対決
修正版です。
「総員配置につきました」
「人員、装具に異状なし。準備完了」
「騎兵隊より伝令。目的地に到着しました」
次々に入ってくる報告に頷きながら、気を引き締める。
打つべき手は打った。
周辺諸国の連合軍さえ崩せれば、あとは何とかなるだろう。
「よろしい。戦闘開始の合図を送れ」
この世界の作法に則り、互いに開始の合図である狼煙があげられる。
狼煙をあげて、さあ戦いを始めましょうとは、なんとも間抜けな感じが否めない。
だが、そういう作法なので、後々のことも考えると、こればかりは従わなければならない。
この世界の戦争は母国のものとは違い、一種の遊戯に近い。
たとえ貴族が敗戦して捕虜となっても、丁重に扱われ、莫大な身代金と引き換えに解放される――というのが、通例だ。
王に至っては、捕虜とさえ呼べないかもしれない。
戦争に従う騎士以外の傭兵などは、身代金目的に戦場に来ているようなものだ。
だから当然、王侯貴族から死者が出ることは少ない。
しかしオレは、そのような常識にまで従う気はない。
ぬるま湯につかりきった王侯貴族ども。
我が戦の恐ろしさを身を持って体験するがいい。
立派な国旗をはためかせた国王軍は、やはり、傭兵たちを矢面に立て、数に任せて一斉に押してきた。
圧倒的な兵数。
一気に踏みつぶしにかかったのだった。
おおおという掛け声とも叫び声ともつかない声を上げ、土ぼこりを巻き上げながら、荒波のような勢いで迫ってくる。
まだ野砲の射程には入っていない。
「測定班より伝令。敵、射程距離に入りました」
伝令にかぶるように、オレが指令を与えた。
「野砲は全門開放。直ちに撃て。狼煙を上げ、騎兵隊は敵後方より回り込み、足止めさせよ」
轟音があたりに響き、腹の底が震える。
これでなくては。
「敵中央に着弾しました」
「広範囲に散弾させよ。射程内に入る敵は、一斉射撃だ」
「騎兵隊、後方からの攻撃に成功。敵攪乱に成功しました」
「一撃離脱を繰り返せ。くれぐれも深入りさせるなよ。特に歩兵が前のめりにならぬようにしろ」
次々と戦況の報告があがってくる。
「諸国連合は予想外の戦闘に二の足を踏んでいるようですね」
あちこち立ち回っていた兵部卿が、いつの間にかやってきてそう言った。
「伝令の効果も少しはあったようだな。楽な戦と踏んで、分け前をもらうつもりで来たんだろうが……。戦況が不利とわかれば手を引くだろう」
国王軍は既に壊滅に近い。
手を出せばこちらも容赦しないが、高みの見物をしているなら見逃してやる……というような内容をやんわりと伝令してやったのだ。
戦局はもはや決定的になった――そう思った時だった。
「敵の騎馬隊が、強行突破を始めています」
「なに」
国王軍の最後の騎馬隊が、被害をもろともせず、中央突破に出たのだ。
死を覚悟したのであろうその塊は、堀に落ちていく自部隊を足場にして、次々と堀を渡ってくる。
塹壕前で撃たれた兵がばたばたと倒れていくが、それに怯むことなく突き進んでくる。
恐れず怯まず突進してくる騎馬隊のあまりの速さに、軍団の対応が間に合わない。
平民上りの弱さが露呈したともいえる。
親衛隊が慌てて後方から天幕を固めようと動くが、咄嗟のことに対応が遅れた。
天幕の入口が勢い良く開かれた。
「陛下の恩を忘れた逆賊め。成敗してくれる」
敵のものか味方のものかもわからない血を体中にあびた、必死の形相の騎士が、そこには立っていた。
なかなかいい顔をしているじゃないか。
周囲の幕僚たちが、慌てて立ちふさがろうとする。
しかし、それより先にオレは前に出た。
「まだ倒れるわけにはいかんのだよ、若造」
オレは拳銃を構え、騎士の眉間を撃ち抜いた。
騎士にとっては一瞬の出来事だっただろう。
理解できないといった表情のまま、騎士はその場にどさりと倒れた。
幕僚たちが騎士を取り囲み、親衛隊が天幕の周囲を取り囲む。
だが、ここまでたどり着いたのは、その騎士だけだったようだ。
今度こそ勝敗が決した。
諸国連合軍に見放された国王軍は、惨めな敗走を喫することとなったのだった。




