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大公  作者: ヨクイ
第4章 野望への道
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教皇庁の膿

 軍団長らの反乱は、事前に潰すことができた。

 空席となった軍団長の地位には、兵部卿が示してきた者たちを新たに据え、一応の終息を見た。

 しかし、教皇庁という存在が気にかかる。

 貴族と結託し、こちらに揺さぶりをかけてくるとは。

 教皇庁について、オレはこれまではそれほど意識してこなかったが……。

 今回は事前に芽を摘んだが、また同じようなことになりかねない。

 それは、国外に目を向けようとしているオレにとっては厄介だ。

 執務室の椅子に腰掛けたまま、葉巻の箱に手を伸ばす。

 吸い口を切り落とし、火をつけた。

 火を近づけた部分がじわりと赤みを帯び、やがて細く煙が立ち上ってゆく。

 椅子に深く腰掛け直すと、オレはそれをゆっくりと吸い込んだ。

 葉巻の香りが鼻腔をくすぐり、やがて体内をゆっくりと巡ってゆくのが感じられる。


 さて……。


 思案しているところに、情報卿の来訪を告げる声がした。

「入れ」

 扉が開き、情報卿が一礼して入ってきた。

「教皇庁の件、調べてまいりました」

 話が長くなりそうなので、情報卿に椅子を勧める。

「は。すでにご存じのこともあるかもしれませんが……」

「よい。最初から始めてくれ」

 頷いた情報卿は居住まいを正して説明を始める。

「教皇庁は、教皇を頂点とした宗教集団です。この国を含めた周辺諸国一帯に末端の教会がいくつも存在し、その影響力は大きいと言えます。教皇の下にあたるのが、枢機卿と呼ばれる者たちです。教皇は一人ですが、枢機卿は現在百五十名います。枢機卿の任命は教皇が行い、教皇は枢機卿の中から選出される仕組みになっています」

「では、互いが任命しない限り、その地位につけぬというわけだな」

「そうですね。もともとは清廉な関係だったようですが、今は教皇庁もかなり腐敗が進んでいるようです」

「ほう」

「教皇は自分に都合の良い者を枢機卿に選び、自分の勢力を強めようとしています。ですが、枢機卿内にも派閥があり、現教皇に加担する者と反駁する枢機卿の派閥もあるようです」

「現教皇に任じられた枢機卿は味方につくが、そうでない者もいるということか」

「そうです。基本的に、教皇自身は枢機卿たちの推薦を受けて就任していますが、現教皇は枢機卿たちに賄賂をつかませたという噂があります。教皇着任後も、現教皇の悪評はかなり耳に入ってきています」

 なるほど。

 清廉潔白な聖職者なら付け入ることも難しいが……。

 欲深い人物ならばむしろ扱いやすいかもしれない。

「教皇庁は信者らの寄付によってかなり豊富な資金を有しており、枢機卿の有力者たちは私兵もかなり保有しております」

「なるほど。やはり手を打っておかねば、厄介なことになりそうだな」

「教皇は手勢が欲しいようです。教皇庁内では、かなりの勢力が敵に回っていますから。貴族と結託したのもその辺りに理由があるようですね」

「ふうむ」

 枢機卿に手をまわすか、教皇に手をまわすか。

 やはり、教皇に接近したほうが早いだろうか。

「教皇に接触を図るか」

「は……」

「その手ごたえ次第では、中に入り込めるかもしれん」

 教皇が手駒を必要としているのなら、あえて手駒になってやるのも一つの手だ。

「間諜を送りますか」

「いや、教皇にオレを枢機卿にするように働きかける」

 オレの言葉に情報卿は珍しく狼狽した。

「し、しかし……。枢機卿とは本来、司教から選ばれるものです。信徒ですらない殿下となると……」

「熱心な信徒など、噂さえあればよい。司教の地位など教会から買えばよかろう」

「はあ……」

「もうよい。この件については、治部省、宣伝省、情報省で事に当たる。閣議の手配をしておけ」

 情報卿を下がらせ、オレは再び葉巻に手を伸ばした。

 やってみる価値はあるだろう。

 教皇が取り込めず、枢機卿が無理ならば、教皇庁を抱き込むか……潰すか、だ。

 だが、兵力を割かずになんとかなるなら、その方が良い。

 さて、教皇がどう出るか――お楽しみといこうか。

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