死の商人
修正版です。
王都から大公領に戻ると、接見希望者が列を作るほど待ち構えていた。
あまりに数が多いので、大臣連中で済む用事は彼らに任せ、限られた者だけオレ自身が接見することにした。
その中でも特に目を引いたのが……武器商人だった。
商人というよりは盗賊といったほうがしっくりくるような、危険な雰囲気を漂わせている。
「直接のお目通り感謝いたします」
そう言って、武器商人は丁重に挨拶をした。
「初めて会うな」
彼らより一段高いところから、オレは静かに声をかけた。
「左様でございますな。大公殿下は我々が知らぬ品物を多数お持ちで、我々を必要とされておりませんでしたからな」
「武器商人と聞いたが、どのようなものを商っておる」
「はい。この地域一帯で流通している武器の類は一通り扱っております。他にも仲間がおりまして、それぞれ扱っている物が違ったりもしますが、私が総元締めという立場におりますので、それら全般をとり仕切っております。具体的には、剣、槍、弓等の武器類から甲冑や盾などの防具類まで……。ああ、大公殿下がお持ちのような物はありませんが」
肌は浅黒く、声はがさついていて、野生の狼のような男だった。
貪欲そうな目が、光るのが見えるようだ。
「で。何が望みだ」
あっさりというオレに、媚を売るつもりだった商人はやや意表を突かれたらしい。
驚いた顔をした。
「いきなり本題というわけですな。は……実は武器を他国に売買する許可をいただきたいのです」
それは予想していた返答でもあった。
前王は、他国に武器が流れることを嫌い、自国から持ち出すことも、売買することも禁じていた。
国内には、良質な鉄のとれる鉱山がいくつかある。
それゆえに、この国の武器は他国より質が良く、保有数も多い。
しかし、オレに実権が移った今、昔ながらの武器はもはやそれほど必要ではない。
今まで国相手に独占的に商売を行ってきた武器商人たちは、販売先を失っていた。
「大公殿下がすべて買い上げてくださるなら、このまま商売が続けられますが、今のように我々の武器を必要となさらなければ、我々は失業してしまいます」
「だろうな。だが、あいにくとオレはお前たちの扱う武器に興味はない」
少数派の武器商人たちの行く末がどうなろうと、オレには関係ない。
しかし、今国内にある剣や槍などという古い武器を市場に流したらどうなるだろうか。
この国にある武器は質が良いので有名だ。
一度流通させれば、一気に周辺国に広まるだろう。
それを継続的に流し続ければ、やがて周辺の武器市場を占有するようになる。
「よかろう。好きにするがいい」
「は……よろしいので」
「だが、条件がある。我が国がもし他国と戦争になった時には、供給先を限定させてもらう」
武器商人が、はっと顔を上げる。
「それはもちろんでございます。この国で商いをさせていただく以上、裏切るような真似はいたしません」
「その言葉に偽りないな。鉱山の権利はすべて、国が管理する。嘘偽りがあった場合には……わかっておろうな」
「も、もちろんでございます」
これは脅しだ。
だが、彼らも分かっているだろう。
他国に武器を供給する意味を。
我が国の武器商人が武器市場を占有することができれば、他国と長期戦になった場合には有利に働く。
鉱山の権利さえこちらが握っていれば、彼らは従わざるを得ないだろう。
武器商人は別名、死の商人と呼ばれる。
だが、そんな彼らをも取り込み、従わせるオレは、一体何と呼ばれるにふさわしいのだろうか。




