老兵老いて未だ朽ちず
修正第2弾です。
髪に白いものが混じったその男は、もう初老と言ってもいい年頃だった。
しかしその鍛えあげた肉体は、まだ若い男たちと変わらない、いや、それ以上のものだと自負している。
履き古した軍靴を、傷みを感じさせないほど艶やかに磨きあげ、長い軍隊生活で身にしみた几帳面さは、きっちりと整頓されたこの部屋そのものだった。
ふと書類から目をあげ、声が響いてくる方に目をやる。
外では、新たに志願してきた新兵たちが訓練を受けている。
聞こえてくる声で、それと分かるのは、教官として新兵を指導しているのが、よく知っている男だからだ。
立ちあがって、窓辺に歩み寄った。
支給された揃いの服に身を包んだ新兵たちが、整然と並んでいるのが見える。
教官の若い男がよく通る声で怒鳴っている
彼は最初、この任務を任された時、乗り気ではなかった。
それは自分も同じだ。
長らく軍隊の最前線で活躍し、闘ってきた。
将軍閣下……いや、今は大公様とお呼びするのか。
――大公様の命は絶対だが、心中は複雑だった。
例え年老いても、新兵の教育係より、自分には前線が向いている。
そう思っていた。
しかし、この数カ月でその考えが少しずつ変わりつつある。
この国には……この大公領には、無限の可能性がある。
集ってくる志願兵たちは、誰もが意欲に燃えていたし、きつい訓練に弱音をあげる者もいない。
銃器を知らない者たちに一から扱いを教えるのは大変だが、実際に大公様の快進撃を知っている新兵たちに戸惑いはない。
むしろ目を輝かせて、新しい技術を吸収し、本国式の軍隊教練に必死で食らいついてくる。
良い軍隊ができる。
彼はそう確信していた。
彼が退いた前線の部隊は、今や親衛隊と名称を変え、まだ周辺の小国相手に快進撃を続けている。
その親衛隊を支える輜重軍の立ち上げにも深く携わった。
前線で戦う誇り高き親衛隊に対する未練と嫉妬心は今もまだ胸にくすぶっているが、今の任務にもやりがいを感じている。
おそらく、志願兵と直接向き合っている、あの教官の男も同じであろう。
「隊長、お時間です」
声をかけられ、我に返った。
どうやら、少々考えにふけりすぎていたようだ。
部下に対して何事もなかったように頷き、踵を返した。
訓練を終えた兵たちの中から、選抜した数名の兵士を幹部候補生として、さらに高い教育を施す。
人員にそれほど余裕がないため、その幹部候補生たちの直接指導の一部を、自分自身で行わなければならなかった。
親衛隊から、教育指導にあたる者として割かれた人数は決して多くはないのだ。
しかし、この場所に配属された以上、必ずや結果を出してみせる。
大公様に、最高の部隊を献上してみせようではないか。
それがいずれ、親衛隊を凌駕するような部隊になることが、自らの誇りになるであろう。
ここで一生を終えるのであろう自分の人生を、それに賭けるのはそれほど悪くないことのように思われた。




