八将の乱②失態
修正版です。
八人の軍団長を主体とした謀反対応のために、兵部卿、特務隊の幹部を招集。
極秘の会議には、詳しい情報を把握している情報卿も同席した。
オレが情報卿から話を聞いた翌日のことだ。
「この度の……誠に、申し訳ございません」
会議は兵部卿の謝罪から始まった。
表情こそ平静を装っているが、体が僅かに震えている。
兵部卿は数名いる幕僚の中から、オレが抜擢した。
軍人然として忠誠心が厚く、物事に動じず、冷静に対処できる有能な男だ。
彼にとってこの失態は屈辱的であろう。
大公軍と称されるこの国の者たちで構成される部隊は、今や親衛隊の数を凌ぐ。
これを統括する彼は、大臣たちの中でもかなりの力を有していると言える。
「兵部卿には少々荷が重すぎたのでは」
特務隊隊長が横から口を挟む。
それを兵部卿が鋭い視線で返した。
もともとは兵部卿も親衛隊に属していた者。
しかし、かえってそのことが特務隊と兵部卿の間の亀裂になっていることは、オレも小耳にはさんでいた。
親衛隊の中でも、特務隊は特殊任務に就くことから他の部隊よりも気位が高い。
同じ親衛隊の中から大臣に抜擢された兵部卿を、特務隊の幹部は少々歪んだ目で見ているようだ。
「兵部卿の指揮を仰ぐまでもない。我々だけで事態収拾が可能かと存じますが」
特務隊長が勝ち誇ったようにオレを見た。
兵部卿は変わらず、硬い表情のまま口をつぐんでいる。
反論する気はないようだった。
「部隊の指揮は兵部卿にとらせる。特務隊もその指示に従え。これは命令である。何度も言わすな」
オレの言葉に、特務隊長は不承不承、頭を下げた。
「兵部卿、裏は取れたか」
「申し訳ございません、殿下。こちらでは尻尾をつかめませんでした」
「そうか」
まだ丸一日経過していない。
兵部卿も手を尽くしたのだろうが、彼らも警戒しているはずだ。
そう簡単に情報を漏らすような馬鹿な真似はしないだろう。
「部下の情報も把握できていないとは」
特務隊長があきれたように言うが、これにも兵部卿は答えなかった。
「彼らは情報漏洩を恐れて、直接の接触は避けているようです。押さえるのならば、個別にあたるしかありません」
情報卿がそう言って、地図を広げた。
「それぞれの寝所を襲うか」
そう呟いたオレに、皆が頷く。
「将軍の邸宅はここです。あと、ここと、ここ」
それまで黙っていた兵部卿が指で、それぞれの場所を示していく。
それを地図に書き込み、送り込む部隊と段取りを決めていく。
「八将軍と、関わりのあるすべての将校を残らず捕獲する」
兵部卿が締めくくった。
だが、それでは手ぬるいのだ。
「兵部卿、今回は捕獲作戦ではない」
「は……」
やはりオレの言葉を、彼は理解していないようだ。
「聞こえなかったのか。捕獲作戦ではないと言っている。処分だ」
場の空気が一気に緊張した。
どうやら彼らは何か勘違いしていたようだ。
「また調子に乗ったどこかの愚か者が同じ手を使わぬよう、処分しろ」
「は……。では、将軍は発見次第、全て射殺。官舎にいる将校は、連行後裏が取れ次第射殺」
これがどういうことを意味するか、兵部卿にはわかっただろう。
「作戦は夜半より決行する。各所配置につくように」
兵部卿は絞り出すような声で、睨むように特務隊長に命令を下した。
夜はまだこれからだ。




