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第1話

始まります

 俺、神崎光一は考える。


「人を羨むな、自分の価値を見出せ」

 別にどこかの偉人の残した言葉とかそんな大したものじゃない、俺の親父の言葉だ。

 だがそんな大したことのない言葉の持つ意味さえ成し遂げられない俺に、今価値など残っているのだろうか?

 しかし俺自身が俺という存在を否定してしまえば、それは本当に存在意義を無くしてしまう。

 諦めない。価値を見つけるために生きる、俺はそう決めたのだから。


 2021年、日本人の館山宗一教授により発見されたUE(Uncharted Elements)別名、奇跡の欠片を元に人類の文明を新しいステージに進化させた。UEは大気中に存在し、人間の周りに集まり体内に浸透するという不思議な性質を持っていた。また変換性質をもっており、特殊な構造体を触媒として自身の状態を変化させる。UEの国際協同研究チームは世界に存在する様々な物質、エネルギーの持つ構造体にUEを組み込む試みを行った。そして10年に渡る研究の結果、UEは世界的に有名な考古学者アルフレッド・コール氏が発見したメキシコの古代遺跡の壁面に記されていた七大元素に由来している可能性があると発表したのである。七大元素とは水、土、風、雷、時、火その頂点を光とする元素理論だ。この誰にも予想されなかった繋がりの発見は世界に話題を巻き起こすかと思われたが、火の構造的実現不可と光が発見できないこと、そして世界の関心は研究により可能となったUEの実用化へと向かい、半世紀という月日はその繋がりは一部の学者たちのみ知る“仮説”となってしまった。研究チームはUEの構造体の情報が組み込まれた触媒となる機械により浸透した体内から“現象”変質して放出するという方法による実用化の方法を提案し開発の末成功を成し遂げた。しかしその過程で人それぞれで変換できる種類は1つのみでUEを複数種の“現象”として放出するすることは不可能なことが発見されたため、それぞれ1つの構造体を内蔵した触媒を開発されることとなったのだ。そして完成した機械が携帯型物質変換装置、通称「パンドラ」である。


 夏の日差しが窓から差し込む残暑の季節、パンドラ開発から150年が経った年の夏も終盤を迎えていた。


「兄様、起きていますか?」


 不意にドアのノックと廊下からかかった声で俺の意識は現実に引き戻される。

 辺りを見回すと見慣れた8畳半の俺の部屋、どうやらベットから起きた後そのままずっと考えに更けていたみたいだ。

 まったく、朝から何をやっているんだろうか俺は。


「兄様?まだ起きていないのですか?」


「起きてるよ!ごめん、すぐ部屋を出るね」


 声の主の存在を思い出し、慌てて返事を返す。もちろんその声の主が誰なのかはわかっている。

 俺の妹、神崎花凛だ。


「わかりました、私は先に家を出ますね。それでは行ってきます」


「あれ、もう家を出るのか?」


 花凛は俺より家を出るのが早い。俺が普段朝ごはんを食べている時には家を出て行ってしまう。

 見ての通りベッドの上で1日のスタートラインをやっと踏んだような状態で普段花凛が家を出る時間を迎えていたら…遅刻ギリギリになってしまう!


「えっと今の時間はっ!…朝の7時半?ちょっと早すぎない?」


 急いで目覚まし時計(目覚ましの役割を果たしているかは不明)を見た俺は普段の起床時刻と変わらないことに気付く。


「もう…今日は2学期最初の実技考査の日ですよ?生徒会は準備があるから8時集合です」

「あっ…」


 いや、覚えてたよ?

 今さっきまで考え込んでいたせいでど忘れしただけだから!という弁解をしたいけどそんな説明しているほど花凛は時間はなさそうだな…


「なるほどね。了解、いってらっしゃい!」


「いってきます、兄様も遅刻しないようにして下さいね」


 そう返事を返すと花凛の足音は玄関へとむかっていった。

 そういえば会話はしたものの、顔は一回も見なかったな。

 まあそういう日もあるか。よし、起きなきゃな!



 あの後リビングで母さんの焼いたトーストを食べ支度をして家を出た俺は、1人通学路を歩いていた。

 そういえば花凛って母さんのことお母様って呼ぶけどあれって昔から変わらないよな…。

 母さんはいまだに恥ずかしいのかお母さんにしてくれと言っているが、花凛が変える気配は一切ない。

 それはそうと、


「あー、とうとうきてしまったか実技考査の日が…」


 思えば今朝起きてから考え込んでしまった理由も元は実技考査が原因だ。

 実技考査とは俺の通う国立装科大学付属第4高校の普通科には1学期に2回つまり年に6回EUによる戦闘技能を測る実技試験がある。

 苦しくも、その6回の内の1回が本日行われるのだ。

 まあ、とりあえず今日1日をどう乗り切るかだな。

 今日の模擬戦のイメージを頭の中に描きいろいろなパターン考え始める。


「ダメだ…頭の中でさえ全く勝てる展開が想像できない…」


 諦めてあたりを見渡すと視界にポツポツと4校の生徒が入るようになっていた。

4校の生徒は2割が徒歩や自転車圏内、それ以外の8割は電車やバス、送迎などでこの阿多梨町の外から通ってくる。

 つまり、通学路の途中にある阿多梨東駅を通り過ぎる前に視界に入るのはその少ない徒歩通学の生徒なのである。

 阿多梨東駅からくる生徒の通学路とぶつかる交差点に到着すると生徒の数はドッと増える。

 この時間はまだ大丈夫だが、もう少し遅い時間になるとここの歩道は四校の生徒でちょっとした人混みになる。

 何度かその人混みは経験したが、朝から気分が悪くなるから極力避けた方がいいという結論に至りこうして少しばかり早い時間に登校している次第だ。


「おっ、あれは」


 信号待ちをしている生徒たちの中によく見知ったいかにも真面目…じゃなさそうなジェルタイプのワックスでカチカチに前髪を上げた生徒を見つける。

 間違いなく親友と呼べるその生徒の名前は芦田翔。やっぱり見た目は大分いかついなあいつ。

 信号が変わって歩いてきたら声をかけようと思ったが、その前に翔が俺に気付きこちらに小走りで向かってきた。


「よう、光一!教室に入るより前に会うなんて珍しいな」

「それはお前がいつも遅刻ギリギリに、っていうかほぼ遅刻して教室に入ってくるからだ!てか、なんで今日はこんな早いんだ?」


 別にこの時間は登校する生徒の中で早い登校時間というわけじゃない。

 ただ“こいつにとっては”早い登校なだけだ。


「そりゃお前もちろん実技考査だからに決まってんだろ!実技考査の日は運動着に着替えてから朝のホームルーム出席しなきゃいけないからな。流石にあの時間にはこられないぜ」

「お前が実技考査の日だけ早いのはそんな真面目な理由じゃないだろ?」


 そう、恐らく翔がこの日だけ登校時間が普段より早い理由は先ほどこいつが言ったことじゃない。翔が早くくる理由はホームルームを行う教師が原因だ。

 俺と翔が所属する2年5組の担任である相坂愛(めぐみ)先生は実技考査のタイムテーブルを管理する運営を任されている。若いながらそのような仕事を回されるのは優秀故なのか若者故なのかはわからないが。そのため当日の朝も忙しいから代わりに副担任である真鍋恵里先生がホームルームを行う。

 そう、この真鍋先生が問題なんだ。

 俺はよくその理由を知らないが何故か翔は真鍋先生に異常に目をつけられている。教室で翔が少しでも変な動きをするとその瞬間、というかもはや同時と言ってもいいんじゃないかというくらいの速さでチョークが飛んでくる。

 翔はこの前顔面に弾丸チョークを受けた後「次は必ず避けてやる」と言っていたがあれは人間の認識速度で対応できるものなのだろうか。

 俺的には担任も副担任も女性の先生っていうのはあまり聞いたことがないから嬉しいのだが。

「うるせぇな、もう実技考査の日の朝は目覚ましかけなくてもこの時間に登校できるようになっちまったんだよ。多分あれだ、生物の本能ってやつだ」

「余程お前の本能は真鍋先生を怖がってるんだな」

「バカにしやがって…お前もあの鉄槌を受ければすぐわかるっての。あーっ、次はぜってぇ避けてやる!」

「避けることに意気込む前に飛んでこないようにする方が先だろ」


 全くこいつは、頭がキレるのかバカなのかわからん。

 翔は筆記の成績はあまり良くはなく全体的な順位で言えば下から数えた方が早いほどだ。しかしノリが良く気が利き優しさがあるため人に憎まれにくく好かれやすい人間といえるだろう、。


「ほら早く行こうぜ、これじゃ早く家を出た意味がなくなっちまう」


翔は今思い付いたような感じで話を自己完結をすると俺に手招きをして歩き出した。

もう四校はすぐそこ、俺の苦痛の1日が本格的に始まろうとしていた。


書き溜めたのを消化したらその後はゆっくりいきます

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