宣戦布告
修正版です。
大公と王との戦賭博の噂が国内にも広がりつつあった。
そろそろ限界だろう。
国王軍に大きな変化はないが、周辺の貴族たちは警戒して私兵を集めつつある。
あまり時間をかけすぎれば、国王側が崩れかけた体制を立て直し、有利になるだろう。
なにより国王自身が動いてからでは厄介だ。
オレは決断した。
「国王軍に宣戦布告する」
オレの言葉に集まった閣僚たちも頷いた。
これまで長く準備し、戦略を立ててきた。
形式的には、諮問という形をとっているが、もちろん異論はでない。
「王にあっては、怪しげな魔術師に心を奪われ、貴族共の甘言に惑わされて爵位を乱用し、民を忘れ、政治を乱している。国を乱す君側の奸を打ち、この国の正道を示すべし」
一同、その言葉に聞き入っている。
当然このような言葉など名目にすぎない。
ここに集まっている閣僚たちですら、そんなことは微塵も思っていないだろう。
我々は当初から秘かに国王打倒を掲げてきたのだから。
しかし、国内外に正当性を示すための大義名分は必要だ。
「なかなかの名言ですな」
宣伝卿が、鬚をしごきながら頷いた。
兵部卿は、口の端にわずかな笑みを浮かべて黙している。
ついにこの時が来たのだというのが、一同共通の思いだろう。
「書簡を出す手筈をしましょう」
太政大臣がさらりと言った。
「軍の動員、物資の手配にはそれほど時間はかかりません」
兵部卿が朗々と述べた。
「殿下から領民にたいする演説も必要ですな」
宣伝卿がぬかりなく言う。
それぞれの閣僚がやるべきことを、次々と述べた。
まるで宴の準備でも始めるかのようだ。
「此度の戦はオレが指揮をとる」
オレがそう言い放つと、一斉に静まり返った。
「殿下、御自らですか」
兵部卿の驚いたような声が、一同の沈黙を破った。
それは予想していなかった反応だが、考えてみれば、彼らの多くがオレの軍隊時代を知らないのだ。
太政大臣などは本国で共に戦った仲だが、閣僚のほとんどは牢獄で知り合い、登用した者たち。
今まで直接指揮を執っているところを見たことがないのだから、仕方がないかもしれない。
「殿下が出ていかずとも、兵部卿でなんとかなるのでは。御身に何かあっても困りますが」
宣伝卿が追い打ちをかけるように言い募った。
だが、それを太政大臣が制して言う。
「そのために親衛隊がいるのだ」
そして一同を見渡す。
「そもそも、大公殿下は実戦経験の豊富な方である。ここにいる多くの者がそれを知らないだろうが、私は間近で閣下を……殿下を長年見てきた。殿下の采配に間違いはない」
太政大臣の言葉にまた静まり返った。
「それならば」
そう言って、兵部卿が臣下の礼をとった。
周囲の閣僚たちもそれに倣う。
閉会後、閣僚たちは準備のためにそれぞれ霧散霧消した。
太政大臣だけが残る。
「ご命令を」
オレは頷いた。
やるべきことは山ほどある。
だが、久しぶりに直接指揮が執れることに胸が高ぶっていた。
王よ、首を洗って待っているがいい。
今度は貴様がひれ伏す番だ。




