飢狼
修正第2版です。
最果ての地にある町を制圧してからも、態勢を整えながら、我が軍の侵攻は少しずつ進んでいた。
この国の国王が支配する広大な王国領の北側には、王国と敵対する大国の国土が広がっている。
その王国と大国は完全に隣接しているわけではなく、その間を埋めるように小国がひしめいていた。
最初に制圧したから始まり、我が領土――大公領とでも呼ぶべき領土は、この周辺の小国を吸収しながら、次第に拡大しつつある。
無論、王国と大国の領土に比ぶるべくもないほど小さな範囲で、しかも、王国に属する小さな領土だ。
現在、我が軍は最初に制圧した町から拠点も移し、大公領の拠点都市を新たに定めた。
独房の石壁に刻まれた地図も少しずつ大きくなり、制圧した地域を示す十字の模様も少しずつ増えている。
文部大臣発案による新たな宗教の布教活動も進み、短期間で次々と小国を吸収していく「誰も見たことのない大公」に対して、心酔する者も増えてきているという。
「くっくっく」
思わず笑いがこぼれる。
その心酔する大公様が、王国領の独房の中にいる、無精ヒゲを伸ばした不潔な男だとわかったら、どうだろう。
無論、そのことは一切伏せられていて、漏れることはないのだが。
志願兵の数も順調に増えている。
短期間で訓練することは難しいが、一部の志願兵は輜重兵として、既に本体部隊の後方支援に回っている。
本国から連れてきた軍隊は、小国平定に奮闘してくれているが、いつまでもこんな闘いを続けるつもりはない。
もともと本国から配給されていた弾薬は豊富にあったが、無尽蔵ではない。
そこで目をつけたのが、この国の錬金術師という存在だった。
錬金術というとまるで魔法のようだが、この国における錬金術師というのは、どうやら科学者や研究者のような者たちらしい。
この牢獄にいる、元は本国の技術者と相談し、この国の技術力でも作ることが可能な武器を考えた。
初期のライフル銃だ。
この国にはまだ銃器というものが存在しない。
いや、正しくはこの世界に、と言ったほうがいいだろう。
それが、少数でも破竹の勢いで周辺の小国を制圧することのできる、何よりも大きな原動力となっているのだ。
初期のライフル銃とそれにこめるための弾薬。
大公領に引き込んだ錬金術師たちにその技術を伝え、この国の資源を使って同等の物を開発させる。
それを大量生産し、志願兵たちに装備させるのだ。
既に、本国から連れてきた軍隊には「親衛隊」の名称を与えた。
これで、この国の志願兵たちと区別をつける。
いずれは、親衛隊を大公領直下におき、志願兵たちを新たな主力部隊に育て上げるつもりだ。
そのためには、さらなる資金が必要だ。
名ばかりの貴族など必要ない。
力のある商人たちを掌握するための新しい体制を構築する。
今まで野放図だった商売をすべて管理下におき、無法者たちが勝手に地代など徴収できないようにする。
店を出すための場所を確保し、よくわからないような名目の徴収はすべてなくす。
市場に質の悪い硬貨が出回らないようにすることも必要だ。
今まで貴族たちに流れていた金を直接吸い上げるようにすれば、一気に莫大な資金が入る。
貴族たちは憤慨するだろうが、もともとこの王都の税収の仕組み自体がずさんなのだ。
抵抗する貴族には容赦ない報復を与え、やむを得ない場合はこの世界から消えてもらう。
収入を見込めなくなった貴族たちは王都へ行き、さらなる富を求める商人たちが、この大公領へ入ってくるというわけだ。
軍備や物資の安定供給のためにも、商人たちの力が不可欠だ。
無能な王がぐずぐずと内乱や国境付近の小競り合いに手をこまねいていてくれるおかげで、こちらは万事順調に進んでいる。
広大で華やかに見える王都も、中をのぞけば借金だらけ。
外側はきれいな殻に覆われているが、中身は腐った卵のようだ。
短期間で小国の吸収が進んだため、もともと仲が悪かったそれぞれの小国同士はまだ同盟を組むこともできずにいる。
のんびりしていれば、やがては同盟を組み、厄介なものになるだろうが……。
そんな時間を与えてやる気はない。
このまま勢いに乗って、全てを平らげるぞ。




