはなんか理由あんだろ?例えば」

__力試しとかさ。

天堂の発言に場の雰囲気が強張る。しかし、皆大体の察しはついていたようだ。

「ご名答だな。これから君たちには、僕と部長の機体に保存された映像と実際に戦った僕の測量を元に製作した、《仮想機》と戦ってもらう。機兵器を持ってきてもらったのはそのためだ」

城鐘との合同演習という名目の下、機兵器をここまで持ち込んだ。まさか相手が再現機とは思っていなかったが……。

「あなた、舐めてるの?私たちの実力なんて分かりきっているでしょ?」

「待て。……お前程の者が言うんだ、相当厄介な相手だったと思う。何せあの男を殺した。かなりの手練と見る」

華間の発言を士南が止め、大柄な体躯に寄らぬ冷静な分析をした。

「つまり、敵の動きに慣れておけ……って事ですよね」

俺は聖坂に目線を移す。彼は静かに頷いた。

「異論は無いな?なら、これより模擬戦を開始する。各自準備を済ませるように」


「葉隠、少しいいか?」

機体の準備をしていると、突然部長が話しかけてきた。

「これは推測だが……恐らくお前はあの機体には勝てない」

「……確かに、俺はまだ実戦慣れしてないですし」

「まあ、かと言って無様に負けたくはねえし、負けられねえよな?……これ持っていけ」

部長から1枚のメモリーカードのような物を渡された。

「そいつは俺がスカーレットに乗る時に使ってる補助コンピュータだ。さすがに1人じゃあの機体を処理しきれないからな」

「これで少しでも操縦の負担を減らせって事ですか?」

「それもあるし、お前の弱点のカバーも含めてだ。お前は基本レーダーあんま見てないだろ」

部長に言われて初めて気づく。そういえば今までDCSに頼って反射に近い戦いをしていた。

「これからの戦いだとそう上手くいかねえ。レーダー範囲を広げて、尚且つコンピュータがお前に知らせてくれるはずだ」

「……ありがとうございます、部長」

「後で同じやつ複製しとく。次からはそっちのを使ってくれ。テメエの力、周りの奴らに見せてやれや」

(ホロウ)の元に歩いていると、王並(きみなみ)が立っていた。何をしているのか聞くと機体の整備をしていたとの事だ。

「これで万全ですね。零は石波の誇り……無様な姿見せないでくださいよ?」

「任せとけ」

そうして、仮想の敵との戦いが始まろうとしていた。


某所

「本部長、出撃要請です。機体はC-570を所望の様です」

「……随分と大物だな。どこの地区だ」

「東南戦争のあたりです。未だに続いているみたいですね、この戦争は」

「まあ戦いは多ければ多いほど、我々の目標に近づける。さあ、無駄話はこれまでだ。傭兵を派遣しろ」

本部長と呼ばれた人間の命を受け、職員と見られる者達は動き出した。

「……審判か。神にでもなったつもりか?『エスカ』どもめ」

彼は、今そこにいない「敵」に、鋭く言い放った。

「いや、神を(かた)るのは『もう片方』か」

そう言って、彼は煙草に火を付けた。


城鐘高校 模擬訓練場

俺と他の3人を聖坂がそれぞれ訓練場に案内した。そしてその中に、黒く染まった禍々しい雰囲気を放つ機体が鎮座していた。

「……ッ!」

見た瞬間、全身から嫌な汗が出てくる。今まで何回か戦ってきたが、これ程の「圧」を感じた事は無かった。

「やっぱり、お前らもわかるんだな」

聖坂が唐突に口を開いた。

「お前以外の3人も『何か』を察知してた。あの夜にアレのオリジナルと戦った俺もな」

「……そうか」

そこで一旦会話が終わり、俺が零に乗り終えた時に聖坂から通信が入ってきた。

「いいか、この戦闘はあくまで参考にしてくれ……こいつは所詮コピーに過ぎない」

「ああ」

そうして、聖坂から戦闘開始の合図が放たれる。


「さて、石波の部長は……」

「俺だ」

霧島が聖坂の呼びかけに応えた。

「アンタ、この戦いどう見る?」

「どう見るもクソもねえよ。DCSを使って長い3人ならまだしもヒヨッコの葉隠には《副産物》すら作動しねえ中、結果は火を見るよりも明らかだ。捨て身以外に勝ち筋はねえだろうな」

「……待て、今なんつった?」

聖坂が霧島を訝しむような目で見る。

「なんでアンタが《それ》を知ってるんだ?って顔だな。……今話す事でもないが、まあいいか」

霧島の口から出てきた言葉は聖坂の、いや、DCSに関わる全ての者の常識を大きく覆すものであった。一方の黄泉原は敵機データの収集に取り組んでいて、そんな話など耳にも入っていなかった。


(ちっ……速すぎんだろコイツ!)

戦闘開始から3分足らずで、零の左腕と脚部は破損していた。左腕は自らの射撃反動にあと3回耐えられるかどうかという具合である。対して敵機は胸部が軽く傷ついているだけであった。一か八かの勝負に出るしかない。

「NW:アカシックツヴァイ!!」

零の両手に一対の双剣が降り立つ。そして零のブースターを最大出力にし、超高速で敵機に突っ込んだ。

「おおおぉおあああああ!!」

向こうのブレードが零を貫く。が、しかし。

「捉えたぜクソ野郎」

零の双剣が敵機の両腕を叩き斬り、さらに中心を真っ二つにした。撃破反応は出たものの、こちらも到底動ける状態ではない。

(このままじゃダメだな……いくら倒したとはいえ、このザマじゃこの隙に他のヤツにやられちまう)

冷静に自分の戦いを振り返っていると、聖坂から連絡が入った。機体の修理をしておくから戻って来るようにとの事だ。


別室のモニターにはまだ交戦中の2校の機体が映っていた。そして、驚くべき事態が発生していた。

「……無傷、だと?」

「ああ、君は確かDCSを使い始めて日が浅いんだったね。知らなくても仕方ないさ」

どうやら俺より早く決着をつけた嶺上の天堂が席についていた。

「まあ、座りなよ。あの2人ならあと5分もすれば帰って来るだろ」

俺は言われるままに着席する。

「で、なんすか?俺の知らない事って」

俺はさっきの話の続きを聞こうとした。

「うん。単刀直入に聞こうか……《DCSの副産物》って知ってるかい?」

「《副産物》……?」

初めて聞く単語に戸惑う俺の様子を見て、やっぱりね、と天堂は納得したようだ。

「理由はよくわかってないみたいだけどね、DCSを使用し続けていると使用者にある影響が出始めるんだ」

「それは……NOAAの影響で?」

「察しがいいね。NOAAが機体と身体とのリンクを更に強める。そのことによって……この言い方は安っぽいけど」

と天堂は少し間を置いてこう言った。

「能力ってやつが現出する」

「能……力……?」

あまりにも突拍子もない発言に一瞬脳が付いて行かなかった。

「まあ気持ちはわかるよ。能力なんて14で卒業しとけって話だもんな。……ただ、モニターを見てみなよ」

紫志天宮に促されるままにモニターの中の2機を見た。

「これがDCSの一歩先の使い方、そして戦い方だ」


第9話 了

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