明暗
修正版です。
王国に存在する異能者の数は多いが、優遇されている異能者は三十名程度。
あとは皆、牢獄内に放り込んだというのだからお笑い草だ。
無論、オレもその一人となったわけだが……。
国王にその能力を買われた、数少ない者たちは国王の敷地内にある専用の住居を与えられ、そこに住んでいる。
彼らは実際の戦闘にはまだ出ていない。
しかし、国王が追い詰められれば、彼らを戦局に投入するだろうというのが、オレの見方だ。
そして一度彼らが投入されれば、どれほどの威力を発揮するのか……それは未知数でもある。
だが、三十名程度とはいえ、異能者という名の歩く兵器がこちらに敵対すれば大きな痛手になることは間違いない。
情報部を使って、彼らの能力と王への忠誠心を調べあげた。
その中から、特に害がありそうな異能者を絞り込んだ結果、標的は十七名。
兵部卿は不敵な笑みを浮かべながらこちらを見ている。
「準備が整いました」
本国から連れてきた親衛隊の中から選りすぐって編成した精鋭部隊。
その中からさらに厳選し、結成された少数精鋭の暗殺部隊を五つに分けた。
各六人編成で、標的対象を分担で担当する。
敷地内の見取り図と、異能者たちの位置は、既に彼らの頭の中に叩き込まれている。
黒衣に身を包み、腰に帯刀した彼らからはぴりぴりとした緊張感が漂っていた。
「いくぞ」
オレの静かな声かけに、それぞれが黙ったまま頷く。
目を閉じて異能の力を使い、空間を結ぶ。
あらかじめ設定した、それぞれの正確な位置に空間をつながなければならない。
一定の大きさに広がったのを確認し、兵部卿が静かに合図を送った。
黒衣の暗殺者たちは皆覆面をかぶり、音もなく、暗闇の続く異空間を渡り始める。
彼らがその場から姿を消すまではほんのわずかな時間だった。
そして、彼らを一定時刻後に同じ場所で回収する。
悪いが、邪魔者には消えてもらおう。
国王の警備は堅いが、異能者には警備がついていない。
建物の前に衛兵が二人いるだけだ。
それも外からの侵入者を防ぐためではなく、異能者が勝手に出歩いたりしないための監視だ。
眠りについた異能者たちを暗殺者が次々と襲う。
ほとんどの者たちが、自らが殺されたことにすら気づかないで、命を落としてゆく。
それに気づいた者たちも、彼らが能力を発現させる前に、容赦なく一撃で切り倒す。
結果、十九名の異能者が暗殺部隊の刃に命を落とした。
暗殺者らは一人も欠けることなく、血液のにおいを漂わせて戻ってきた。
負傷した者もいるようだが、重傷者はいない。
異空間を閉じ、静かに彼らに向き合う。
「任務完了しました」
暗殺部隊隊長から報告に、オレは黙って耳を傾けた。
「よくやった」
立ち会った兵部卿も満足そうだ。
命を落とした、生まれを同じくする者たち。
彼らもまたこの国の王に人生を翻弄されたと言っていいだろう。
しかし、同情する気持ちはない。
それぞれに違う道を選んだのだから。
そして、いずれは彼らと地獄で会うことになるだろう。
異論があるのなら、その時にいくらでも聞こうではないか。




