表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大公  作者: ヨクイ
第4章 野望への道
56/80

大動員令

 周辺国に放たれた我が国の活動員は、実に効率よく仕事を果たした。

 貴族に不満を持つ民衆を煽り、自由を求めて立ち上がるよう吹聴したのだ。

 二、三ヶ月後には民衆の反発の声があがり、半年後には大きなうねりとなり始めた。

 予想外に早い効果が出たのは、やはり下地があったからだといえるだろう。

 東の国では、活動員が潜入した時点ですでに、反乱軍の芽が存在していたというのだから。

 そして、北に位置する二カ国と東の国では、予定通り内乱が勃発した。

 武器商にも手を回し、民衆側にそれとなく武器を流すよう指示を出しておいた。

 だが、加減が難しい。

 民衆が大量に武器を持ち、勝ちすぎれば、周辺諸国もおかしく思うだろう。

 我が国の出番も無くなる。

 民衆運動が下火にならない程度に援助の手を回し、政府側と闘わせる。


 周辺国における作戦が功を奏し始めた頃を見計らって、オレは遂に大動員令を発令することにした。

 大動員令によって、国内に戸籍を持つ十六歳から四十五歳までの健康な男子が、強制的に兵役を課せられる。

 これによって軍隊の規模は約二百万となる。

 この大動員令を発令するにあたり、再びオレは演説の壇上へと上がることにした。

 教育は徹底してきたものの、大動員令に対する号令が必要だと感じたからだ。

 政府及び軍関係者と議員連中。

 そして、教会関係者。

 有力な者を呼び集め、さらに王都に住む者は希望すれば、誰でも演説を聞く機会を与えた。

 ここで大演説を打ち、教会関係者によってさらに地方へ広報させる。

 大動員令に対する反発を和らげるのがねらいだ。


 宮殿の大庭園に大きな舞台設備を用意した。

 時は夕刻。

 薄闇の中、灯籠が壇上を照らす。

 庭園を埋め尽くす人。

 ざわめきはやがてさざめきへと変わり、そして静寂。

 壇上のオレを、皆が食い入るように見つめていた。

「私は憂いている」

 静かにそう切り出した。

「先王の乱より、我々は立ち上がり、驚くべき発展を遂げた。威張り散らした貴族、我々の自由を阻害する貴族どもはもはやこの国にはいない」

 あたりをぐるりと見渡した。

 発展に対する自負のようなものが、会場を漂っている。

「だが、私は憂いている。隣国では、市民が自由を求めて蜂起し、貴族と闘っているのだ。それも一国だけではない。民衆の自由への渇望が今、各地で狼煙を上げさせているのだ。隣国から我々の国に逃げ延びてきた者もいる。……そういう者たちを手厚く保護してくれた教会には感謝する」

 当然だとばかりに頷く人間は、おそらく教会関係者であろう。

「だが、我々は逃げ延びてきた者たちをかばうだけでよいのか。彼らは自由を求めて闘っているのだ。かつての我々のように」

 困惑する顔。

 だが、ここが正念場だ。

 たたみかけるように言葉をつなげる。

「彼ら貴族たちは自国の民衆を鎮圧したあと、どこに矛先を向けるだろうか」

 周囲から恐れるような、怒りのような声があがる。

 おそらくは軍隊関係者だろう。

「いつまで我々は、奪われることにおびえなければならないのだろう。領土を、権利を、自由を奪われる生活――私はそんな怯える生活をこの国の人々に与えたくはないのだ」

 もう一度周囲をゆっくりと見渡す。

「この国で自由を知る、同朋諸君。私はここに宣言する。世界中の貴族制度を廃止し、民を中心とした王道楽土を築くことを。……その為に力を貸してほしい」

 おおお……という声にもならないような、咆哮に似た雄叫びが上がる。

「隣国にいる友を解放し、貴族を追放しよう。そして、ともに王道楽土を築こうではないか」

 一斉に湧き上がる拍手。

 そして、いつしかそれはオレを呼ぶ声となって響き渡った。

 国民は義憤に酔いしれている。

 オレは少なくとも、目の前にいる人々を誘導することに成功したのだ。

 やがてこの義憤の渦は、今夜の熱気そのままに地方へと運ばれた。


 こうして、この国全てを巻き込んだ大動員令が発令されたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ