静観
修正版です。
補佐官の報告を、オレは目を閉じて聞いていた。
――とうとう国王も動き出したか。
国王はまだ、「大公領で大公を名乗る者」と「大公という称号を与えられた独房の男」を同一人物として結び付けてはいないようだ。
ここで首を切られればそれまでだが……。
その時はその時だ。
潔く首を切られるのもまた、一興だろう。
大公領は広がったが、まだ領土内は安定とは程遠い。
今、国王軍に攻め込まれれば、今ある兵器を持ってしても勝つのは難しいだろう。
国王軍の規模は大きい。
長期戦になれば弾薬等も底をつくし、何より兵士の数が圧倒的に不足している。
商売をしやすいこの領土内には商人たちが大量に出入りしているが、農民は自らの耕地を離れない。
併呑した国の兵士や傭兵、志願兵も増えてはいるが、まだまだ足りないのだ。
それに本国式のやり方を覚えさせるのに、ある程度時間がかかる。
工廠では、ライフル銃だけでなく、野砲などの大量生産も始まっている。
しかし、武器を大量に用意しても、それを扱える兵士がいなくては、話にならない。
それにしても。
王から遣わされた使者たちは大量の兵器を目にしたらしいが、どこまでその威力がわかったものやら。
戦車を小さな砦のようなものと勘違いし、自走砲などは馬でひく、馬車のようなものかと言ったらしいが。
なかなか面白い発想だ。
オレが流行り病だという話はどこまで信用しただろうか。
むしろ、補佐官が「大公という男を操っている」とさえ思ったかもしれない。
それはそれで、王にとってみれば、戦争の口実にできないこともない。
王がよこした親書には美辞麗句がならべられていたが、そんなものは見せかけにすぎない。
「国王のため善戦を重ねる奮闘してる大公を宮殿に招き、褒美をとらせたい」とあったが、それは仮病でなんとかなるだろう。
謎の大公を呼びつけて、忠臣か奸臣か、その人物像を見極めてやろうという狙いは明らかだ。
王がどこまで静観してくれるかだが……。
オレの首がつながっていれば、いずれは対峙する日が必ずくる。
だが、まだその時ではない。
王がオレの存在に気付くのが先か、オレが地固めするのが先か。
命がけの運だめしというわけだ。




