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大公  作者: ヨクイ
第3章 閑話
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大蔵卿

追加版です。

 太政大臣の抑揚のない言葉を聞きながら、大蔵卿は内心、頭を抱えていた。

 簡素な室内。

 太政大臣の言葉が、大蔵卿の頭の上を静かに流れて行く。

「……以上だ」

 ようやく途切れた太政大臣の言葉の後に、大蔵卿のため息をひとつ。

「……それは必要経費なのですかね」

 絞り出すように言った大蔵卿の言葉に、容赦ない返事が返ってくる。

「もちろんだ。今まで何を聞いていたんだ」


 ――どうかしている。


 大蔵卿はそう思わずにはいられなかった。

 商業は一段と伸び、農業分野の開発も著しい。

 人口も増え、税収も増えている一方なので、通常通りの出費ならば収支は問題なく黒字になるはずなのだ。

「臨時、臨時と……。これだけ臨時に出費されては、もはや臨時とは呼べません。立派な経費です」

「ならば、それでもかまわない。とにかく、軍備はまだ十分ではない。他国と渡り合うには、まだまだ投資が必要なのだ」

 これだけ軍事費に予算を回していれば、兵部卿もさぞご機嫌なことだろう。

 頭の中に、眼光鋭い兵部卿が口をゆがめてにやりと笑う様が浮かんだ。

 王を下し、国内はようやく大公の元、ひとつに統一されたというのに。

 この上まだ他国にも手を伸ばそうというのか。


 ――まったく、どうかしている。


 大蔵卿の心を読んだかのように、太政大臣が冷やかに言い放つ。

「大公殿下は先々を見据え、この国をさらに豊かにするべく御尽力されている。大蔵省は、それを足元から支えているのだ」

 そんなことは大蔵卿もわかっている。

 わかってはいるが、無い袖は振れないのだ。

 ……振れないが、なんとしてでも振れるようにしなければならない。

 最近の省内会議の内容はいつも同じ。

 どうやって予算を捻出するか、だ。

「では、頼んだぞ」

 そう言って部屋を出て行こうとする太政大臣を引き留めようと、大蔵卿は手をあげかけたが、あげかけた手は静かにまた元の位置に戻った。

 何を言ったところで無駄なのだ。

 どうしても捻出できなければ、閣議の際にまた閣僚たちの知恵を借りなければならない。

 しかし、できることならそれは避けたかった。

 そんなことばかりしていては、大蔵卿は無能だと証明するようなものだからだ。

 太政大臣の足音が遠ざかる。

 抑揚のない太政大臣にぴったりの、無機質な足音だ。

 それが聞こえなくなったのを確認して、大蔵卿は部下を呼びつけた。

「会議を開くぞ。議題はいつもと同じだ」

 そう言われた部下が情けない顔をする。

 太政大臣の前では、自分も同じような表情をしていたのに違いない。

 気持ちは同じなのだ。

 しかし、どうにかしなければ大蔵省としての立場がない。

「さっさと行け。会議が始まるまでに、知恵を絞っておくように伝えろ」

 指示を受けた部下は、足早に部屋を後にする。

 今日もなかなか帰れそうにない……と、大蔵卿は半ばあきらめたように思ったのだった。

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