征服の先
作戦上にあった全ての首都を攻略した軍団は、要所となる砦や抵抗勢力を潰しながら本国に戻った。
今回の作戦では、十二国の首都を一気に陥落させたことになる。
それより先は、列強国と呼ばれる巨大国家が控えていた。
それぞれの首都には武装文官を残したままにしてある。
本体部隊の方は、大動員令によって経済活動がほとんど停止状態になっているため、そう遅くない時期に一度解体しなければならない。
首都を掌握し、抵抗勢力は潰したが、まだそれぞれの国は安定していない。
いずれはこの国同様の近代的な制度を導入するつもりだが、ひとまずは事態の鎮静化に努めなければならないだろう。
あらかじめ想定していたこととはいえ、官僚たちはそのために苦心し、走り回っている。
「列強の動きはどうだ」
オレが尋ねると、治部卿は微笑みを称えて応えた。
「まだこれといって動きはありません。しばらくは静観するようです。今回の作戦はあまりに急でしたからね。情報省の話によると、伝聞される情報が混乱していて、それぞれの国の内部でも意見が分かれているようです」
「そうか」
情報卿はこのところ多忙で不在のことが多い。
「だが、早々に手を打たねばなるまい」
「はい」
「教皇に渡りをつけよ」
「猊下にですか」
オレは頷いた。
あまり活用はしたくないが、この際、多少金を積んででも教皇に動いてもらうしかあるまい。
「教皇には、列強の重しになってもらう。相当の金は積まねばならないだろうが、教皇庁の影響力は列強国においても大きい。我々は民衆を救うため立ち上がったことになっているはずだが」
「は、確かに」
「『国を挙げて、民衆を救いに行った枢機卿』ということにでもしておいてもらおうか」
「列強の国々はそれで納得するでしょうか」
「納得はしないだろうが、しばらくは表立って兵をあげることはできないだろう。その間になんとしてでも国を建て直す」
今度は治部卿も頷いた。
「時間稼ぎというわけですね」
「この時期だからこそだ。今列強に動かれたら、全てが無駄になる」
治部卿に必要な段取りをまかせ、オレは椅子に深く腰かけた。
列強はこの国の近代兵器にどれほどの情報を得ているだろうか。
この世界に来てから、かなりの年月が過ぎた。
隠してはいても、多くの人間が関わっている以上、兵器の技術もいずれ流出してしまうだろう。
その件についても、そろそろ次の手を打たなければならない。
このたび、周辺諸国が手中に入ったことで、官邸の地図はすべて塗り替えられてしまった。
だが、これで終わりではない。
列強国は今、我が国を虎視眈々と眺めていることだろう。
終わりのない戦いを思い、オレはそっと目を閉じた。




