蚕食
修正版です。
「うまくいっているようだな」
大臣たちから報告を受けながら、オレは頷いた。
情報部が王国内に流した「大公領に行けば、民は優遇される」という噂は、思った以上の広がりを見せていた。
大公領は差別もなく、税も安い。働きたい者はいくらでも仕事がある……そう聞かされて、貴族領にいた民たちが、大量に大公領へと移動し始めた。
大事な働き手、納税者を失った貴族たちは慌てた。
そして、これこそがオレの狙いだった。
小国を併呑し、北の大国を破った今、オレの目の前には王都が立ちふさがっている。
王都を攻略する。
そのためにはまず、王国内にいる貴族が邪魔だった。
有力な貴族たちはそれぞれの領土を持ち、私兵を保有している。
その数は大公領の兵士の数とは比べ物にはならないが、全てを合わせるとそれなりの規模にはなる。
貴族の保有する私兵と大規模な国王軍の数を合わせると……。
いかに火器を充実させ、歩兵を鍛え、底上げを行ったとしても、今のままでは数で押される。
そこで目をつけたのが、貴族領土だった。
どうにか彼らを動かせないか。
そして今日、思惑どおりに貴族たちが動き出したという報告があがったのだった。
彼らは王に直談判に行ったが、これは同じ王国内のこと。
民が移住するのは止められない。
国王としては、貴族が金を払おうが、大公が払おうが、国庫に入る金は同じなのだ。
貴族たちは素気無くあしらわれた。
そんな彼らをさらに影から扇動し、焚きつける。
そしてとうとう貴族たちは兵を集め始めた。
この大公領に攻め込むために。
「国王は何と言っている」
オレの問いに、大臣が答える。
「傍観する姿勢のようですな。国内の争いに手を出すつもりはないようです。こちらは表立っては動いていませんから、責められるだけの証拠はありません。貴族たちがどうしても攻め込むのであれば、好きにすればよいということのようです。王にとって、挿げる頭は何でも良いのでしょう」
貴族の方から戦いを仕掛けるよう誘発させ、それを口実に叩き、彼らの領土を奪う。
しかし、全ての貴族が賛同を唱えているわけではない。
戦力の高い大公領に対して警戒感を示す者も多かった。
だが、それで良い。
あまり多ければ厄介だ。
国王の領土と兵力を削ぐのが今回の目的なのだから、貴族たちの一部が蜂起すれば、十分目的は達せられる。
「さて、お手並み拝見と行こうか」
オレの放った情報部に踊らされ、貴族たちはついに挙兵した。
それを増強された大公軍が、虫けらのように叩きつぶす。
当初の情報通り、国王軍は動かない。
貴族の侵略を理由に、オレは責めてきた貴族たちの領土にまで侵入し、それを占領下に置いた。
こうすることで、国内に飛び地のように、大公領土が増えた。
牢獄の時とは比べ物にならない、緻密に描かれた戦略地図をたどりながら、オレはひとりごちた。
「そろそろ、首根っこを捕まえられそうだ」
外は漆黒の闇が迫っていた。




