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大公  作者: ヨクイ
第2章 反逆の狼煙
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遊牧民

修正第2版です。


 大公領に入り、オレは領土内のさらなる改革に着手した。

 内部体制を整備し、特に中枢を担う幹部たちを正式に大臣職につけた。

 特に長く実務を担ってきた補佐官には、太政大臣としてオレに次ぐ役職についてもらった。

 そして、その太政大臣から声をかけられたのは、大臣会議の後でだった。

「閣下、お耳に入れておきたいことがございます」

 相変わらず表情の読めない顔をしている。

 この鉄壁の無表情が崩れるのは、世界が終る時ぐらいなものではないだろうか。

「どうした」

「議員連中からの陳情なのですが、少々興味深いので……少しお時間よろしいですか」


 陳情の内容は、そんなに込み入ったものではなかった。

 商人たちは国内外で幅広く商売している。

 しかし、大きな商いを手掛ける者は盗賊に狙われやすい。

 特に隣国の平原を主な拠点としている馬賊は、馬を使って広く出没する。

 この対策のために、護衛をつけてもらえないかという話だった。

「……馬か」

「はい。閣下が、機動力確保のために、大量の騎馬兵がどうにか組織できないかと仰られておられたので、これらの馬賊をとりこむのはどうかと思いまして」

「しかし、それほど規模は大きくあるまい」

「確かに、盗賊のようなあくどい事をするのは一部の者だけのようです。しかし、商人らの話によりますと、母体は数万規模の遊牧民族で、彼らは幼いころから、自分の手足のように馬を操るといいますし、馬の数だけでもかなりのものだそうです」

「……なるほど。どうやって取り込むかだな」

「はい。議員の中に長年遊牧民と取引を行っている者がおります。閣下がよろしければ、いつでも呼び出せるように待機させております」

 太政大臣には、オレが最初からこの話に興味を示すことがわかっていたようだ。

「よかろう。会ってみよう」


 現状を考えると、騎馬隊の編成はオレにとってはかなり急務だった。

 本国から持ってきた車両は大量にあるが、それを動かす為の燃料が底をつき始めている。

 野砲をはじめとした、火器関連の生産は軌道に乗り始めているが、車両などの開発はまだ進んでいない。

 機動力の面では、やはりまだ馬に頼らざるを得ないだろう。

 しかし、馬は高価な上、誰にでも扱えるわけではない。

 その点で考えれば、馬を扱う遊牧民族はオレの望んでいる騎馬隊に適しているといえるだろう。

 だが、問題はどうやって彼らを取り込むかだ。

 遊牧民族は決まった領地を持たないし、欲しいのは領地ではなく、馬と彼ら自身だ。

 できれば争うことなく、もろとも手に入れることはできないだろうか。


 他にもやるべきことは山積していたが、取り込みのための方策を立てるなら、なるべく早いほうがいい。

 オレがその老年の議員とあったのは、翌日になってからだった。

 現われた議員は、議員の中でもおそらく最年長ではないだろうか。

 議員は議会のたびに遠方からでも召集されるというのに、こんな高齢で大丈夫かと思いたくなるような老人だ。

「護衛を出してくれるのかね」

 開口一番、彼はそう言った。

「それも含めて、今日は件の遊牧民族について詳しく知りたい。あなたは長年彼らと取引していると聞いたが」

 オレの問いに老議員はうなずいた。

「ワシがちょうど、あんたらの年ぐらいの頃からずっと取引をしとる。民族の長とも顔見知りだ」

「取引というのは、どういった物を」

 太政大臣が横から問いかけた。

「羊毛や馬を仕入れる。こちらは茶などの加工品が主だな。やつらは同じ場所に長くおらんから、農作物なんかの野菜を栽培できん。それで、野菜なんかの代わりに、長く保存が効く茶がもてはやされるのさ。茶も野菜も同じだが、全く摂取しないと体調を崩しやすいでな」

「だが、彼らは盗賊でもあるのだろう。そういう者たちとも商売をするのか」

「いいや、それは一部のやつらだけだ。盗賊とは関わらん。だが、遊牧民は貧しいからな。族長もよくは思ってないみたいだが、背に腹は代えられんことも分かっとる。だが、ほとんどは真っ当なやつらだよ。羊を放牧したりして穏やかに暮らしてる」

 老議員はその民族に思いをはせているのか、目を細めている。

 馬を巧みに操る、数万規模の遊牧民族。

 彼らをどうやって組み入れるか。

「彼らは我々の傘下に入ることはないですかね」

 太政大臣はさらりと言ったが、老議員は驚いた顔をした。

「仲間に引き入れるってのか。ふうん……」

 しばらく腕を組んで考え込んだ。

「仲間に引き入れられりゃあ、商人たちも襲われずにすむ。そうなりゃありがたいが、難しいだろうな。まず、族長はうんとは言わないだろう。草原での暮らしに誇りを持ってるからな。……ただ、若い者の中には、こういう町暮らしに憧れる者もおるようだがね」

「そういう若者はどれぐらいですか」

「さあて……。だが、族長がうんと言わないことには駄目だ。やつらはなんだかんだ言っても、まとまってる。やつらを引き入れたいなら、族長と話をつけないことにはどうにもならんだろう」

「それはなかなか難題だな」

 オレの一言にまた、老議員はしばらく考え込んだ。

「……手がないことはねぇな。あんたが……大公様が音頭をとってくれるなら」

 老議員はこちらの顔色をうかがっている。

 全く、商人というのはなかなかしたたかなものだ。

 だが、彼らが長年育み、蜘蛛の糸のように張り巡らせてきた、人と人とのつながり、物と物とのつながりは、軍隊にはない貴重なものだ。

 軍人は他国を攻める時にしか国境を超えないが、商人というのは儲け話がありさえすれば、やすやすと国境を越えて、どこまでも物流の糸を伸ばしていく。

「よかろう。その策とやらを聞こうではないか」

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