背徳の枢機卿
「噂にたがわぬ。なかなかいい面構えをしておるな」
教皇は見下すように、オレを品定めした。
治部卿の手配で、教皇とオレとの極秘接見が実現した。
書簡ではすでに、こちらの要求を遠まわしには伝えてある。
通された部屋は思ったより質素で、それほど広くはなかった。
「これは取引ですよ。貴方は力を手に入れ、オレは権威を手に入れる」
自分より二回り以上は年を重ねていそうな教皇に、オレはやんわりと言った。
「口に気をつけることだな。わしはそなたをいつでも潰せるだけの力を持っておる」
白い教皇服を翻し、教皇は重々しく釘を刺した。
「だが、話は面白い。国王を食い物にした若造はどのような男かと思っておったが……」
精一杯の虚勢は張るが、やはり力は欲しいというわけだ。
教皇を敵視する有力な枢機卿の一人は、他国の後ろ盾を受けているという情報も得ている。
今教皇にとって、かなり分が悪い。
老い先短いが、素行の悪い教皇には敵が多すぎた。
「話は聞き及んでおられるでしょう。我が軍はそれほど大きくはないが、最強です。なんならお目にかけてもいい」
「自信過剰だの。若い者の悪い特質だ」
「よろしければ、貴方が目障りだと思われる人物を消して差し上げても構いませんが」
「……なるほど。だが、わしも聖職者だからの」
散々手を汚しておきながら、よくも言えたものだ。
情報卿が集めてきた情報が事実だとすると、彼は間違いなく、歴代最悪の教皇として名を残すに違いない。
「だが、そなたを枢機卿に任命するのは少々面倒での。枢機卿は司教の中から選ぶことになっておる」
「例外もあると聞きましたが――。問題ないでしょう。私は司教の位を既に手にしておりますので」
「なんと……。そなた司教であったのか」
「そのようですな。我が国の教会が喜んで差し出してくれましたよ」
「金をつかませたな。まあよい。それならばさほど難しい話ではないだろう」
賄賂で聖職者を抱き込むのは、彼のほうがよほど得意だろう。
「手続きには多少時間がかかるが……。それでもよいな」
「無論。国に戻って、吉報を待っておりますよ」
予想以上にうまくいったものだ。
教皇はよほど力が欲しいと見える。
数ヵ月後、教皇庁から使者が到着した。
立派な馬車に乗った使者を、わざと派手派手しく迎え入れる。
これを以て、周囲に認知させるためだ。
そして、どこよりも歓声をあげたのが、教会関係者だった。
今までは国王が魔術師を寵遇していた為、国内の教会の立場は非常に弱いものだった。
その為、彼らはオレに司教の位を喜んで与え、自分たちの保身を図ったというわけだ。
これでオレに復讐心を燃やす貴族共も、安易に教皇庁を利用することができなくなる。
いずれオレ自身が教皇庁を利用できるだけの力を手に入れるというのも悪くない。
誰もが誰かの力を利用し、他者より有利に立とうとしている。
教会も、教皇も。
腐敗した宗教界など、所詮はそんなものだ。




