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大公  作者: ヨクイ
第1章 姿なき主
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使者

修正版です。


 それは唐突に訪れた。

 いつもは新人と食事を運んでくるだけの衛兵が、オレの独房の扉を叩いたのだ。

「正気で生きてるか」

 何と答えたらいいのだろう。

「今さら何の用件だ」

 考えるより早く、苛立ちが言葉になった。

「お呼びだ。出ろ」

 用件は簡潔だった。

 腹立たしさに反発したくなる気持ちを抑え、オレは素直に従った。


 独房の前にのびる長い通路を歩く。


 長く失っていた感覚にめまいがした。

 オレは今、独房の外に出ているのだ。

 通された小さな部屋で、一人の男が待っていた。

 見たことのない顔だ。

「お前に役目を与えよう」

 男はにやにやしながらそう告げた。

 オレが何も答えないので、話を続ける。

「これがうまくいけば、独房から出してやっても良いというお墨付きだぞ」

どうだといわんばかりに、男はオレの反応を待っている。

ああ、そうかと思い当たった。

 この男は、オレがありがたがり、喜ぶと思って待っているのだ。

 だが、あいにくとそんな感情など欠片もない。

「どんな役目だ」

 思い通りの反応がないことが気に食わなかったらしい。

 男は一気に冷めた表情で、それでも内容を話し始めた。

 オレは、その話が進むにつれて、腹の底から笑いがこみあげてきて仕方がなかった。


 ――王がオレを大公領に遣わす。


 なんという茶番。

 王はオレが例の大公だと気づかず、大公領には偽物の大公がいると思っているのか。

「大公領に行って大公の正体を暴き、報告すれば良いのだな」

「そうだ。大公を語る輩に直接会って、偽物の正体を確認できれば、自由の身だ。もし王都にまで連れてこれるのなら褒美まで下される」

「そうすれば、オレはどうなる。この大公という身分は保障されるのだろうな」

「それはどうかな。そこまでは聞いていない」

「……偽物の正体を確認すれば、自由の身だな」

「そうだ。それは保障する」

 身分が保障されれば言うことはないが、高望みはするまい。

 牢獄から出てしまえば、なんとかなるだろう。

「引き受けよう」

 男はさも当然のように頷き、部屋の外にいる衛兵に声をかて、手続きを済ませる。


 これからオレは大公領に向かうのだ。

 このような形で牢獄を出ることは考えていなかったが……。

 ようやくかの地の土が踏めるというわけだ。

 武者ぶるいがする。


 ついに主の帰還だ。

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