八将の乱①凶報
修正版です。
その話は情報卿から直接もたらされた。
緊急の用件で彼がオレの執務室に来たのは夜も更けた頃だった。
「軍内部で謀反の動きがあるようです」
彼のこの言葉に、オレは冷水をかけられたような気分だった。
民からは絶大な支持を得、負け知らずの大公軍は士気も高く、掌握できていると思っていた。
まさかこの時期に謀反とは。
併呑した一部の国王軍の者たちによる謀反かとも考えたが、情報卿の話はさらに意外なものだった。
「どうやら国外に逃亡した貴族と教皇庁が関わっている可能性があります」
「教皇庁か……。教皇庁と直接的な接触はまだなかったはずだが」
教皇庁は特定の国家に属するものではないが、この周辺国一帯に対して少なからず影響力を持っている。
「はい。国民の一部には熱心な者がおりまして、殿下を神のように崇める者もおります。教皇庁はそのような我が国の風潮を、以前からあまりよく思っていなかったようです」
オレが神とは笑わせる。
以前から優れた指導者として信奉するような教育を意図的に行ってきた。
しかし、この短期間でそんな熱心な信者が現れるとは思っていなかった。
「教皇庁もそんな一部の風潮に惑わされるとはな」
オレは強引にこの国を内側から食らった。
そのことに対する恐怖心のようなものもあるに違いない。
「今ここで痛い目に合わせておこうというところかな」
「当初は教皇庁の関わりが明確ではなかったのですが、国外逃亡した貴族たちを調べるうちに足が出てきました。貴族側から報復の動きがあるであろうことは想定しておりましたので、目を離さずにいたのですが……。問題はそれに唆された我が軍部の方です」
「規模はどの程度になる」
「それが、十ある軍団のうち、八軍の将が関わっているようです」
痛手の大きさにオレは思わず唸った。
謀反を起こそうとしている軍団長たちは皆、こちらの世界で初期の頃に集めた者たちだ。
親衛隊を使えば、鎮圧することはそれほど難しくはないだろう。
今の段階で彼らはまだ動いていない。
動き出す前に捕えてしまえば、簡単に始末はできる。
しかし、その穴はあまりに大きい。
ただでさえ、人材が足りているとは言えないのに。
「彼らの反乱の目的はわかっているのか」
「表向きは、この先の戦争を危惧し、殿下が多くの民を戦争に巻き込む恐れがあると。しかし、教皇庁は彼らに新政府における公爵位を約束しているようです」
「餌につられたわけか」
だが、計らずしも彼らの主張は正確だといえる――彼らがどれほど自覚しているのかは分らないが。
情報卿も頷いた。
「表向きはなんとでも言えます」
「憂国の志士になろうというわけか。実際直接関与しているのはどの程度になる。それによって、今後の処置も大きく違ってくるが」
「はい。幸いなことに、下級兵士たちは何も知らされていないようです。ですが、八将直下の将校たちは関わっています。演習などとでも理由をつければ、簡単に相当数の軍隊を動かすことができるでしょう」
八名の軍団長とそれに従う将校たち。
少なくとも彼らは処分しなければなるまい。
「兵部省はこのことを把握しているのか」
「大公殿下がこの件をご存じでないのなら、おそらくはまだだと思われます。我々は貴族を監視している方面から情報を得ましたので」
「わかった。今すぐ兵部卿を呼べ」
兵部卿に親衛隊の特務隊を指揮させる。
特務隊は本来はオレの指揮下に入る部隊だ。
その名の通り、特殊任務を請け負っている。
本来はオレが直接指揮するものだが……。
兵部卿には少々戒めが必要だろう。




