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大公  作者: ヨクイ
第1章 姿なき主
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城攻め

修正第2版です。


 広がる草原を、涼やかな風が通りわたっていく。

 軍服姿の長身の男は、その景色に目を細める。

 自分のことを影で冷酷だと言う噂を耳にすることもあるが、それを意に介すことはない。

 軍隊にいて、時に非情であることは必要なことだ。

 男は長らく将軍の元で補佐官として奮闘し、共に多くの戦場をくぐりぬけてきた。

 その自分が、今回、将軍の代理としてこの軍の指揮をとることとなったのは、もちろん自然な流れではない。

 並居る幕僚たちもいたのだが、それを抑え、自分が指揮をとれるようあえて立ち回ったのだ。

 もちろんこの軍隊を乗っ取るつもりなどさらさらない。

 むしろ自分が、最も将軍閣下の意図を正確に実現しうる人間だと考え、その為に少々策を弄した。

 我が部隊の閣下に対する忠誠心は高いが、指揮官にはあくが強い人間も多い。

 それをまとめあげるのは自分しかいないと思い、閣下のお墨付きもいただいた。


 部隊は周囲の安全を確認した後、平原に天幕を張った。

 斥候に立った者たちは、現状にひどく戸惑った様子だったが、情報はきちんと持ち帰ってきた。

 その後、安全であると判断し、自分も地元の人間に見つからぬよう、数人の幕僚とともに、街が見える付近まで偵察に向う。

 遠くに見える町はそれほど大きなものではない。

 だが、町全体を石積みの城壁が囲んでおり、なかなか壮観だった。

 城壁の数か所がちょっとした砦のようになっており、斥候の話ではそこに兵士が駐留しているという。

 町というにしては、少々物々しい造り……いや、むしろ大げさすぎる造りと言っていい。

 遠目からは確認できないが、兵士たちは剣や弓を携行しており、火器の類は見当たらなかったという。

 城壁の向こうに、色鮮やかな橙色の屋根がちらほらと見える。

 白壁に橙色の屋根がよく映えている。

(きれいな街並みだ)

 素直にそう思えた。

 将軍閣下の話によれば、この地域は長らく内乱が続いているというが、周辺に国王軍といわれる軍隊の姿はなかった。

 町全体を包む、町に不釣り合いなほど立派な城壁は、この長く続く戦いから、必要性に迫られて作られたものだろう。

 砦のような個所は複数個所あるが、大きな城門は全部で四つ、町中に通じている街道も大きく分けて四か所。

 さらに、その街道から分岐する十字路が複数か所あった。

(まずは、この街道の要所を押さえておかなければならないな)

 城壁は一見威圧感があるが、所詮は石壁だ。

 弓や剣では攻略が難しいのかもしれないが、石積みでできており、我々にとってはそれほど強固なものではない。

 今は敵対している国王軍が周囲にいないせいか、斥候の報告では、目視で確認できる兵士の数も少ないという。

 この町を我々が一気に制圧し、領土として占拠する……というのが、将軍閣下の策であった。

 母国が敗戦し、捕虜としての末路……捕まるか、処刑されるかもしれないと覚悟していた我々を、閣下は新天地へと誘った。

 母国に帰りたいという者も多少いなくもなかったが、それを全てまとめあげ、運べるだけの武器を携えて、我々はこの地に乗り込んだのだった。

 戦車や装甲車、自走砲などの大物は持ってくることができなかったが、それでも持てるだけの物資はすべて持ってきた。

 これだけの物があれば、当分この世界の住人相手に、有利に戦えるだろう。

 状況を自分の目で確認し、再び天幕に戻った。

 兵たちには十分な休息をとらせた後、詳細な作戦の伝達を行う。

 混乱が生じないよう、各部隊の兵士たちに、この世界について簡単な説明をしておいた。

 援軍や補給などは一切ないから、極力損害を避け、効率重視で一気に攻め落とさなければならない。

「もし、国王軍らしき軍隊と遭遇した場合は、絶対に手出しをしないように徹底してあるな」

「はっ。各部隊に厳命しております」

 将軍閣下の情報から、国王軍の旗印は既に各部隊に伝達してあった。

 斥候からの報告でも、周囲に国王軍の姿はなかったというが、万が一手出しするようなことがあれば、全ての計画が台無しになる。


 すべての準備が整った翌日。

 ついに作戦が結構されることとなった。

 敵からなるべく見えない離れた数か所に迫撃砲を配備。

 それで砦を狙う。

 無反動砲までは隠しきれなかったが、城門手前までは無事配備することができた。

 直接状況を見るため、天幕を出て、双眼鏡で兵の動きを追う。

 各所の敵兵士たちは異変に気づき、配備を強化しているが、こちらの奇妙な様相に戸惑っているようでもあった。

 敵兵数およそ千。

「各員、配置につきました」

 部下の声に頷く。

「よし。開始の合図をだせ」

「了解」

 まずは、敵兵がいる砦を遠方から迫撃砲で攻撃する。

 合図とともに、迫撃砲が砦の上空めがけて砲弾を放った。

 それが砦の上へ間断なく降り注ぐ。

 敵兵の細かな様子までは確認することができないが、敵兵の混乱が目に浮かぶようだ。

 砦の機能が完全に停止した頃合いを見計らって、城門前の兵が、無反動砲によって城門を破壊。

 煙がもうもうと立ち上り、人の姿が入り乱れ始める。

 一方的な砲撃をあびせた後、待機していた歩兵が一斉に壊れた城門を乗り越えて、内部に突入した。

(定刻通りだな)

 町の人間には構うことなく、一気に要所だけを制圧。

 呆気ないほど簡単に、町の制圧が完了した。

 時間にして半日もかかっていない。

 広がる光景をあとにして、再び天幕に戻った。

 ほどなく、各部隊から占領と異常の有無の報告があがる。

 軽傷を負った者は数名いたが、我が軍はほぼ無傷。

 あまりに手ごたえのない……とはいえ、これはまだ始まりにすぎないのだ。

 本国敗戦の知らせから、まだわずか二日。

 もう何日もたっているような気がするが、我々は新天地に拠点を築く第一歩を踏み出したのだった。

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