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大公  作者: ヨクイ
第2章 反逆の狼煙
35/80

対決

修正版です。

「総員配置につきました」

「人員、装具に異状なし。準備完了」

「騎兵隊より伝令。目的地に到着しました」

 次々に入ってくる報告に頷きながら、気を引き締める。

 打つべき手は打った。

 周辺諸国の連合軍さえ崩せれば、あとは何とかなるだろう。

「よろしい。戦闘開始の合図を送れ」

 この世界の作法に則り、互いに開始の合図である狼煙があげられる。

 狼煙をあげて、さあ戦いを始めましょうとは、なんとも間抜けな感じが否めない。

 だが、そういう作法なので、後々のことも考えると、こればかりは従わなければならない。

 この世界の戦争は母国のものとは違い、一種の遊戯に近い。

 たとえ貴族が敗戦して捕虜となっても、丁重に扱われ、莫大な身代金と引き換えに解放される――というのが、通例だ。

 王に至っては、捕虜とさえ呼べないかもしれない。

 戦争に従う騎士以外の傭兵などは、身代金目的に戦場に来ているようなものだ。

 だから当然、王侯貴族から死者が出ることは少ない。

 しかしオレは、そのような常識にまで従う気はない。

 ぬるま湯につかりきった王侯貴族ども。

 我が戦の恐ろしさを身を持って体験するがいい。


 立派な国旗をはためかせた国王軍は、やはり、傭兵たちを矢面に立て、数に任せて一斉に押してきた。

 圧倒的な兵数。

 一気に踏みつぶしにかかったのだった。

 おおおという掛け声とも叫び声ともつかない声を上げ、土ぼこりを巻き上げながら、荒波のような勢いで迫ってくる。

 まだ野砲の射程には入っていない。

「測定班より伝令。敵、射程距離に入りました」

 伝令にかぶるように、オレが指令を与えた。

「野砲は全門開放。直ちに撃て。狼煙を上げ、騎兵隊は敵後方より回り込み、足止めさせよ」

 轟音があたりに響き、腹の底が震える。

 これでなくては。

「敵中央に着弾しました」

「広範囲に散弾させよ。射程内に入る敵は、一斉射撃だ」

「騎兵隊、後方からの攻撃に成功。敵攪乱に成功しました」

「一撃離脱を繰り返せ。くれぐれも深入りさせるなよ。特に歩兵が前のめりにならぬようにしろ」

 次々と戦況の報告があがってくる。

「諸国連合は予想外の戦闘に二の足を踏んでいるようですね」

 あちこち立ち回っていた兵部卿が、いつの間にかやってきてそう言った。

「伝令の効果も少しはあったようだな。楽な戦と踏んで、分け前をもらうつもりで来たんだろうが……。戦況が不利とわかれば手を引くだろう」

 国王軍は既に壊滅に近い。

 手を出せばこちらも容赦しないが、高みの見物をしているなら見逃してやる……というような内容をやんわりと伝令してやったのだ。

 戦局はもはや決定的になった――そう思った時だった。

「敵の騎馬隊が、強行突破を始めています」

「なに」

 国王軍の最後の騎馬隊が、被害をもろともせず、中央突破に出たのだ。

 死を覚悟したのであろうその塊は、堀に落ちていく自部隊を足場にして、次々と堀を渡ってくる。

 塹壕前で撃たれた兵がばたばたと倒れていくが、それに怯むことなく突き進んでくる。

 恐れず怯まず突進してくる騎馬隊のあまりの速さに、軍団の対応が間に合わない。

 平民上りの弱さが露呈したともいえる。

 親衛隊が慌てて後方から天幕を固めようと動くが、咄嗟のことに対応が遅れた。

 天幕の入口が勢い良く開かれた。

「陛下の恩を忘れた逆賊め。成敗してくれる」

 敵のものか味方のものかもわからない血を体中にあびた、必死の形相の騎士が、そこには立っていた。

 なかなかいい顔をしているじゃないか。

 周囲の幕僚たちが、慌てて立ちふさがろうとする。

 しかし、それより先にオレは前に出た。

「まだ倒れるわけにはいかんのだよ、若造」

 オレは拳銃を構え、騎士の眉間を撃ち抜いた。

 騎士にとっては一瞬の出来事だっただろう。

 理解できないといった表情のまま、騎士はその場にどさりと倒れた。

 幕僚たちが騎士を取り囲み、親衛隊が天幕の周囲を取り囲む。

 だが、ここまでたどり着いたのは、その騎士だけだったようだ。


 今度こそ勝敗が決した。

 諸国連合軍に見放された国王軍は、惨めな敗走を喫することとなったのだった。








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