錬金術師
修正版です。
「なんちゅう、注文じゃあ」
役人が伝えてきた命令を、頭の中で何度も繰り返しながら、ううむと腕を組んで考え込んだ。
そこは錬金術師が借りている部屋だった。
家にあった道具(他の人が見たら何だかわからないようながらくた)もすべて持ちこんだので、そこそこの広さがあった部屋もあっという間に埋まってしまった。
給料は支給制。
豪勢ではないが、元宿屋出身のおかみが作ってくれる、うまい飯が三食付いて、さらに研究のためのに必要な部屋も、最低限の家具までついてくる。
おまけに必要な経費はすべて大公様負担。
ただひとつの条件――それは「言われたものを開発する」こと。
彼の知り合い(決して友人ではない)の錬金術師は、貴族の後ろ盾を失ったので、弟子をつれて、この大公領にやってきていた。
やつの顔を見たときには正直嫌な気がしたのだが、どうせ建物の中は広いのだ。
それに、日がな一日研究に没頭しているのだ。
部屋にこもっていれば、お互い顔を合わすこともあるまいと思いなおした。
彼らは火薬を改良する命を受けたと他の錬金術師仲間に自慢げに話していたが(本来は他言無用だ)、彼のところに下された命令は何とも拍子抜けするようなものだった。
――芋から酒を造れ、と。
……酒は嫌いじゃない。
いやむしろ、好きだ。
年中金がないのでほとんど口にすることはないが、飲めと言われれば喜んで飲む。
酒好きだと言っても過言ではない。
しかし、なあ……。
芋から酒、芋から酒……と、錬金術師の男は今度は呪文のように繰り返した。
呪文のように唱えたところで出来上がるわけではないのだが、思案しているのだ。
そんなものができるのか。
もし芋から酒ができるなら、今よりもっと安価に酒が手に入るかもしれない。
しかし、なぜ芋なのだろう。
芋じゃなくったって、水でも土でも、その辺の雑草でもいいではないか。
だが命令は、芋。
大公様だか、その辺の偉い人だか知らないが、この命令を出した人物は、相当な芋好きなんだろうか。
あるいは……。
「あるいは芋から酒ができることを知っているか、だ」
錬金術師は、かつて見た大公軍の兵器を思い浮かべた。
ほんの偶然だったが、目にすることができた彼らの兵器は、どれも見たことがない物ばかりで、彼の好奇心を強く刺激した。
あれは一体なんだ。
何でできているんだ。
どういう仕組みになっているんだ。
思い出すと、鼻のあたりがむずむずする。
しかし、今は目の前の研究に集中しなければならない。
ここで成果をあげれば、いつかはあの兵器の素材と向き合う機会もあるかもしれぬ。
その日のために、まずは、芋から酒を作る方法を考え出さなければならない。
「さあて……と。まずは、とりあえず……芋だな」
大きなひとりごとを言いながら、錬金術師は早速、芋から酒を造る研究にとりかかった。




