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大公  作者: ヨクイ
第1章 姿なき主
15/80

修正版です。


 北の大国は陥落した。

 しかし、開いていた異空間の”窓”を閉じれば、灰色の世界。

 髭も髪も伸びた。

 体力が落ちないよう、狭い空間の中でできる鍛錬は怠らないが、それでもオレは身体の衰えを感じざるを得なかった。

 時折、まだこれは夢でないかと思うことがある。

 オレは本当は、本国の敗戦の後、捕虜として捕えられて薬漬けにされ、頭がどうかしてしまっている……そんな光景を頭に思い浮かべたこともあるし、夢でなら何度も見た。

 しかし、朝は必ずやってきて、石壁に刻まれたいびつな傷を見るたびに、オレはここに確かに存在するのだと思い直す。

 オレはいつでも、異空間の”窓”を開くことができるが、他の独房にいる者はそうではない。

 この独房に居ながらにして要職についた異能者たちは、毎日オレがつなげる異空間を通じて部下から報告を受け、新たな指示を出すことに忙しい。

 時には領土内の政策について意見を交わすこともある。


 この独房にいるかなりの者たちが、オレに従う意思を示している。

 今現状、実際に動いてもらっている者は一部だが、いずれ、その者たちも能力を見極めて、それぞれの職に就けるつもりだ。

 賛同する誰もがこの国の王を恨み、そして、生受けた者として何もできない苦しみを感じている。

 人は生きている限り、何かを成したいと思うものだ。

 生きている証という者もいれば、はっきり口には出さないが、ただ欲望のため、願望を目的とする輩もいる。

 しかし、時にはオレが異空間から見せるこの国の現状を受け入れず、頑なに自分の世界にこもろうとする者や既に精神を病んでしまった者もいて、それはすべてに当てはまるけではないが……。


 オレたち異能者はこの国へ連れてこられた。

 ここへ来たときには、夢か幻かと思った。

 やがて現実だと分かると、オレは偶然この国に紛れ込んだのだと思っていたものだ。

 しかし、事実は違う。

 オレたち異能者は、この国の王に囲われた魔術師によって、強制的に引っ張ってこられたのだ。

 その詳しい方法まではよくわからないが、オレが最初に見た部屋は、何かの儀式がおこなわれる、そういう役割の部屋だったのだということを、ずいぶん経ってから知った。

 もともと本国で生まれ、軍隊にいたときには、オレには変わったところなどなかったはずだ。

 異能の力など、知りもしなかった。

 それをどうやって選別し、異能者だけをこの世界に連れてきたのか……。

 そもそもオレの異能の力はいつ発動したのか、それとも最初からこの体の中に存在したのか。

 多くの謎はまだ、解明されないままだ。


 この世界には、オレの知らなかった、魔術だの異能だのという不思議なものが実在する。

 本国の人間が聞いたら、オレの頭がおかしくなったと思うようなことばかりだ。

 しかし、実際にオレはこの力を使い、諸国を制圧した。

 オレは異空間を通じて、自分の領土を見ることしかできない。

 触れることもできず、ただ、そこから漂ってくる風の感触、土くさいにおい……そんなものを頼りに、かの領土を統治しているのだという思いを、毎日新たにする。


 手に触れることのできない、踏みしめることのできない、オレの領地。

 いつか自分の足で、あの地に行ってやる。

 必ずだ。

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