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大公  作者: ヨクイ
第4章 野望への道
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玉座の先

修正版です。

 内乱――宣伝卿は「愚王の乱」と名付けているようだが――は長期ではなかったため、国民にはほとんど打撃はなかった。

 しかし、国王軍はかなりの痛手を負い、事実上の主を失った。

 また大公軍においても、無傷ではなく、かなりの死傷者が出ていた。

 このまま国王軍の援軍として来た周辺国の連合軍が、理由をつけて国内に進駐すれば、情勢はまた大きく変わっていたかもしれない。

 しかし、軽い気持ちで援軍を送ってきた周辺諸国にとって、オレの軍隊は未知のものだった。

 戦中の軽い脅しに従ったのも、おそらくは未知の者に対する恐怖があったからだろう。

 もちろんそれは計算の上での脅迫だったのだが……。

 もしも彼ら連合軍が実情を知っていれば、間違いなくこの国は乗っ取られていた。

 そういう意味では、少々きわどい駆け引きだったと言える。

 国民にとっての大きな変化は、内乱ではなく、そのあとの改革が大きい。

 国王に裏切られた国民たちの目をそらし、扇動していくのには、やはり宣伝省の役割が大きかった。

「これも立派な作りですなあ……」

 豪奢な椅子と机をうっとりと眺める宣伝卿。

 物欲あふれるこの俗物は、宗教者といわれなければ、欲深い商人の様だ。

「このような品々も売り払ってしまってよろしいので」

 部下に必要なことを書きとらせながら、大蔵卿が畏まって尋ねる。

「役所に贅沢な寝室は必要ないからな。机と椅子の類は使えるだろう。早い方がいいが、急ぐな。商人どもに足元を見られるからな」

「はい。適正な価格で売れるよう善処いたします」

 それでなくても軍事費がかさんでいる。

 売れるものは売り、使えるものは使う。

 大蔵卿の頭の中は、既に今年の予算のことでいっぱいだろう。

 宣伝卿はまだ、家具の品定めをしている。

「そう言えば、貴族の屋敷も随分空き家が出ましたなあ。余るような屋敷がありましたら、住んでみたいものですな」

「かまわんが」

「は……よろしいので」

 許可が出るとは思っていなかったらしい。

 満面の笑みでこちらを見た宣伝卿に、さらに一言付け加える。

「金は大蔵省のほうに払っておけよ」

「は……金をとるんで……」

「当り前だろう。国の資産だからな」

 さもありなんと隣で大蔵卿も頷いている。

 すっかり舞い上がった気分は、地に落ちたらしい。

 名残惜しそうに部屋を見渡す宣伝卿を連れて、玉座の間に向かった。

 天井は高く、上から大きなシャンデリアがつりさげられている。

 壁には、細やかな絵の装飾を施された大きな布制の壁かけが飾られ、玉座の両側を立派な燭台が彩っていた。

 そのうち宣伝卿が玉座に頬ずりするのではないかと見ていたが、さすがにそれはしなかった。

「後片付けがすんだら、ここに本拠地を移すぞ」

「は……。これまた立派な玉座ですなあ……」

「これも使えるだろう」

「は・・・こちらは使われるんで」

「接見の間として、使えばよかろう」

「今の役所もようやく居心地がよくなってきたところですが……」

「仕方あるまい。名目上にしろ、王を立てているからな」

「ああそうそう。王で思い出しましたが、御璽が見つかりましたぞ」

 そう言って、宣伝卿は懐から金の御璽を取りだした。

「御璽をそれほど軽々しく扱えるのは、お前ぐらいのものだろうな」

 思わず苦笑する。

「大公殿下ほどではございませんて。わしはそんなに思い切りよく、この宮殿にある豪華な品々を売っぱらうなんて、到底できませんからな」

「これで、この国全てが思いのままになるというわけだ」

 オレは宣伝卿から御璽を受け取った。

「我々を貶めた王は死に、国は大公殿下のものとなりました。お次はもう考えておいでなのでしょうな」

「もちろんだ。王など踏み台にすぎぬ。この国の周囲には、まだまだ収められる土地があるではないか」

 オレの返答に宣伝卿は目を細めた。

「やはりそうでしたか。いやはや……。わしも母国では教祖として好き放題したものでしたが……大公殿下の野心には到底及びませんな」

「根本が違うだろう。お前は自分の快楽のために人を集めた。だが、オレは自分の野望のために国を治める」

「なるほど……。まだまだ退屈しそうにないですな」


 そう、これはまだほんの始まりにすぎない。


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