議員
修正版です。
議員の一人は、落ち着かない様子でその建物に足を踏み入れた。
その建物はもともと、この地の貴族が所有していた立派な邸宅だ。
家財道具などはほとんど残されていないが、広い食堂は「会議場」と名付けられ、事前に申請を出せば、会議に出席する議員たちは特別にこの建物に無料で宿泊することもできる。
ただし、食事はつかない。
長く生きてみるもんだ……と思いながら、彼は「会議場」を目指した。
最近特に出っ張りが気になり始めたお腹のせいで、短い階段でもすぐに息が上がる。
やれやれと足を踏み入れた会議場には、既に見慣れた顔が何人か席についていた。
「やあ、どうもどうも」
汗をふきふき、自分も席に着く。
それにしても立派な椅子だ、と思いながら。
目の前にある長机にしたって細工がとても美しく、値段を考えるとおちおち肘をつくこともできない。
「おお、恐ろしい」
口に出して言うつもりではなかったが、声になってしまったらしい。
「どうしました」
隣に座っていた、顔見知りの男が尋ねてきた。
「いやいや……」
言ってしまっていいものか躊躇われたが、周囲にいるのは商人ばかりだ。
口にしてもかまうまい、と思い直して、広がった額の汗を拭いた。
「いやあ、この長机は一体いくらするんだろう……ってね。私などはこういう家具についちゃあ門外漢だが、さぞ値がはるんだろうって考えたら、おちおち肘も付けねえな、なんて考えちまって」
周囲の者たちもそれとなく聞いていたのだろう。
みな笑いながら賛同するように頷いている。
「全くだ。貴族ってぇのは、生まれ持っての贅沢屋だからな。いかに楽して金を手に入れて使うかってことしか考えてない。だが、オレたち商人はいかに節約して、いいもん作って、儲かるかってことを一番に考えてる。貴族様とは性根のとこから違うのさ」
違いないとみんなが笑う。
あとから部屋に入ってきた者たちも、何の話だとばかりに、話に耳を傾けている。
「正直なところ、大公様には感謝してる。貴族のやつらの名目上の税金ってやつには、本当にうんざりしてたんだ。次々なんやらと理由をつけて、金を巻き上げていきやがる。それに比べて、大公様は決めたら決めた分だけしか、金を徴収しない」
「つぶされた市場も建て直されて、元の活気が戻ってきたしな。戦争で家を離れた知り合いも大分戻ってきた。だが、まだまだ大公様は領地を広げるおつもりなんだろうな」
「オレの村からも多く志願兵として、出ていった若者がいるよ。なんでも三食食事がついて、服も支給されるって言うしな。貧しい家の二男三男や、大公様のご威光を借りてのし上がってやろうってえ若もんが志願してるらしい」
「それはうちの町も同じよ」
それぞれ別々の町で商売を営む者たちが、自分の町自慢のように、熱く語る。
「武器製造の方も、さぞや金まわりがいいんじゃないかね」
誰かのその一言に、隅に座っていた男が顔を上げた。
「馬鹿みたいに忙しいな。あまり詳しいことは口にできないんだが、大公様はあれこれ注文が多くてね……。今は上からの命令で、財閥を作って効率化を図っている」
一同がどよめいた。
「財閥っていうのは何だね」
「今まではそれぞれ別々だった武器製造や開発……そういう、軍に関連する商売をとりまとめて、ひとつの大きな店にしちまったのさ。上からの命令で円滑に物が作れるようにってことでね」
「へええ……そんなもんがあんのかい。大公様もかなり力を入れてるってことだな」
財閥についてもっと突っ込んだ話を聞こうと、男が口を開いたところに、軽やかなラッパの音が響いた。
大公の意向を受けた役人が到着したのだ。
開かれた扉から、簡素な服を着た役人が入ってきた。
役人自身は気取らない様子だが、商人たちはそうではない。
その役人の一言で、自分たちの首が飛ぶかもしれないのだ。
「始めましょうか」
役人が席に着き、議会の始まりを告げる。
言いたいことは山ほどある。
そのために、自分の商売を持ちながらも「議員」という役割を引き受けたのだ。
自分の商売のため、それは大きな目で見ればこの町の活性化のため、そしてそこに暮らす人々のために、彼はここに来たのだった。




