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大公  作者: ヨクイ
第2章 反逆の狼煙
34/80

開戦

修正版です。

 王は会戦場所に国内有数の大平原を指定してきた。

 ここは弓矢や剣、槍が武器の主流を占める世界。

 そこならば、大量の兵も展開しやすく、騎士も自在に動かせると思われる。

 ここでは、母国で失われた古式の戦闘が未だ行われている。

 騎士は高い矜持を持ち、攻撃は正々堂々を常とする。

 つまりは、オレがやった暗殺指令などはこの世界では、外道の所業だというわけなのだが。

 軍人としては、そんなしきたりに従ってやる義理はないのだが、国を治める立場としてはそういうわけにはいかない。

 国民はこの戦を固唾をのんで見守っているだろう。

 周辺諸国もしかり。

 表面上は、オレも正当な戦いを行っているよう装わなければならない。


 我が軍の編成は、歩兵が五万、遊牧民を中心にした騎兵が五千。

 砲兵には野砲一千門を装備。

 工兵、輜重兵、衛生兵等を合わせると十万を超える軍勢となる。

 兵数だけで考えても、一貴族が持ち得る力を遙かに超えているといえるだろう。

 だが、こちらで募った兵は、訓練は施しているとはいえ、大半が平民出身の者たちだ。

 勝っている間は問題ないが、自軍が不利になれば、思わぬところで瓦解する恐れもある。

 片や、王軍の騎士は戦慣れしている。

 よほどのことがない限り、戦場を離れることはないだろう。

 それを念頭に置いて、戦況を読まなければならない。


 我が軍は、王軍よりもかなり早く戦場入った。

 直ちに幅が広く深い堀を周囲に掘らせ、その背後には同程度の深さの塹壕を作る。

 特に緻密な作業となる塹壕は工兵に任せた。

 前面に野砲を並べさせ、轟音の中でも命令の伝達に不備が起こらないように周知徹底させる。

 後方に深く掘らせた長方形の穴を弾薬庫とし、外からは見えないようにする。

 中央には司令塔となる天幕を張らせ、戦場が逐次把握できるよう、大きな地図上に兵に見立てた駒を並べていく。

 長期戦になれば、戦い慣れていない我が軍のほうが不利だろう。

 そこへ斥候からの伝達が入った。

「殿下、少々予想外の事態のようです」

 兵部卿が厳しい顔つきで、こちらにきた。

「どうした」

「王国軍は十万以下との報告があがっておりましたが、見る限り、十万どころの数ではありません」

「どういうことだ」

 天幕に詰めていた者たちが一斉に外に出て、到着したばかりの王国の一団に目を凝らした。

 遠目に見る限りでも、明らかに数が多すぎる。

「斥候から数の報告は」

 オレは手持ちの双眼鏡で確認しながら、声をかける。

 このままでいくか……いや、やはり作戦を多少変更するべきか。

「おおよそ、三十万との報告があがっております……」

 三十万という数字に息をのむ声が周囲から聞こえてくる。

 単純計算しても、三倍。

「我が国以外の国旗が複数確認されております。二十万は周辺諸国の連合軍と見るべきでしょうな」

 兵部卿が思案顔で言った。

 しかし、内紛のために王が周辺諸国に援軍を要請するとは……想定外だった。

「諸刃の剣に手を出したか……。王がここまで暗愚とは」

 オレの言葉に兵部卿も頷く。

「王自身も足元をすくわれかねない愚策ですな。しかし、いかがなさいますか」

「作戦に大きな変更はない。だが、手は打っておかねばなるまい。伝令兵を呼べ」

「は」

「連合軍側に揺さぶりをかける。どうせ欲にまみれた烏合の衆だ。うまくいけば、闘わずに突き崩せるかもしれん」

「なるほど」

 ここまで作戦を練ってきて、王の愚かさに足をすくわれるとは。

 ――だが、予想外の事態が起こるのが戦場だ。

 切り抜けてみせようではないか。




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