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大公  作者: ヨクイ
第4章 野望への道
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競技会

修正版です。

 王都郊外にある簡素な住宅街。

 赤煉瓦の立ち並ぶ通りにある小さな一軒家に住む青年は、その日を心待ちにしていた。

 いつもより早く起き、顔を洗い、身支度を整えた。

 母は朝早くから勤め先の店へ出かけてしまった。

 今日は町中が騒がしい。

 いや、騒がしいという表現は少し違うかもしれない。

 どこの店も、通りを行きかう人々も、落ち着かないのだった。

 どこかから楽隊の軽快な音楽が聞こえてくる。

 身支度をもう一度確かめ、青年は少し早いが家を出ることにした。

 彼はこの家の一番末っ子だった。

 彼には兄が二人、姉が一人いたが、皆もう家を出て、それぞれの家庭を築いている。

 父は兵士だったが、数年前の戦闘で命を落とし、今は彼と母親だけがこの家に住んでいた。

 誰もいない家の戸締りを確認する。

 近頃は治安が安定して盗人も減ったが、それでも油断はできない。

「よし」

 気合いを入れるように呟いて、通りへと歩みだす。

 家の前は人通りがまばらだったが、通りを挟んだ向こうからは賑やかな人の声と音楽が聞こえてきた。

 昨日の夜から、たくさんの出店がこのあたりにも出ていた。

「お祭りみたいだな……」

 思わず笑みがこぼれる。

 王をめぐる国のごたごたで、ここ何年もお祭りや行事が行われてこなかった。

 だが、今日は違う。

 大公殿下の発案で、この国で初めて、武術の競技会が開かれるのだ。

 弓道、槍術、剣術、馬術、射撃・・・。

 競技会を知らせる掲示板の知らせを見たとき、青年は心臓が止まりそうだった。

 彼には父親の形見の弓が一式ある。

 だが、兵士ではない彼は、いつも仕事が終わってから練習に明け暮れていた。

 本当は兵士になるつもりだったのだ。

 しかし、父を戦争で亡くした母は、末息子の願いを聞き入れなかった。

 家を飛び出すことも考えたが、一人残される母を思うと、それはできなかったのだ。

 この競技会には市民でも兵士でも関係なく参加できる。

 地方でも予選会が行われ、この王都で行われた予選会には彼も参加した。

 そして、見事本戦に残ることができた。

 優勝すれば、多額の賞金も出るし、名も売れる。

 運がよければ大公殿下や、王様の目にもとまるかもしれない。

 もしも目にとまらなくても、賞金と名声さえあれば、弓道の道場を開くことができる……。

 そうすれば、母の近くにいて、好きな弓を堂々とやっていられる。

 それが彼の目標だった。

 そのためにも、優勝……そうでなくても、三位ぐらいまでには入らなくては。

 彼が物思いにふけりながら歩いていると、いきなり後ろから肩を叩かれた。

「よう。お前も行くのか」

 振り向くと、幼馴染の青年がにやにやしながら立っていた。

「お前も出るのか……」

 少し不安になる。

 なぜなら彼は体格もよく、武術全般に長けている。

 国王軍に入るつもりだったが、このところごたごた続きだったので、しばらく様子を見ると言っていた……。

「俺は槍術で出るんだ。予選の時には会わなかっただろう」

 そう言って彼は、青年の肩を軽く叩いた。

「これはすごい機会だよな。普通に軍隊に入ったって、俺達は使い走りからだ。だけど、この競技会で目をかけてもらえれば、一気に上まで行けるかもしれないんだぜ」

 みんな考えることは同じなのだと、青年は苦笑した。

「そう簡単に行けばいいけどな」

「お前は結局、入隊しないのか」

「ああ……母さん一人、置いてはいけないからね。だけど、ここで一旗あげたいのは、僕も同じだよ」

 二人は笑いあった。

「大公殿下の改革はすごい急激な変化だが、今までになかった可能性が新しく生まれてる」

「そうだな。こういうことがなければ、僕も一生涯、期待をすることもなかったけど……」

 二人の目の前には可能性をつなぐ光が見えていた。

「そのためにはまず、俺もお前も、勝ち残らないとな」

 彼の言葉に青年も頷いた。

 二人はお互いの健闘を祈って、拳を突き合わせた。


 互いの健闘と、未来の可能性を信じて。

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