幼少期2
俺に押された判は、将来的にまったく見込みのない落ちこぼれ。
俺の生活はその日から一変した。
まず、俺付きの乳母がいなくなった。
毎食のご飯は用意されるし浴場を使っても文句を言われることはないが、屋敷中の人々は徹底して俺を無いものとして扱うようになった。
どうも、魔力適正がないからと育児放棄をすると、国から厳しくお叱りを受けるらしい。
ワイナイト家としては国に媚びを売りたいわけなので、大っぴらに虐待するわけにもいかない。
結果、俺の家出なり自殺なり、不慮の不幸が訪れるのを待ってるというわけだ。
なるほど腐ってやがる。
一度も会ったことのない実母は屋敷を追われたらしい。
どうも当代の当主は実力主義が過ぎるようで、優秀な子を産む女を囲い、不良品は即廃棄というわけだ。
なるほどなるほど。素敵に腐ってやがります。
さて、俺はといえば。
検査官に落ちこぼれと言われ、しばらく茫然自失としていた。
それも数日で持ち直したが。
だってそもそも俺、この世界の治癒魔術を知らない。
兎にも角にも、治癒魔術について知る必要がある。
父には完全に見捨てられたが、そもそも数度会ったかどうかの男だ。
前世の記憶がある俺にとって、今世の父など心を割くほどの価値はない。
視点を変えれば、この時期こそチャンスともいえる。
落ちこぼれの四男が、誰にも構ってもらえず暇を持て余し、読めない本で寂しさを紛らわせようとしている。
外面としてはこうだ。
子ども向けらしい絵本を使い、まずは文字を覚える。
話し言葉はマスターしているので、挿絵を見ながら固有名詞を覚える。
ある程度簡単な文章を見ていればなんとなく文法は見えてくる。
そして書き取り。
紙もペンもないので指先で机をなぞる。
ひたすら反復練習。
山と積んだ絵本に隠れ、少しずつ本の難易度を上げていく。
書庫には数日に一度人が来るので、その時は怯えたように机に突っ伏して人が去るのを待つ。
数週間もすれば、小心者の四男は人がいない書庫で引きこもってる、という認識が広まったと思う。
作戦通り。
幸い、時間なら腐るほどあった。
そんな生活を2年送り、俺は6歳になった。
2年間もひたすら本を読んでいれば、時間をかければ難しい専門書でも読み切れるようになる。
この国の歴史書を少しと、あとは魔術の本をひたすら読み込み、この国における治癒魔術の扱いもよくわかった。
魔術とは、人間が生産する魔力を現象に変化させるもの。
使用する魔力量を決め、効果範囲や現象の挙動などの操作を決定、呪文を唱えイメージを作り現象を発動!
なるほど単純な超常現象だ。
例えば炎の魔術なら、まずどれだけの魔力量を炎に変換するか決める。
その炎を、火球にして飛ばすとか、指定範囲を地面から燃やし尽くすとか、範囲と挙動を決定する。もちろん広範囲に大きな影響を及ぼすなら、それだけの魔力が必要となる。
そして呪文。これは魔術ごとに指定されたワードを自分が一番イメージし易い文章で組み立て声に出す。
この理論なら、確かに魔力量と属性適正が多いほど自由な戦術をとることができる。
個人で鍛錬が必要なのは、操作決定と呪文構成らしい。
そして肝心の治癒魔術であるが、これは決していらない子ではなかった。
呪文が長く必要な魔力量は多少多いが、腕が半分千切れた程度の外傷なら全快させることができるという。
毒なども死んでなければ解毒できるらしい。
ただ、当主が即見捨てるには理由がある。
ひとつ、呪文が非常に長い。
前線で腕が取れかけたり毒で死にかけてる相手に5分近い呪文の詠唱と集中が必要になる。
これが魔道具師の作る回復薬なら、5秒で服用できる。
ゆえに治癒魔術は回復薬の下位互換扱いをされている。
町の診療所で生計を立てる分には有用な属性だが、当主が求めるのは貴族の代表として聖騎士団を率いるような魔術戦士だ。
次男に適正が見られる以上、治癒魔術師など多少魔力量が多くてもいらんということだろう。
父が俺をいらんというなら、俺が俺をもらう。
俺の力が町の診療所を飛び越えると信じて。
俺は俺を自由に生かしてやりたい。
俺はオセロ・シルバー・ワイナイトである以前に、自由に憧れた夜久城オセロなので。




