表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大公  作者: ヨクイ
第4章 野望への道
57/80

蒼色の軍旗

 鉄道を走っていた蒸気機関車の全てが、「一斉点検」の名の元に国内に回収された。

 鉄道の全てをこの国が担っている強みだ。

「貴族の引き渡しの件は」

 オレは太政大臣に尋ねた。

 隣接する六カ国のうち、三カ国で民衆による内乱が起っている。

 残り三カ国には、我が国から逃亡した貴族の引き渡しを求めていた。

「南の国は、内政干渉にあたる。そのような要求には応じられないという否定的な返答です。西の二カ国からは、すぐには返答ができないから待ってくれという回答でした」

 期待通りの返答にオレは満足した。

「想定通りだな」

「はい」

 すぐに引き渡しに応じないであろうことは、最初から織り込み済みだった。

 貴族からは必ず反発の声があがる――それが、こちらの思惑だった。

 分かった上で貴族の引き渡しを求めたのは、建前上であった。むしろ拒否してくれた方がありがたい。

 引き渡しを拒否しても、保留にしても、「こちらの要求に応じなかった」ということで処理する。

 内乱のある国では、民衆を助けることを口実に。

 内乱の起こっていない国では、もともとこの国の貴族であった者たちを引き渡さなかった――我が国で処罰する者を匿ったという名目をつけて、攻め込むのだ。

「作戦を予定通りに実行する。第一、第二軍団は北方経路。第三、第四は南、第五、第六は西、第七、第八は東だ。第九、第十軍団は遊軍として、各軍団の援護にあたる」

 兵部卿も緊張の面持ちで頷いている。

 これらはすでに作戦会議で確認済みの事項だ。

「各軍団後尾に武装文官を配置し、首都陥落後、武装文官に首都を保守させる」

 そこまで言って、オレは外交を担当する治部卿に目をやった。

「外交官の配置は」

「は。予定通り各国内に配備完了しております」

 外交官たちには、各国に宣戦布告を申し入れてもらわなければならない。

「軍団到着半日前に交渉終了するよう徹底してあるな」

「はい。交渉終了後は、速やかに退避し、身の安全を確保するよう指示しております」

 逃げ遅れたら、戦闘に巻き込まれるまでだ。

「この作戦は迅速さが重要である。各国が軍を動かす前に首都を陥落させるのだ」

 その場にいた関係者全員が頷く。

 空気は張り詰めていたが、悲壮感はない。

我々は獲物を駆る側にいるのだ。

「それではこれより作戦を発動する。解散」


 未明。

 それぞれの軍団が、回収された何十両もの列車に乗り込み、各地へ送り出される。

 数日後には、点検で列車が走っているはずのない駅に、尋常ではない数の長い列車が到着した。

 客はおらず、配置されている誘導員だけが、列車に合図を送っている。

 蒸気を吹かして列車が停車すると、兵士たちは次々に降り立った。

 長すぎて構内に入りきらなかった後部列車からも、兵士が線路上に続々と降り立つ。

 その数およそ四十万。

 次から次へと、駅から、線路から湧いて出てくる兵士たちに、周囲の住民たちは驚き、訳もわからず道を開けた。

 この国に宣戦布告がなされたのは、つい半日前。

 まだ国民たちには何も知らされていなかった。

 二匹の蛇が剣に絡み合う様が描かれた、蒼色の大公旗が翻る。

 遮るものは何もなかった。

 大公軍は一気に進軍し、王城の前に陣取った。

 王国の軍はまだ城内から動いていない。

 貴族に至っては伝令すら未だまわっておらず、彼らの軍隊もそれぞれの領土内にいるという有様だった。

 国境付近に派遣されている軍もあり、城内にいるのは、実質全軍の一割にも満たない。

 歩兵を先頭に布陣。

 そのあとに砲火部隊、工作部隊、輜重部隊が続く。

 その頃になって、城内がようやく慌ただしく動き始める様が、外部からも分かった。

「配備完了しました」

 前方から伝令がまわってくると、司令部から次の指示が下りる。

「砲兵、王城に向かって放て」

 砲兵が榴弾砲を容赦なく放ち、壁を壊していく。

 城内からは煙が昇り、怒号とも悲鳴ともつかない叫び声が砲弾の音の合間に聞こえてくる。

 間断なく打ち放たれる砲弾によって、王城はもはや廃墟のようだった。

 白煙を立ち上らせ、城壁の一部は既に瓦礫となっている。

 虫の息のように見える城の城門を、カノン砲が突き破った。

「歩兵、進軍ー」

 大きな掛け声とともに、ライフル銃を抱えた歩兵が城内へなだれ込んだ。

 あっという間の出来事に、城内にいた兵士はなすすべもなく、大量の死体が転がった。

 生き残った兵士たちも事態を把握しきれず、ただ右往左往するのみだった。

 統率が一切とれていない兵士たちを、歩兵がいとも簡単に打ち取ってゆく。

 この時点で、もはや勝敗は決していた。

 間もなく、呪詛を呟き続ける王は囚われの身となった。

 こうして、この国の首都は陥落したのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ