後日談
自殺、精神崩壊描写有り。
影響を受けやすい方や、そのような描写が苦手な方にはオススメしません。
1ページ目までなら大丈夫だと思います。
こんなにも夜が更けていると言うのに、人々の声が聞こえている。
声は悲鳴のようであり、歓声のようでもあり、怒号のようでもあった。
空は真っ黒に晴れ渡っている。
星は見えない。ただ三日月だけが煌々と浮かんでいる。
星が見えなくなったのも随分前からだと思う。
居酒屋の看板を照らす、目障りな程に明るい照明。パチンコ屋の名前を表し示す赤とオレンジのLEDライト。
マンションの天井灯、街灯、看板灯、信号機の明かり、室内灯、車のヘッドライト。
ああ、何処もかしこも明かりばかりだ。
この汚い、現代の、便利さに特化した美しくもない明かりは、星の役目を奪い去ってしまったのだ。
ああ、そんなことよりも。
今日はやけに騒がしい。
いや、騒がしいからこそ俺はここにいるんだが。
青年はビルの真上に佇んでいた。
ガラガラと店の閉まる音や、次々と落ちていく明かりを見下しては、真下では無く、向こうの方をじぃと眺めていた。
フェンスに寄っかかった彼の下では、幾つもの星がキラキラと光っていた。
あーいや、残念ながらあの汚いヘッドライトでは無い。車のエンジンの音はビルの下まで近付くも、それはまた踵を返して遠ざかっていくのだ。
だから違う。
汚い光だ、と青年は向こうの方を見てはーーーーいや、見てなんかいない、ただ下界から目を逸らしていただけだーーーー空に向かって唾を吐きつけた。
クソほど胸が焼け付くのだ。
真夏の日差しの下で、来るはずもない人を待ち続けてるような。怒りや悲しみやどうしようもなさをごちゃ混ぜにしては、そいつを胸の奥でドロドロと焼け爛れさせるような気分だった。
汚い、汚い光。それは携帯のフラッシュだ。
そう、ビルの下。
ビルの下だ。ビルの下でその汚い光は瞬いている。
人々の声が聞こえている。
声は悲鳴のようであり、歓声のようでもあり、怒号のようでもあった。
星座鑑賞でも無いのに。
いや、鑑賞だ。見物だ。見世物なのだ。この景色は。
青年の足元には靴が揃えて置いてあった。勿論それは青年の物ではない。
青年はとうの昔に学校というものを卒業しているから、こんなローファーなんて履かない。
そしてその上には一冊のノートが遺されてある。
このノートの内容は後で記述したいと思う。
一つ言うならば、特徴のないそのノートの表には、書きなぐった字で「ポジティブノート」と題名付けられていた。
青年の立場上、勝手にこのノートを読んでしまっては首が跳ねかねない。
そうそう。ーーーーーーー…丁度、下で弾けている少女?の様に。
検察に持って行かせなければ。ああ、あと現場検証も一応。
この世界は便利でくだらなくなってしまった。
今頃、SNSには少女の写真が何枚も上げられている。
「ヤバイ!超ヤバイ!人死んでる!!汗」(写真アリ)
「【閲覧注意】女子高生の死体画像!」(写真アリ)
「マジ笑えるwwww本当に服って弾け飛ぶんだなwwww身体も散ってるけどwwwwww見たいやついるの?写メあげるわwwww」(写真アリ)
そんな風に。
冷たいコンクリートの上で、華々しくひっそりと最期を迎えたというのに、まあなんとも可哀想な後日談だ。
死してなお馬鹿にされるなんて可哀想な人生だ。書いているだけでもみっともなさすぎて吐き気が込み上げる。
死について述べていきたいとこだが、まあここはいいだろう。
さっき話したノートについて、丸々一冊分を書き写して見せましょう。