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大公  作者: ヨクイ
第2章 反逆の狼煙
33/80

宣戦布告

修正版です。

 大公と王との戦賭博の噂が国内にも広がりつつあった。

 そろそろ限界だろう。

 国王軍に大きな変化はないが、周辺の貴族たちは警戒して私兵を集めつつある。

 あまり時間をかけすぎれば、国王側が崩れかけた体制を立て直し、有利になるだろう。

 なにより国王自身が動いてからでは厄介だ。


 オレは決断した。


「国王軍に宣戦布告する」

 オレの言葉に集まった閣僚たちも頷いた。

 これまで長く準備し、戦略を立ててきた。

 形式的には、諮問という形をとっているが、もちろん異論はでない。

「王にあっては、怪しげな魔術師に心を奪われ、貴族共の甘言に惑わされて爵位を乱用し、民を忘れ、政治を乱している。国を乱す君側の奸を打ち、この国の正道を示すべし」

 一同、その言葉に聞き入っている。

 当然このような言葉など名目にすぎない。

 ここに集まっている閣僚たちですら、そんなことは微塵も思っていないだろう。

 我々は当初から秘かに国王打倒を掲げてきたのだから。

 しかし、国内外に正当性を示すための大義名分は必要だ。

「なかなかの名言ですな」

 宣伝卿が、鬚をしごきながら頷いた。

 兵部卿は、口の端にわずかな笑みを浮かべて黙している。

 ついにこの時が来たのだというのが、一同共通の思いだろう。

「書簡を出す手筈をしましょう」

 太政大臣がさらりと言った。

「軍の動員、物資の手配にはそれほど時間はかかりません」

 兵部卿が朗々と述べた。

「殿下から領民にたいする演説も必要ですな」

 宣伝卿がぬかりなく言う。

 それぞれの閣僚がやるべきことを、次々と述べた。

 まるで宴の準備でも始めるかのようだ。

「此度の戦はオレが指揮をとる」

 オレがそう言い放つと、一斉に静まり返った。

「殿下、御自らですか」

 兵部卿の驚いたような声が、一同の沈黙を破った。

 それは予想していなかった反応だが、考えてみれば、彼らの多くがオレの軍隊時代を知らないのだ。

 太政大臣などは本国で共に戦った仲だが、閣僚のほとんどは牢獄で知り合い、登用した者たち。

 今まで直接指揮を執っているところを見たことがないのだから、仕方がないかもしれない。

「殿下が出ていかずとも、兵部卿でなんとかなるのでは。御身に何かあっても困りますが」

 宣伝卿が追い打ちをかけるように言い募った。

 だが、それを太政大臣が制して言う。

「そのために親衛隊がいるのだ」

 そして一同を見渡す。

「そもそも、大公殿下は実戦経験の豊富な方である。ここにいる多くの者がそれを知らないだろうが、私は間近で閣下を……殿下を長年見てきた。殿下の采配に間違いはない」

 太政大臣の言葉にまた静まり返った。

「それならば」

 そう言って、兵部卿が臣下の礼をとった。

 周囲の閣僚たちもそれに倣う。


 閉会後、閣僚たちは準備のためにそれぞれ霧散霧消した。

 太政大臣だけが残る。

「ご命令を」

 オレは頷いた。

 やるべきことは山ほどある。

 だが、久しぶりに直接指揮が執れることに胸が高ぶっていた。


 王よ、首を洗って待っているがいい。

 今度は貴様がひれ伏す番だ。

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